39話 グリーミーの弔い
「死霊術師としてこれ程類い稀無い才能を持った者をこの手に掛けることになるとは非常に残念です……。ですがこのような歪んだ思想を持っていては例え生かしたとしても世に害を及ぼすだけでしょう」
「サラさん……」
長い沈黙を破り目の前に倒れているグリーミを手に掛けた本人であるサラが少し残念そうな口調で言葉を発した。
あれ程明確な敵意をこちらに向けて来た相手といえどやはり同じ死霊術師の命を奪うのは本意ではなかったようだ。
「さて……では悪霊の憑依が解けた者達の無事を確かめに行きましょうか。悪霊の憑依によって衰弱した肉体も回復させなければなりませんし彼等の身に起きたことの経緯についても説明しなければならないでしょうしね」
「それならば私に任せてくれ。悪霊の憑依が解けたのなら私の治癒魔法で皆を癒せるはずだ」
「ありがとうございます、グナーデ。ではそちらはあなた方にお任せてして私は先にグリーミーの遺体の埋葬を済ませることにします。エリクサーのポーションを渡しておくのでコンやフォンシェイ達も皆の回復を手伝ってあげてください」
「分かりましたっ!、サラさんっ!」
「あっ、それなら僕はサラさんの方を手伝おうよ。1人で遺体を運んだり穴を掘ったりするのは大変だろうからね」
「ふっ……気を遣ってくれてありがとう、コン。……ではそれぞれの作業が終わり次第屋敷の入り口の広間に集合することにしましょう。攫われて来た者達もそこに集めておいてください」
「了解っ!」
攫われた者達の回復より自身のグリーミーの埋葬を手伝うと言うコンにサラはこれまでない自然な口調でお礼を言っていた。
自身が最も信頼を寄せるべき僕である死霊からの気遣いにグリーミーを手に掛けて憂鬱になっていた気が少しは晴れたようだ。
その後皆それぞれの割り当てられた作業へと向かって行ったのだが……。
「ふぅ〜……もうちょっと穴を大きく掘った方がいいかな、サラさん」
「そうですね……。私はグリーミーに手向ける花を摘んで来ますので掘り終ったら穴の中に遺体を寝かせておいてください」
「了解っと……。敵だった人にまで花を手向けるなんて優しいんだね、サラさんは。……よいしょっと」」
サラの手伝いに来たコンは屋敷の倉庫からシャベルを拝借し裏庭の方にグリーミーを埋葬する為の穴を掘っていた。
サラは花壇の方から埋葬する遺体に添える為の花を摘みに行ったようだが……。
「……これくらいでいいですかね」
「随分と沢山花を添えたね、サラさん。敵だった人の為にそこまでしてあげるなんてやっぱり相手が同じ死霊術師だったから?」
「いえ……そういうわけではないのですが……。あとあなたの魔術でこの香木に火をつけて貰えませんか」
「……っ!。この人の為にお香まで焚いてあげるのっ!。一体どうしてそんなことまで……」
コンの掘った穴に寝かされたグリーミーの遺体の周りに花を敷き詰め終わったサラは、更にちょうど庭に生えていた香木の枝を折ったものをコンへと差し出し火を点けるよう促した。
どうやらこの世界でもお香を焚いて死者を拝む習慣があるようだ。
何故サラが敵であったグリーミーをそこまで手厚く葬るような真似をするのかコンには理解できなかったようだが、取り敢えずサラから香木を受け取ると魔法で火を点け胸の前で合わせたグリーミーの両手に持たせるようにして上に置いた。
「こうまでしなければここまで思想の歪んでしまった彼女の魂を浄化することはできないのです。ただ埋葬するだけではこの地にこれまで以上の負の霊力を残しまたこの屋敷を悪霊達の巣窟へと変えてしまうでしょう」
「そっか……。やっぱり人の死を弔うのって大切なことなんだね。僕の生きてた時代でも皆もっと盛大な形で葬式を上げていたし……」
「ですが真に浄き魂を持った者は他者の弔いがなくとも自らの意志で霊界へと帰っていくものですよ。グリーミーのように特に知り合いでもない……それも敵であった者にこれだけの弔いをさせるなど感心できることではありません」
