第5話 初配信で裏ボス
見せ場。
「初配信から裏ボスかよ!」
俺は手を頬に当ててOH NOとジェスチャーをする。
だが、出発した時に誓ったんだ、
俺は下がらないと。
「……」
俺は黙って進む。
2人も黙って何も言わず、ついてきてくれた。
ドアが開く。
その先には、広大な空間が広がっていた。
そして中央に、ポツンと一体の騎士が立っていた
身長は2メートル半ほど。顔は兜に覆われ、一切見えない。
静かな殺気が俺の肌を刺す。
「……ッ」
圧倒され、握っていた槍がずり落ちそうになる。
その瞬間カメラドローンが機械音声を発した。
「対象:グレイトガーディアン」
「適正Cランク以上。かつ、フルパーティを推奨」
「Cランクだぁ!? ここEランクだよなっ!?」
コメントはその音声を聞き沸き立つ。
〈Cランク以上!?〉
〈初配信でかよ!〉
〈無理だ!逃げろ!〉
〈でもレイと美琴がいるじゃん、平気よ平気〉
〈稀にあるんだよなぁ〉
そのコメントに俺は反応する。
「ハハッ! これは俺の配信だよ!」
自分でも驚くほどに声が出た。
「それに、ここで最初から2人に頼ったら……俺は何も変わってない気がするんだ」
それにレイが強く反応する。
「アンタが死んだら後味が悪い……いや、そんなの嫌よ。Cランク相当……ほんの少しだけ時間はかかるけど、アタシが始末す……」
レイが前へ出ようとした瞬間ら美琴がその腕を掴んだ。
「那由多を信じよう」
「……」
少しの沈黙。
グレイトガーディアンは仁王立ちしたまま動かない。
まるで、こちらから来るのを待っているかのようだった。
見た目通りの騎士道精神でもあるのだろうか。
それでもレイの心は揺れていた。
知り合ってまだ間もない。
それなのに、那由多を失うのが怖かった。
だが。
「そうね……」
レイは那由多を見る。
「でも、死にかけたら問答無用の最高火力で奴を焼き切るから……頑張って」
その言葉にコメント欄が熱狂する。
〈こんなに肩入れするなんて孤高の2人にしちゃ珍しいな〉
〈香典送るわ〉(スパチャ5万円)
〈馬鹿!それ言うならご祝儀だよ!勝手に殺すんじゃないよ!〉
カメラに映っていることすら忘れるほどに、集中していた。
俺はファランクスの陣形を組む。
そしてドローン40機をグレイトガーディアンの周囲に配置した。
まさに、1人軍隊。
地上には、身長191センチの筋骨隆々な男が5人
空を埋め尽くすは、40機の魔石ドローン。
Eランクの探索者が生み出したとは思えない光景に、レイと美琴、そして視聴者までもが息を呑む。
〈始まるぞ!〉
〈これが1人軍隊ってやつか!〉
〈普通ならここに更にパーティメンバー4人がプラスされるんだろ?ヤッバ!〉
〈ナユタンかっこよくてメロい〉
俺は槍を構えた。
「全体——前進せよ!」
俺を含めた5人がゆっくりと盾を構えて距離を詰めていく。
その間もドローンの視点は周囲を飛び回っていた。
視界に入る全ての情報が、ゴーグル型デバイスへ送られてくる。
今、俺は持てる全ての力を使う。
全身全霊の戦略だ。
「手始めだ!」
グレートガーディアンまで、あと数メートル。
「ドローン、一斉掃射!」
40機のドローンは全面に青い魔法陣が展開する。
光が収束する。
次の瞬間。
ズガガガガガッ!!!
轟音と共にグレイトガーディアンに撃ち当てる。
グレイトガーディアンは剣を大きく振り回し、巨大な盾と合わせて魔弾をことごとく防いだ。
そのまま魔弾を弾き切った。
土埃が晴れると、ほぼ無傷のグレイトガーディアンが姿を現した。
剣をシュバっと回して構え直す。
コメント欄は騒然とする。
〈嘘だろ……全方位からだぜ?〉
〈盾も剣も頑丈過ぎんだろ〉
〈これがEとCの違いなのか……〉
俺も言葉を失う。
「嘘……だろ?」
40機の一斉連射だ。
それなのに。
「だって……40機だぞ?」
それでも、戦意だけは折れなかった。
ここが最後の心。プライドの防波堤だ。
「側面に二手に分かれて挟め!」
ドローンが左右へ分かれる。
「俺ら自身は前進!」
5人の分身が盾を構え、一気に距離を詰める。
ドローンも左右から魔弾を放つ。
だが、グレイトガーディアンは巨大な盾を巧みに動かし、魔弾を防いでいく。
そして、距離が近づいた。
「今だ!」
5人が一斉に槍を突き出す。
しかし――。
ガキィンッ!
