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一章~短編

 

 色々試行錯誤しての試しです。

 


 ファリス帝国首都アルブルグム。

 人口は帝国の首都なだけあり、約35万人とかなりの数に登る。


 首都の東側に大きな山脈が北から南へと続いており、その山脈から流れてくる川が首都を横断するように西側へと流れはるか西にある海へと繋がっている。


 この川を利用して、この街の商人たちは西側の国へと商品を運んだりもしている。

 首都の南には海と見間違うほどの大きな湖があり、その湖から様々な淡水魚が取れ、水晶などの珍しい鉱物も良く取れる。


 淡水魚は食料用や観賞用として、西の国には珍しいものとして良く知られており、高値で取引などされている。

 首都における平民の大多数は商人や貴族の下、そうした労働によって使役され日々の生活の糧を得ているのが現状だ。

 また首都の南西には穀物を作るための平野がこれでもかといわんばかりに広がっており、首都における食料の大半はここで賄われている。

 もちろん、この場所は皇帝の直轄地でもあるので、首都における平民の大多数はほとんどが皇帝に仕える小作人と言っても過言ではない。


 そして、この首都アルブルグムに居を構えている貴族の数は約1万人ほどであり、いわゆる彼らは支配階級に当たる身分を持つものである。

 とはいえ、全員が裕福な暮らしをしているかといえば、そうでもない。

 この中で裕福な暮らしをしている貴族は精々2割から3割といったところである。


 残りは良くて平民より多少良い暮らしをなんとか保っているか、下手をすればその日を暮らすための金に困っている貴族すら見受けられる。


 そんな貴族達は生活の糧を得るため、自らの遺伝に宿る魔法の力を利用して魔獣退治に赴き金を得るという一種の傭兵家業に手を染めている貴族もいる。

 しかし、それはプライドを捨てた貴族と蔑まれる事もあるので、誇りを持っている貴族はそんな貴族を馬鹿にしていたりするのだ。


 大きな川をはさみ北側、通称貴族街と言われているこの場所の一角に一際立派な建物がある。

 長くそして高い塀に囲まれ、正面の門には多くの武装した兵があたりを警戒している。

 門を潜ると綺麗に大理石で敷き詰められている道があり、その左手には庭師によってこれでもかと言うくらい整備されている庭があり、春の花を咲かせて屋敷を祝福しているように咲き誇っている。


 右側にはこれもまた目を見張るほど大きな広さを誇る芝生があり、体を動かすのにとても便利な場所である。


 そんな屋敷の芝生の上で、一人の少女が奇怪な叫び声を上げていた。

 しかし、この屋敷の警備についていると思われる兵達は全く動こうとはしない。


「いたっ! いたっ! ちょっ! ま、待ってくれ! 痛い! 痛い! いやあ! やめ! そこだめええええ!」

 黒髪の少女は必死になり逃げ回っているが、そもそも逃げる余裕すらない。

 できる事と言えば剣を動かし自分の身を守ると言う事だけなのだが、それすら全く出来ずに、涙目になりながら相手の攻撃に自分の体が蹂躙されていくのを許してしまっている。


「ああ! いやっ! ほ、ほんとに少し休ませてくれ! あまり激しくしないで……限界が……ああ! 痛いのはいやだー!」

 

 言葉だけを聞くとなにやら卑猥にも感じる事ができるが、内容は色っぽさとは全くの無縁である。

 相手の攻撃は収まる様子はなく、さらに過激さを増し、下半身から上半身まで次々と打たれ突かれ、黒髪の少女はついに倒れこんだ。


 体中汗で濡れており、息も荒く、喋る元気もないようだ。


「取り合えずこんなとこっすかね」

 少女の体に容赦なく剣を打ち込んでいた人物がようやく手を止めて声をかけた。

 少女はその人物を涙に濡れた目でキッと睨み付けたが全く持って迫力がない。


「よーやく終わったか。案外持ったな。結構上達してんじゃねえの?」

 そんな二人に灰褐色の少年が欠伸をしながら声をかける。


「そーっすね。以前だったらこの半分も持っていなったっすから、中々良い感じっすよ。そっちのほうはどうっすか?」


 茶髪の少年で背がやや低く、どこか眠たげな目を持った少年アラムが、灰褐色で目つきが悪いとも言える少年マルクに様子を伺う。


「向こうも相当疲弊してあんな感じだ」

 軽く親指でその方向を指し示すと、そこには金髪の少女が黒髪の少女と同じように全身を汗に濡らして息を荒くし倒れこんでいた。


「容赦ないっすねえ……少しは手加減したらどうっすか?」

 