「えっ……じゃあサラさんは嫌々この人の為に花やお香を手向けたりしているの?」
「ええ……大変面倒くさく思っています。……さぁ、後はこの浄めのオイルを遺体に撒いて焼けば弔いは完了です。最後にもう一仕事お願いしますね、コン」
「……っ!。わざわざ遺体を焼いてから埋葬するのっ!。悪霊になるのを防ぐ為とはいえ確かに敵だった人の為にそこまでしなきゃらないのは面倒くさいね……」
サラの指示を受けてコンは再び今度は強めの火属性の魔法を放ち、サラの魔力で浄められたオイルの掛けられたグリーミーの遺体を焼いた。
その遺体の焼ける光景を神妙な面持ちでジッと眺めるコンとサラだったが……。
「ねぇ……サラさん」
「……?、どうしました、コン」
「さっきこの人に向けて言ってたことについてだけど……サラさんが僕のことを駒として利用してるのは同じっていうのは……」
「……その言葉であなたを不快な気にさせてしまいましたか……コン」
「い……いやっ!、そういうわけじゃないよっ!。同じだと言ってもサラさんのこの人が全然違うってことは僕にも分かってる……。でも反対に僕とあの悪霊を憑依させられた人達の違いは何なのかなって考えちゃって……。僕達だってサラさんや主の言うことを聞かなきゃいけないってことは同じでしょ。勿論僕の方が全然幸せだってことは分かってるんだけど……」
「それは……上手く伝えることができるかどうか分かりませんが強制的にグリーミーの配下にされた者達と違ってあなたはこの世に蘇ることに何か意味を見出したからこそ私の僕となることを受け入れてくれたということです」
「蘇ることの意味……それって一体何なの?」
「それは私にも分かりません……。ですが死霊となる者は必ずこの世にやり残したことやこれからの時代で成すべきことをその魂の内に秘めているのです」
「やり残したことや成すべきこと……そんなの言われても全然思い浮かばないよ……」
「心配せずともそれは自ずと分かってくるはずです。そしてあなたが私の僕として尽くしてくれる以上私も必ずあなたの果たすべき目的の力となることを誓います。それがあなたと彼等の明確な違い……。私の言いたいことが分かってくれましたか……コン」
「サラさん……うんっ!。とにかく僕がサラの力になるだけじゃないくてサラさんも僕の力になってくれるってことだね。そんなの初めから分かってたけど改めて聞かせて貰えてなんだか安心したよ」
サラの強く暖かみのある言葉を聞いて少し不安に駆られていた心を和ませたコン。
以前は少しそっけない態度を取っていたが、夢で見た自身の大切な人を蘇らすことを了承してくれたのもやはり自分のことを思い遣ってくれてのことなのだろうと感じ色々と嬉しい思いが込み上げてきていたようだ。
サラとの信頼関係が深まっていくのもより実感できていたのだろう。
恐らくサラはグリーミーにもこのような死霊術師として正しい姿になって欲しかったのだろうが……。
「あっ……そうだ。一応さっき亡くなる前にこの人がなくなる前に宝がどうって言ってた鍵を貰っておいたからサラさんに渡しておくね。どんなものか分からないけど折角だから後で鍵を使うところを探してみようよ」
「そうですね……醜い命乞いの言葉だと聞き流していましたが確かにこれ程の腕を持った死霊術師なら貴重な宝を所持していてもおかしくはありません。もしかしたらあの弟子にしてくれた言ってきた者が持っていた資料があるというのも本当の話かも……とにかく後で探してみることにしましょう」
「うん」
そうしてコンとサラはグリーミーの遺体が燃え尽きるまでの間ジッと2人で見守っていた。
そしてそうしている間にグナーデ達も憑依が解けた者達の回復を終え、意識が戻った者達と共に屋敷の入り口の広間へと集まって来ていたのだが……。