重厚な鎧に阻まれた。
「硬ッ……!」
ほとんど隙間がない。
その刹那。
グレイトガーディアンが剣を横薙ぎに振るった。
ドゴォッ!!
「ぐああああっ!」
右端の分身が大きく弾き飛ばされた。
「――ッ!?」
同時に、その痛みが俺へフィードバックされる。
「ぐっ、あ゛あ゛あ゛ッ!!!」
苦悶の表情で体勢を崩す。
ファランクスが2人欠けて崩れる。
〈分身の痛みが本人に入った!?〉
〈痛覚共有があるのか、それは痛いな〉
〈↑ジョーク? てかEランクの理由はそれか!〉
コメントに構っている余裕なんてない。
弾き飛ばされた分身が、すぐに立ち上がって定位置へ戻ろうとする。
その間、残った3人が俺を守るように盾を構えた。
「戻れ! 隊列を整えるんだァ!!」
俺も立ち上がった。
グレイトガーディアンの猛攻を盾で防ぎながら、隙を探す。
「そこだッ!」
盾の隙間から槍を突き出す。
渾身の一撃が鎧の隙間へ突き刺さった。
「やった……!」
初めて、明確にダメージを与えた。
だが。
グレイトガーディアンは即座に剣を横薙ぎに振るった。
「うぎゃあああッ!!!」
全員がまとめて吹き飛ばされる。
ダメだ。強すぎる。
圧倒的に、戦闘の練度が違う。
痛みに涙が滲む。
それでも歯を食いしばり、立ち上がる。
諦める気はなかった。次の一手を考える。
俺は気づいていなかった。
レイがいつでも最高火力を放てるよう、構えていることに。
それほどまでに、俺は弱って見えていた。
「……待て」
ファランクスでは駄目だ。
ならば、分身一人一人に役割を与えるしかない。
「烏合の衆は終わりだ」
目つきが変わる。
闘志に燃えるその目には、勝機が宿っていた。
「ナユタ1! 奴のヘイトを買うんだ!」
「ナユタ2とナユタ3は槍を背負って盾のガードに集中!」
「ナユタ4は――虎視眈々と隙を窺え!」
単調なファランクスから、個別の役割を持った戦術へ。
攻めに転じる。
ドローンが空から死角なく敵の動きを偵察する。
その情報をゴーグル型デバイスで確認しながら、俺はリアルタイムで分身へ指示を飛ばしていく。
「ナユタ1! 右だッ!」
グレイトガーディアンの剣が迫る。
「そっち! 今は避けろ!」
分身が紙一重で回避。
「お前は突き刺せぇーッ!!」
槍が鎧の隙間へ突き込まれる。
グレイトガーディアンが盾を振る。
「ナユタ2! 防げ!」
ガキィンッ!
盾が剣を受け止める。
コメント欄が沸き立った。
〈ドローンを全部索敵に使っている!?〉
〈40機をたった一人の人間の脳で処理しているのか!〉
〈こいつ、戦闘の中で学習してやがるぜ〉
そこからは一進一退の攻防だった。
盾の上に別の分身を乗せて跳躍させ、そこから空中から槍を突き下ろす。
さらに横から別の分身が刺突する、一方向からではない。
上下左右と、あらゆる方向から攻撃を仕掛ける。
グレイトガーディアンの鎧に、少しずつ傷が増えていく。
しかし、決着はつかない。
次々と分身が転がされ倒されていく。
戦闘は、十数分にも及んだ。
そして、また一人、分身が攻撃を受け、跪いた。
「痛え……」
もう限界なのか。
コメント欄にも悲鳴が走る。
〈もうやめろ! お前は十分頑張った!〉
〈死んでしまうぞ、那由多!〉
〈美琴とレイはもう終わらせて!〉
それを見たレイが、ついに叫ぶ。
「那由多! もうあなたは十分努力した! 引いて!」
だが。那由多は立ち上がる。
「いや……頼む」
息を切らしながら、グレイトガーディアンを睨む。
「任せてくれ」
「……!」
「俺は、変わる。……いや、変えるんだ。変えなきゃダメなんだッ!」
その言葉に、2人は黙り込んだ。
そして、ドローンから警告音が鳴る。
バッテリー残量低下
40機のドローンが、次々と背中の母艦へ戻っていく。
空が静かになる。
那由多はほぼ折れた槍と、砕けた盾を投げ捨てた。
そして、分身も魔力不足によって、一人、また一人と消えていく。
最後に残ったのは、那由多ただ一人。
向かい合う、凡夫と強者。
だが、グレイトガーディアンも無傷ではない。鎧には無数の傷。
剣を握る動きも、最初より明らかに鈍っている。
互いに満身創痍だった。那由多はふらつきながら腰の装備へ手を伸ばす。
カチッ。
ブォン……!
