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外れスキル【分身】は装備も増やせたので、追放された俺は一人軍隊でダンジョン配信したら企業案件が止まりません  作者: 月影光貴


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第20話 超人計画?

企業案件

 那由多が目を覚ましてから、わずか2日。

 幸いにも経過は良好で、那由多は退院することができた。

 そして、ネアの存在についても全員に説明した。

 フェムトマシンを利用して空中にホログラムを投影すると、赤と青の髪の少女――ネアが姿を現す。


『初めまして! 電脳美少女ネアちゃんです! ご主人がお世話になっている皆さん、これからよろしくお願いします!』


 あまりにも元気な自己紹介に、集まった面々はそれぞれ複雑な表情を浮かべていた。

 だが、ひとまずネアが那由多に危害を加える存在ではないことは理解してもらえた。

 

 これで心機一転。

 ダンジョンに潜って、ガンガン稼ぐ。

 那由多はそう意気込んでいた。


 ――しかし。


「しばらく探索活動は禁止です」


「えぇ!?」


 医師から告げられたのは、無慈悲な現実だった。

 倉田との戦闘で負った傷は治ったとはいえ、那由多は一週間も意識を失っていた。

 身体が完全に元通りになったからといって、すぐに激しい運動をしていいわけではない。


 さらに、フェムトマシンの状態もまだ安定していない。

 念のため、分身の使用も禁止。


「そんなぁ……」


『当然です』


 ネアまで医師側についた。

 結局、那由多は大人しく自宅で療養することになった。


 ただし。


「……せめて筋トレくらいは」


『ご主人』


「はい」


『もうやめましょう』


「……はい」


 床に手をつき、腕立て伏せをしていた那由多は、渋々身体を起こす。

 全身が負荷により震えていた。


「……復帰のことばっかり考えちまってな」


『ご主人は一週間も目覚めなかったんですよ? 腹部をぶち抜かれたことをお忘れですか?』


「わ、悪かったよ……」


 那由多は苦笑する。


「焦って急いでも意味がないのは分かってるんだけどな」


『分かってんなら休んでください』


「はい……」


 そんなやり取りをしていると――


 ぷるるるっ。


 スマートフォンが鳴った。


「はい、もしもし? なんだ、律?」


『ナユタン、君に面白い話が来ているよ!』


「へぇ! なんなの?」


『神代と提携している製薬会社からのオファーだよ。薬品テスト。つまり、マジのモルモットだけど、やる?』


「効果は?」


『身体能力強化』


「……!」


 那由多の目が輝く。


『君の好きなアメコミヒーローみたいな身体能力に、いずれはなるかもしれない』


「やる!」


 即答だった。


「丸い盾とか持ってないけど、超人になりたい!」


 ふと、那由多は思う。

 待てよ。

 フェムトマシンも入っている。

 その上、身体能力まで強化する。

 アメコミヒーロー的な要素の集合体になりつつあるな。


 まあ、強くなれるならなんでもいいか。

 強くなければ、守りたいものも守れない。


「俺、受けるよ」


『即決だねぇ……』


「だって面白そうじゃん!」


 こうして那由多は、身体能力強化薬の治験を受けることになった。




 神代工業本社。

 いつもの研究室とは違う場所へ案内された那由多は、扉を開く。


「失礼します~」


「初めまして。製薬会社、カンタレラの者です」


「初めまして、神楽那由多です」


 那由多は男と握手を交わす。

 そして心の中で呟いた。


 カンタレラって毒の名前じゃないか?

 そんな名前の会社が本当にあるのか……?

 しかも、製薬会社だろ?


