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外れスキル【分身】は装備も増やせたので、追放された俺は一人軍隊でダンジョン配信したら企業案件が止まりません  作者: 月影光貴


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第33話 代償

 那由多はヴェルナの肩を借りながら、病院へと入っていった。

 病院内は、スタンピードによって運び込まれた負傷者で溢れ返っている。

 その光景を見たレイが、すぐさま声を張り上げた。


「神楽那由多! Bランクとの単独戦闘により左腕を欠損! 処置をお願いします!」


「すんません〜……」


 那由多がいつもの調子で頭を下げる。

 すると、近くにいた看護師が驚いた顔で駆け寄ってきた。


「えっ!? 意識があるんですか!?」


「はい。まあ、こんくらいへーきっすよ」


「へーきじゃねぇ!」


 美琴がジャンプし、那由多の頭をぺちっと叩いた。


「笑い事じゃねぇぞ」


「まあまあ。みんなは引き続き、他の人を守ってくれ!」


 那由多が笑って言う。


 しかし、その言葉を聞いたヴェルナが呆れたように眉をひそめた。


「自分が助けられるという発想を持て、バカタレ」


「え?」


 ヴェルナは病院の外へ向かう。


 レイも那由多を見つめる。


「今度はアンタが助けられる番よ」


「そうだね。那由多が死ななくて、本当に良かったよ」


 美琴もそう言って、2人の後を追った。

 残された那由多は、看護師たちに連れられて処置室へ向かう。

 やがて、手術室へと運び込まれた。


「その状態で意識があるのか……」


 医師が驚いた声を漏らす。


「痛みとは親友みたいなもんでね」


「……腕を失っているのに、冗談を言う余裕があるのも驚きだ」


 医師たちはすぐに処置を開始した。

 骨折、打撲、内出血など本人は極限状態で気がついていない怪我があった。

 Bランクモンスターとの戦闘で受けたダメージは、左腕だけではない。

 輸血や傷口の処置など、必要な治療が進められていく。

 そしてしばらくして。

 処置を終えた那由多は、病室へと運び込まれた。

 目を覚ました時には、東京のスタンピードはすでに終わっていた。


「はぁ〜……また体に管かよ……」


『あんな無茶をすれば当然です。フェムトマシンも減ったんですからね!』


「17%かぁ……」


 那由多は天井を見上げる。


「まあ、片腕が根元から無くなれば、そりゃ減るか」


『……そういう問題ですか?』


「そういう問題だろ」


『違います』


「違わない」


 いつものようなやり取り。

 だが、その直後だった。

 病室に静寂が訪れる。

 那由多はゆっくりと、自分の左側へ視線を向けた。


「…………」


 そこには、本来あるはずのものがなかった。


「……左腕、無いんだな」


『……はい』


 鍛え上げられた強靭な腕。

 これまで何度も剣を握り、武器を振るい、誰かを守るために使ってきた腕。


 それが、もうない。


「なんか……変な感じだな」


『……そうですね』


 ネアも、それ以上は何も言わなかった。


 コンコンッ。


 静かな病室に、ノックの音が響く。


「はい?」


 ガラッ。


 扉が開く。

 そこに立っていたのは、レイ、美琴、ヴェルナだった。


 そしてレイは、開口一番に——


「バカ!」


「なんだよ。知っての通り、勝ってんだぜ?」


 那由多は笑ってみせる。

 しかし、その顔色は優れない。


「そういう問題じゃない! 無茶のし過ぎ!」


 レイは顔を赤くし、今にも泣き出しそうな目で叫んだ。

 那由多は少し俯く。

 そして、レイを見る。


「……目の前の人を見捨てて逃げるなんて、俺にはできなかった」


 3人は黙っている。


「それに、あそこにはシェルターがあった。あの人たちを守るためには、あそこで死守する以外に方法がなかったんだ」


 那由多の言葉は正しかった。

 レイも、それを分かっている。

 だからこそ、感情だけで責めることはできなかった。

 しばらく沈黙した後、那由多が口を開く。


「……で、助かったんだよな?」


「え?」


「あの人たちは……助かったんだよな?」


 その声には、先ほどまでの軽さがなかった。

 必死とも取れる表情で、那由多はレイを見る。


 レイはすぐに答えた。


「ええ。全員無事よ」


「……そっか」


 那由多は胸を撫で下ろす。

 自分の腕を失った甲斐はあった。

 少なくとも、あの人たちが生きているなら。


「……良かった」


 そこへ、病室の扉が再び開いた。


「……無駄に根性出さないでよ。本当にバカ!」


「おいおい、律まで怒るのか?」


 入ってきた律は、呆れたように那由多を見る。


「怒るわよ……」


 だが、律はそこで言葉を止めた。

 先ほどまでとは違う、柔らかな表情になる。


「……でもね」


「?」


「偉いわよ。よくやったわ」


 律はそう言うと、那由多の頭を優しく撫でた。


「…………」


 ぽつり。


 頬を、一筋の涙が伝った。


「あ、あれ……? 俺……」


 那由多自身も驚いていた。

 止めようとしても、涙が次々と溢れてくる。


「私も23歳で大した大人じゃないけど……那由多はまだ19歳でしょ」


 律は優しく笑う。


「子供なのに、よく頑張ったわ。那由多」


「……っ」


 那由多は律に抱きついた。

 

「お、俺……本当は少し怖かったんだ……」


 声が震える。


「腕だって無くなっちゃったけど……俺が悲しんだら、みんなが悲しむと思って……」


 那由多は今まで、笑っていた。

 大丈夫だと言い続けていた。

 勝ったから問題ない。

 人を助けられたから問題ない。


 そうやって、自分自身の恐怖を押し込めていた。


「我慢してたけど……」


 その言葉を聞いた3人が、那由多へ近づく。

 レイが頭に手を置く。

 美琴が肩に触れる。

 ヴェルナも、そっと背中に手を添えた。


「そこまで強がるなんて……本当に、バカ……」


 レイの声も震えていた。

 いや、それだけじゃなく泣いていた。


「本当によく1人で死なずに撃破できたよ。偉いよ、那由多」


 美琴も優しく声をかける。


「泣くな。お前は笑顔の方が似合う。それに、腕もなんとかなるだろう」


 ヴェルナがそう言った。


「みんなぁ……ありがとう……」


 那由多は涙を拭いながら笑った。


『……ご立派です、ご主人』


 ネアの声も、いつもより少しだけ優しかった。


 身長191センチ。

 鍛えられた身体。

 何百体もの魔物を倒してきた実績。

 そして、Bランクボスモンスターを単独で撃破した力。

 それでも、那由多はまだ19歳だった。

 怖くないはずがない。

 腕を失って、怖くないはずがなかった。


 ただ、それを誰にも見せないようにしていただけだった。


 そんな那由多を、今だけは誰も責めなかった。


 病室には、静かな時間が流れていた。


 そして、その隣のテレビではスタンピードに関するニュースが流れていた。


『Bランクモンスターを単独撃破したDランク探索者、神楽那由多さんについて……』


 律がリモコンを手に取る。

 そして、テレビの電源を切った。


「今日はもう、そういうのはいいでしょ」


「……そうだな」


 那由多は小さく笑った。

 今日はもう、みんなに甘えてもいい。

 そんな1日だった。

 泣こうが甘えようが那由多が英雄なことには変わらない。

 揺るがないのだ。

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