エネルギーブレードが起動する。
光の刃が輝く。
「……やっぱり、これだよな」
俺の原点。
互いに構える。その一瞬、二人が同時に踏み込んだ。
ガキィンッ!!
刃と刃が激突する。
グレイトガーディアンの堅牢な剣が、那由多の首を狙う。
「くっ……! 焼き切れないかっ」
盾で押し返される。
だが那由多は、その力の反動でバク転。
着地と同時にエネルギーブレードを振り抜いた。
ザンッ!
壊れかけていた盾が、一刀両断された。それにグレイトガーディアンの剣が止まる。
那由多は息を整えながら相手を見る。
「……お前も限界か」
剣を振る速度が明らかに落ちている。
鎧にも、ひび割れが広がっていた。
なら、次の一撃で決める。
那由多は距離を取った。
グレイトガーディアンも、剣を構える。互いに踏み込むための姿勢を取った。
数秒。洞窟の中に、水滴の落ちる音だけが響く。
ポタッ。
そして、同時に踏み込んだ。
一閃。
那由多のエネルギーブレードが、グレイトガーディアンを袈裟斬りに捉えた。
騎士の身体が、ゆっくりと崩れる。そして那由多も、膝から崩れ落ちた。
そのまま仰向けに倒れ、片手を天へ掲げる。
「俺……追放されて良かったな……」
結果オーライよ!
コメント欄が爆発した。
同接数も一気に跳ね上がっていく。
551。
2191。
そして――5000人近く。
〈勝った!こいつ勝ちやがった!〉
〈CランクをEが倒すなんてすごいじゃん!〉
〈分身とは言え単独撃破か……〉
〈今日からナユタンのファンになります〉
〈これ伝説やろ、切り抜き作るわ、ええよな?〉
「いいよ」
那由多は即答した。
「でも、収益の4割は俺に回してね」
ちゃっかりしている。
やはり、抜け目のない那由多だった。
そんな那由多へ、レイと美琴が駆け寄る。
「本当に無茶のし過ぎ!」
「本当に……ばか」
「へへっ……でも勝ったぜ!」
そうだ! 俺はやってやったんだ!
いやー、これで俺も有名人になっちゃうかなぁー!
心の中では、分身たちと手を繋いで回りながら踊っている。
自己顕示欲と承認欲求を満たせる日々が、遂に来るんだ!
嬉しくて仕方がない!
そんな俺に、レイが何かを差し出した。
「そうね。それと、奴が剣と鞘だけを残していったわ」
「剣?」
「レアドロップってやつね。多分、魔剣。鑑定屋に持ち込んでみなさい」
俺はグレイトガーディアンが持っていた剣を受け取った。
鞘に収められたその剣を眺める。
「魔剣……」
そのまま腰に装着する。
「うれぴー!」
立ち上がろうとして。
「……って、痛たたた……」
全身がジンジンと痛む。
それでも、俺は笑っていた。
そして帰ろうとした、その時。
星マークのついた目を引くアカウントからコメントが流れた。
〈我が社、神代工業の企業案件にご興味はございますか? 新兵器のテスターを募集しています。ご興味がございましたら、弊社までご連絡をお願い致します〉
そのコメントが流れた瞬間。
コメント欄がさらに沸き立った。まるでライブ終盤のミュージシャンに送られるアンコールのように。
〈カミシロってマジかよww 那由多くん勝ち組じゃん!〉
〈嘘だと思ったら星マークあるからモノホンやんけ!!〉
〈カミシロの武器はいいぞ〉
〈ドローン使ってるから知ってるのか〉
〈ダンジョン初配信でマジモンの伝説作っていて草〉
「嘘だ……」
目を見開く。
「うぅ~……やったー!」
俺は2人へ振り返った。
「見たか2人とも! あの神代工業さんだぜ!」
「良かったわね。アタシの家に行きましょ。勝利の祝杯よ……お酒飲めないけど」
「あーしらにもスポンサーついているし、那由多ももうこれで一人前の探索者だよ!」
「やったな!」
「やったね!」
「やったわね!」
三人は思わず抱き合い、喜びを分かち合った。
――そして、この日を境に。
俺は、人間兵器の道を歩むこととなる。
評価などよろしくお願いします!