 自分の事を棚に上げ、金髪の少女に対して同情の目を向けるアラム。

 

 二人の少女はこの屋敷の主と言える存在にも拘らず、このように倒れこんでいても、警備の兵は全く動く様子がない。


 なぜなら二人の少年もこの少女達の護衛であるからだ。


「ア、アラム! わ、私は、か、軽く流す程度に稽古をつけてくれ……はぁはぁ……と、頼んだはずだぞ……」

 黒髪の少女であるリーリヤが、少しばかり体力を回復させたのか、何とか立ち上がりアラムに対して文句を言い放つ。


「充分軽いっすよ。顔は打ち込まなかったじゃないっすか。いつもなら顔にもいくつか痣が出来ているっすよ」

 アラムの容赦のない一言にせっかく立ち上がったにも拘らずリーリヤは再びへたり込む。

 

「私は魔法を見てくれと頼んだだけなのに……なんでこんな目にあうのよ……」

 魔法の使いすぎなのか、精神、体力共に疲弊し仰向けになりながら天に向かって悪態をつく金髪の少女ジーナ。


「あのな? 嬢ちゃんに足りていないのは魔法どうこうと言うより決定的に体力不足なんだよ。んなもん魔法以前の問題だ。2、3使っただけで疲弊する程度じゃ実戦じゃ何の役にもたたん」

 

 彼らの会話からわかるように、二人の少女は稽古をつけてもらっているのだ。


 金髪の少女の名前はジーナ。

 流れるような綺麗な髪質に、金色の髪を持ち、白く染みのない肌は上質の絹を思わせるほどであり、顔立ちも小柄でかわいらしさがある。

 綺麗なライトグリーンの瞳は宝石にも劣らないほどの美しさではあるが、今はその全てが涙と汗に濡れて鳴りを潜めている。


 この屋敷の最高権力者にして、公爵家の家柄の少女でもある。


 そして黒髪の少女の名前はリーリヤといい、吸い込まれそうな黒い瞳に同じく漆黒の綺麗な黒い髪を持っている。

 鍛えているためか、その肌は健康に溢れる瑞々しさを誇り、その肌触りは柔らかい筋肉に包まれているのでこちらもまた、素晴らしいほどの感触である。


 また、黒髪を短く切りそろえているが、女性としての魅力が損なわれてはおらず、むしろより引き立たせていると言ってもいいほどの雰囲気だ。彼女もまたこの屋敷の最高権力者の一人と言っても過言ではない。

 では、守られるのが当たり前であり、鍛える必要のない彼女達がなぜ、このように全身を汗で濡らし疲弊しているのか。

 

 リーリヤは元々ジーナを守るために自分を昔から鍛えているのでそれほどの不思議はない。

 ではそのジーナが鍛えている理由は、先日起きた事件に起因している。


 先日、彼女らはあわや命を落としたかも知れないと言う状況に陥ったのだ。

 理由は『飛竜の爪』という謎の組織に命を狙われたと言う理由である。


 しかし、それは今この場にいないもう一人の少年を含めた三人の少年によって阻止されたのだ。

 そして、三人の少年から『飛竜の爪』の話を聞き、最後に自分を守るのは自分なのだと考えを改めて、稽古に励むようになったのはいいが、その稽古内容は、今まで比較的平和に暮らしてきた二人の少女にとっては苛烈極まる内容となっており、このような状態になったのだ。



「お前達は何故手加減をせんのだ! 全く……ジーナ様、リーリヤ様、大丈夫ですか?」

 

