第二十六話 魔色試験
「いいだろう」
キーラが投げて寄越したクズ獣核をキャッチし、腰の後ろに回していたウエストバックから椀を一つ取り出し、その中にクズ獣核を転がした。
「獣核や魔核は六大属性のどれかに属しているわけだが、実は人が持つ魔力にも属性が存在する」
「それって、オレやキーラの内包魔力に火属性とか光属性とかがあるってことか?」
「その通りだ、ケイン。属性判別をするには、二つの属性魔力を混ぜ合わせて変化を呼び起こすことで確認することができる」
簡単に説明しながら、アオイが胸を切り開いたデミラプルの側へと歩いていく。
「内包魔力に属性が存在するということは、〈真影〉が持つ能力発現の方向性にも関係してきそうだな」
「ゼクス、それはどういうことですか?」
「例えば火属性の内包魔力を持つものが、水に関係する能力を欲してもいい結果に繋がらないってことだ……そういうことだろ、ラグナ?」
「そういうことだ。他にも〈魔法紋〉を刻んだ魔道具との相性も変わるし、それを考慮して作られた魔道具は使用者によって性能が大きく変わる」
横倒しになったデミラプルの首をワシ掴みにし、捻りあげて斬り口から滴り落ちる鮮血を椀に注いでいく。
その異様な光景に、キーラたちの会話も自然と止まる――。
「獣核を体内から抜き取ってしまえば、それは魔力を生み出す赤い宝石に過ぎない――だが、本来これは体内で生きる臓器だ。魔獣の血に沈め、その状態に近づけてやる――」
椀に注がれた鮮血の中にクズ獣核を沈めると、魔獣の鮮血を吸って瑞々しくもさらに赤々と輝きを増していく。
「――この状態にした上で二つ目の属性を加えると、獣核の周囲に変化が起きる」
魔剣ローグとは別の、もっと刃渡りの短いナイフを取り出し、親指の先を少し切って血を一滴だけ鮮血に浸るクズ獣核へ落とす。
真っ直ぐに落ちていく一滴を、椀を覗く五人の視線が追う。
そして俺の血がクズ獣核の上で弾けた瞬間――闇色の煌めきが波紋となって椀に注がれた魔獣の鮮血に走った。
「今のは俺の内包魔力が属する闇属性の波紋だ。見て判る通り、異なる属性が足された場合には波紋が走り、同一属性の場合は椀の中の血と獣核が共に光る」
「お、オレもやってみていいか?」
「わ、私もやってみたいです!」
「自分の属性を知ることは重要なことだ。試してみるといい」
俺のナイフをケインに渡し、同じように血を垂らしていく。続いてフレイヤ、キーラ、アオイ、ゼクスと、結局五人とも面白がって自分の属性を確かめることとなった。
この獣核や魔核、そして内包魔力の属性を知る方法を、俺は魔王になる以前――錬金王と呼ばれていた頃にはすでに知っていた。
“魔色試験”と呼ぶこの属性テストは、魔族の子供が生まれた時に行われる伝統的な儀式となっていたが、狩りの対象としてしか見ていなかった人族からすれば、魔族の風習や伝統など興味もないだろう。
ちなみに彼らのテスト結果だが、ケインが土、キーラが火、アオイが水、ゼクスが風、そしてフレイヤが光属性だった。
「しかしこれは興味深いことだな、自分の属性と一致した獣核を使えば、やはり〈真影〉の能力にも影響が出るのだろう?」
「それは当然ですの。けれど、召喚に使用できる獣核を個人で複数用意するのは簡単ではありませんのよ」
「――軍部や騎士団なら可能」
「これは親父にも教えてやらなきゃ……どの属性がどの魔道具と相性いいのか、全ての製品を一から研究し直す必要があるぜ……」
「ラグナさんの知識は本当にすごいです。このようなお話は王城の学者たちからも聞いたことがありません」
五人とも自分の属性を知り、装着している獣核を魔獣の血に浸けて属性の確認までし始めた。
やれやれ、人族の知識にはどこか偏りを感じていたが、ここまで魔力について無知だとは……〈召喚〉、そして〈真影〉という力を手にいれたが、その本質が一体なんなのか、どのような仕組みによって奇跡を実現しているのか、それを全く研究していないとはな。
目先の力に溺れた愚か者ども――俺はどこか冷めた目で、ケインたちの向こう側に存在した人族の歴史に想いを馳せていた。
未開領域での探索初日は、課題達成となるほどの獣核を入手することが出来なかった。
やはりセブンズジェムの騎士科と召喚科が合同で行っているだけあり、未開領域の浅部は獲物の取り合い状態だ。
俺たちのパーティーは〈真影〉の使用を控えていたが、未開領域のあちこちから大きな砲声や樹々を引き倒す大きな音が響いていた。
だが、それも数時間前までのこと、陽が落ちてからは順番に見張りを立てながら野営をしている。
火を起こし、魔除けの香を放り込んで安全地帯を作り出す。その上に鍋を掛け、携帯食料と水を放り込んで夕食を作る。シグル砦で手にいれた未開領域の簡易地図を広げ、明日の探索ルートを検討しながら休息のひと時を過ごしていた。
俺は密かに配置したヘリアルたちに周囲の偵察も兼ねて監視させているのだが、いつ襲われるかもしれない緊張感は、ケインやキーラたちにとって良い修練になるだろう。
「明日はもう少し奥に行きますの。〈真影〉も使い、大型を追ってライバルたちの先を行きますのよ」
「――それがいい」
「ですが……私の〈真影〉は浅部の森林地帯で使うにはその……」
「ラグナの〈真影〉は飛空挺だったけど、フレイヤの〈真影〉もやっぱ大きいのか?」
「いえ……ラグナさんほどは巨大ではありませんが……」
フレイヤは俺と同じ――ということになっているが、正真正銘の魔核を使った召喚を行使する。
獣核による召喚と比べ、〈真影〉の能力や大きさは比べ物にはならない。
何か言いにくい能力でも持っているのか、フレイヤは俺と一緒に見張りをしているゼクスに視線を向けている。
「しょうがない……フレイヤの〈真影〉を召喚した場合、お前らは必ず下がって距離を取れ、間違っても近寄ろうなんて思うなよ?」
「よほど危険なようだな」
ゼクスに追随するように、焚き火を囲むフレイヤたちと合流する。
「フレイヤの〈真影〉は騎士型だが……いや、いくら説明しても自分の目で見なきゃ判らんか……だが、〈真影〉を召喚するときには周囲に他のパーティーがいないことも十分に確認してからだぞ。森の樹々に遮られて見えませんでした、ではすまない事態になるからな」
「よく判りませんが、判りましたの。明日こそは大型を仕留めて南部遠征を終わりにしますのよ!」
「オッ〜!」
「んッ!」
「はいッ!」
入学試験の時にも召喚されなかったフレイヤの〈真影〉には強い関心がある。〈勇者召喚〉された異世界人の召喚も凄まじいが、内包魔力を十分に備えた人族が魔核で召喚する〈真影〉も十二分に脅威だ。
それが早ければ明日、ついにその姿を見ることができる。へリアルたちが集める他のパーティやハンターたちの情報を整理しつつ、俺は研究対象の出現に錬金術師としての興奮を抑え続けていた。




