第三話
完全な目途は立っていませんが少し更新します
首都の北西側、中心部とは違い、自然が多く残されている場所でもある。
小高い丘がいくつかあり、また豊かな緑色の自然は、秋には味のある実りをもたらせてくれる貴重な食料源にもなっている。
また中心街からそれほど離れているわけでもないので、ピクニック気分で休日などを楽しむ貴族の姿もちらほらと見かける上、貴族専用の乗馬コースなども用意されており、ちょっとしたレジャースポットにもなっている場所でもある。
その場所にある一際小高い丘の上で、レオンは首都の街並みを見下ろしていた。
ここからだと、首都の一角を一望に出来るのである。
もっとも景色がいいといわれている時間帯は夕暮れ時だと人々からは評判が高いが、今の時間は夕暮れよりも少し前の時間であり、街の喧騒がここからでも聞こえそうなほど賑やかでもある。
高い場所にあるため、季節的にはまだ少し肌寒いと言う感じもするが、レオンにとっては心地よく、澄んだ空気を肺の中にためて、ゆっくりと味わっている。
時折風がレオンの体を優しく撫でつけ、過ぎ去っていき、そのたびにレオンの綺麗な金髪が風にたなびく。
「意外と早かったな守護」
そんなレオンに背中からかける声が合った。
声の質はやや高く、間違いなく女性と思わせる声質だ。とくに、にごりなくとても聞きやすい声でもある。
変わっていないなとレオンは思わず苦笑する。
しかし、今から相対する相手は、笑い事では済まされない相手である。油断をすればこちらが命を奪われかねない相手でもあるのだ。
ゆっくりと向き直り、自分に声をかけてきた相手も視界に入れる。
長く綺麗な銀髪に、荒い布で作られたと思える簡素なシャツに紺のズボン。
服装だけで言えば、農夫や平民がするような装いではあるが、それを着こなしている人物はそんな人達からとは全く無縁とも思えるほどの魅力を放っている女性である。
少しばかり耳が尖っている感じはするが、それも魅力の一つだろう。
琥珀色の瞳からは、どこか慈愛に満ちた光が溢れており、母性を思わせる。
「……貴方がこの街に派遣されているとは思ってもいなかったですよ。レイラさん」
相手の姿を認めて、その名を呼ぶレオン。
心のうちを読まれないように表情は変えない。
「手紙を読んでくれたようで何よりだ。破壊と幻想は連れてきていないのか?」
「一人で来いと言ったのは貴方でしょ? ご丁寧に何も知らない女学生を操ってまで」
心のうちから怒りが溢れ出す。
守護を基準とする正義感のあるレオンにとってはとても許せる行為ではない。
表情を変えないように意識はしていたものの、やはりまだまだ人間的には足りな部分があるのだろう。言動と共に態度がそれに現れた。
「心配するな。貴様の周りに下手な危害を加える気は今のところはない。ここは厄介だからな……下手に動くとあの鼻の聞く宰相がわれらの事を嗅ぎ付けないとも限らんし、魔法騎士に動かれるとさすがの私もお手上げだからな」
「用件は何です? 早いとこ本題に入ってほしいですね」
「なるほどな……我が組織を抜け出してから大分成長したらしいな……普通ならすでに精神が壊れていてもおかしくないほどの暗示をしていたはずなのだが……どうやって切り抜けた?」
「言うと思いますか?」
「今後の課題のためにぜひとも聞きたいところではあるが、その様子だと素直に喋ってもらえそうにはないな。しかし話を聞いた時にまさかとは思ったが……生き残ってこの街にいたとは夢にも思っていなかったよ。あの馬鹿二人が退けられたのもこれで合点が言った」
ゆっくりとレオンの姿を下から上まで観察するように目線を動かし、観察していくレイラ。
観察されているほうは、良い気分とはとてもいえない。
今こうして対峙しているだけでも、圧迫感があり、息苦しい思いをしているのだ。
しかし、以前の何も出来なかったような幼い子供とは違うのだ。
勝てないまでも逃げ切る自信はあった。ゆえにこうして相手の呼び出しに応じたのだ。
「さて、一応聞いておく。戻ってくる気はないのか?」
「そうしてまた人を操り人形にする気ですか?」
「行き場のないお前達に、生きる道を示してやっただけに過ぎん」
「物は言い様ですね……そっちこそいつまで組織の言いなりになっているんですか?」
「お前は見て見たくはないのか? 誰しもが魔法を使える便利な世界を……一部の特権階級だけが贅を凝らすのではなくスタートラインが皆平等な世界を」
「けどその世界は滅びました。歴史が証明していますよ。それにわかった事が一つあります。この世界に平等なんてものは存在しません。それこそ夢物語なんじゃないですか?」
平行線か……このまま話しても埒が明かない。レイラはそう判断して、説得を諦めた。
かつてのレイラの後輩であり、弟子のような存在である。
すでに成功者として活動していたレイラが初めて受け持った三人の少年達だ。
特にレオンは一番自分になついていて、何をするにしても自分の後にヒョコヒョコと着いてきた。
少しだけ過去を思い出すが、今更でもある。
「別に貴方達がどうしようと勝手ですけどね……神を復活させたきゃさせれば良い……だけどこの街にすむ恩人や、友達に手を出す事があれば全力で僕達は貴方を殺しにいきますよ」
宣戦布告とも取れる言葉を、かつての先輩に向かってしっかりと言い放つレオン。
「その様子だと私達がなんのためにここに来ているか……すでに承知と言うわけか……まさか貴様らがドローニン公爵の娘と縁があるななんてな。なんの後ろ盾もない人間が公爵様とどうやって縁を持ったのか興味はあるな」
厳密に言えば違うのだが、宰相と自分達の関係はまだ知られていないようである。
となれば、わざわざこちらから教える必要などない。
レオンは無言のまま相手を見据え、微動だにしない。
レイラもどうしたらいいか、思案のために少しばかり無言になる。
静寂さが二人を包む。
時折、街のほうからは喧騒が聞こえてくる。
「わかった……今日のところは挨拶みたいなものだ。我々は依頼を果たす。どんな障害があろうとな」
そういってレオンに背を向けて、森の中へとレイラは消えていった。
少しばかり緊張が解け、レオンは自分の手の平を確認すると汗でびっしょりとぬれているのが分かった。
取りあえずは見逃されたのかなと考えるが、考えたところで答えが出るわけではない。
今後のために、この事をヴァフルコフ公爵とあの二人に話しておかなければなと思考して、レオンは屋敷へと歩き出した。