 誰もが見惚れるような体躯と容姿を持った金髪碧眼の少年であるレオンが、二人の少年の稽古内容に不満があると言わんばかりに文句を良い、二人の少女を気遣う。


「レオン甘やかすなよ。これは嬢ちゃんたちのためでもあるんだぜ? 中途半端な鍛え方をしてみろ。それこそ命取りになりかねん」

「そうならないようにするために俺達がここにいるんだろう。これでは稽古の範疇を超えている。大体学校に行く前にこんなに体力を疲弊させてどうする?」


 このマルクとアラムにとっては充分手加減していたのだが、レオニードにとってはやりすぎと目に写ったようだ。

 騎士道を重んじるレオニードからしてみれば、か弱い女子を痛めつけて鍛えると言うやり方はあまり好きではない。同じ鍛えるにしてもゆっくりと時間をかけてやるべきだと思っているが、この二人はその手順をすっ飛ばしているのだ。


「でもよ俺らだけで対処できるうちはいいけど、その範疇を超えたら、んな事も言ってられねえだろうが。手っ取り早く徹底的に痛めつけるのが一番だと思うがな」


「それでもやりすぎだ。特にジーナ様はそういうことにまだ慣れていない。もう少し時間をかけるべきだ」


「レオンはほんと甘いっすねえ……人に物を教えるのに向いていないタイプっすよ」

 

 呆れた声を出してアラムは学校へ行く準備を整えるために屋敷へと戻る。

 マルクもその後についていき、残された少女達はへたり込んだままだ。


「やれやれ……立てますか? お二人とも?」

 そんな二人に優しく声をかけて手を伸ばすレオン。

 まずジーナが何とかその手を掴み立ち上がり、続いてリーリヤが同じように立ち上がる。


「あ、ありがとレオン……はぁはぁ……き、今日は学校を休んでいいかしら……」

 未だに息を整える事が難しいらしく、息切れをしながら提案をするジーナ。

 

 もう無理、動けない。これは屋敷に引きこもり体力の回復に努めるべきだ。

 本心からそう思い、彼女は少しばかり甘えた声を出してレオニードに提案する。


「さすがにそれは駄目ですよ。しっかりと学校に通わせるようにとエフィム様から言われております。頑張って下さい」


 なんだかんだいいながら、しっかりとやるべきことをやらせようとするレオニード。

 ジーナはぶつぶつと文句を言いながらふらふらと屋敷へと戻っていく。

 そしてリーリヤもそれについていきレオニードはこの場で学校に行くための準備を整え出てくる二人の少年と二人の少女を待つ事にした。


 学校についてそれぞれの教室に分かれる少年少女達。

 少年達は二年の教室へ、少女達は一年生の教室へとそれぞれ足を運ぶ。

 

 二人の少女の足取りは重く、未だに体力が回復していないみたいだ。

 顔からも生気が抜け落ちているようで、せっかくの美人とも言える顔は、3割ほど落ちている。

 

 教室に着き席に着く二人。  

 そして同時に机に突っ伏す。

 ここまで来る事すら彼女達にとってはかなりの負担を強いたようだ。


 公爵家の令嬢のあられもない姿など滅多に見れるものではなく、教室の注目を集めている。

 そんな二人にとある少女が話しかけてきた。


「あの? ジーナ様。お話があるのですが、よろしいですか?」

 

 机に突っ伏した状態から顔をわずかに上げ声の主を見ると、そこにはやや長い栗色の髪の毛を緩やかにウェーブをかけている髪形をした少女が目に入った。


 少しばかりおどおどとした雰囲気はどこか小動物を思わせるような、雰囲気である。

 目鼻はくっきりとしており、大きな瞳が印象的ではあるが、それよりも何よりも目に入るのはその胸である。

 年の割には自己主張が激しく、ジーナは少しばかり圧倒された。


「えっと貴方は……」

 あまりクラスの人間には興味を持っていなかったのか、入学してから気の休む暇もないほど色々な事柄に出会い、クラスメイトの名前と顔を覚える暇がなかったのか定かではないが、ジーナの記憶にはこの少女の顔と名前が出てこない。


「あ、すいません。私、キーラ・エギンと申します」

 

 名前を聞いてもやはり記憶にはない。


「ほう、エギン家のご息女か……」

 隣の少女がつぶやく。


「リーリヤ。貴方の知り合い?」

「いや、特に知り合いと言うわけではないがな。ただ貴族にしては珍しい家柄だ」


 エギン家というのは、かつて没落した貴族の一つであり、何代か前までは数ある貧乏貴族の一つであった。

 それが、何代か前に羽振りが良くなり、男爵と言う身分にも拘らず、相当な羽振りの家柄となっている。

 理由の一つに、ある時そこの家の出身の者が魔法の才能と剣の才能に恵まれ、各地で賞金稼ぎ……すなわち冒険者となり魔獣退治や盗賊退治で名を挙げ一代である程度の財を築き上げたのだ。


 そして彼女の曽祖父は、それほどほど戦いの才能に恵まれなかったが、商人としての才に恵まれ、築き上げた財をさらに増やし、下手な貴族よりも裕福な家柄となったのだ。


 以来、この家は商人貴族、または傭兵貴族などと揶揄され他の誇りのある貴族から馬鹿にされている貴族でもあるのだ。

 そのほとんどが嫉妬なのだが、やはりそのように馬鹿にされて気分がいいとは言えない。

 さらに、世間から何といわれようと、財を築き上げたかつての当主にちなんで、この家の出身の者は魔獣退治などを生業としているのが多くいる。


「なるほどね……で、たかが男爵程度の人間が私に話しかけるなんてどういうつもりよ?」

 相も変わらず公爵家という身分を前面に押し出すジーナ。

 この学校において身分をひけらかすのは良い行為とはいえないのだが、やはりあってないようなものに等しいルールだ。


「ジーナ……そういうのはもうやめにしようと考えたのではないのか?」

「うっ……で、でも……わ、私は由緒ある公爵家の令嬢なのよ? こ、こんな身分の低い、しかも商人貴族に気安く話しかけられる覚えはないわ」

 本人を目の前にして気分を悪くさせるような事を堂々と言っているが、言われた本人はあまり気にしてはいないようだ。

 ただジーナの言うとおり、少しばかり罰が悪そうでもある。

 やはり身分の壁に捕われているようだ。


「そのセリフをあの三人の前でいえるなら立派なものだがな……」

 リーリヤの一言に言葉を無くすジーナ。

 あの三人とはマルク、レオニード、アラムの三人の少年達のことだ。

 なんだかんだいいながら何度も命を救われ、恩義を感じている相手でもあるのだが、彼らは平民出身の身である。

 その事はこの学校においては学長とこの二人しか知らない事実である。


 そして同じセリフを彼らに言おうものなら、千倍の毒舌となって返って来る事は目に見えており、その事でいつもやり込められているのだ。

 ようやく懲りたのか、三人に対して最近は身分を前面に押し出す事を控えていたのだが、やはりプライドは捨てきれないようだ。


「あ、あの……申し訳ありません。失礼しました」

 やはり相手が公爵家という事で、物怖じしてしまい謝罪してその場から立ち去ろうとするキーラ。


「待て、そう逃げる事もないだろう? せっかくの機会だ私達もクラスメイトとは仲良くしたいと思っている。えっとミス・エギン。私達に何か用でもあったのではないか? 出来る事は限られているが力になれるなら協力したいと思う」

 

 『私達』と言う部分を心なしか強調してリーリヤはキーラを引き止めた。


「あ、あのその……」

 歯切れが悪く、中々用件を言い出そうとはしない。


「……言いたい事があるなら早くしてくれないと先生が来るわよ。じれったいわねえ」

「ふむ、長くなりそうになるならお昼にでも用件を聞くがそれでいいかな?」

 リーリヤの提案に、キーラはうなずき、自分の席へと戻っていく。

 やがて時間が来て教師の姿が現れ、本日の授業が開始された。







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