「では、早速本題に入りましょう」


 男は資料を開く。


「今回使用していただく薬品について、説明と注意事項をお伝えします」


 説明された内容は、こうだった。


 この薬は第一世代の物で、人間での治験は行われていない。


 フェムトマシンを体内に持つ那由多は、通常の人間よりも高い自己修復能力を持つ。


 そのため、身体能力強化薬の治験対象として比較的安全性が高い。


 さらに那由多が選ばれた理由は、それだけではない。


「君の固有能力――分身ですね」


「はい」


「本体の身体能力が向上すれば、分身した個体にも同様の能力が反映される可能性があります」


「……なるほど」


「つまり、将来的には極めて高い戦闘能力を持つ人間兵器となる可能性がある」


 那由多は複雑な心境になる。


「もちろん、これはあくまで研究上の可能性です」


 那由多は黙って資料を見る。

 そして男は契約書を差し出した。


「よろしければ、こちらにサインを。後日でも構いません」


 那由多が紙を受け取る。

 すると――


『解析完了』


 ネアの声が頭の中に響いた。


『ご主人に障害が残った場合や、死亡した場合の補償については、しっかり記載されています』


「それなら……」


『ですが、私は反対です』


「……意外だな。お前が反対するなんて」


『フェムトマシンありきの実験なのに、フェムトマシンとこの薬の相互作用が未知数です』


「でも俺は、まだ15%分のフェムトマシンしか使えない」


 那由多は自分の手を見る。


「だったら、自分自身も強化するしかないだろ?」


『……』


「今の俺じゃ、守れない」


 ネアはしばらく沈黙した。


『……分かりました』


 そして、少しだけ声を低くする。

 

『ただし、薬が危険だと判断した場合は、こちらからシャットアウトしますからね』


「ああ」


 那由多は頷いた。

 そして男を見る。


「お受けします」


「ありがとうございます」


 治験が始まった。

 まずは血液検査。

 続いて、現在の身体能力を測定。


 その結果――


「……すでに一般人の身体能力ではありませんね」


 研究員が驚く。

 日頃から鍛錬を続け、探索者として活動してきた那由多の身体能力は、すでに一般人の域を大きく超えていた。


 さらにフェムトコアの状態も確認。

 問題なし。


 そして――


「それでは、投与を開始します」


 那由多は専用のカプセルへ入れられた。


 身体をベルトで固定され、薬品が何本もの管を通って投与される。


「……」


「開始」


 薬が身体へ流れ込む。


「ぐっ……!」


 次の瞬間。


「ぐっ! あああああッ!」


 全身を駆け抜ける激痛。


「クソッ……めちゃくちゃ痛いぞ、これッ!」


『ご主人!? 待ってください! 肉体の構造が変化しています!』


「なに……!?」


『ただの薬ではありません! ですが、この変化は想定以上です!』


 那由多は固定された身体を必死に動かす。


 ギギギギッ……!


「ぐっ……!」


 バキィッ!


 固定ベルトが千切れた。


「なっ!?」


 カンタレラの男はその怪力に驚愕した。

 そして、カプセルから転げ落ちる那由多。


「那由多!」


 律が慌てて駆け寄る。


「大丈夫!?」


「あ、ああ……」


 那由多は自分の身体を見る。


「……ん?」


 視界が妙に鮮明だ。

 遠くの文字まで、以前よりはっきり見える。

 そしてなによりも身体が軽い。


「視力が上がってる……?」


 立ち上がる。


「それに……身体が軽い」


 軽く拳を握る。


「なんだ、この感覚……」


「モルモット君、気分は悪くない?」


「うん」


 那由多は身体を動かす。


「むしろ絶好調って感じだね!」


「それは良かった」


「でもさ」


 那由多は男を見る。


「痛いってことくらい、事前に教えてくれても良かったんじゃない?」


「これは……予測していませんでした。申し訳ありません」


「そう?」


『嘘です』


 ネアが即答した。


『痛みを伴う可能性は、最初から把握しています』


「……」


『なんなら、場合によっては生命に関わる可能性もあると見ていいでしょう』


 那由多は男を見つめる。


「……まあ、いいよ」


 そして視線を逸らす。


「こうして生きてるし」


 ――まただ。


 那由多の胸の奥に、小さなヒビが入る。

 やはり、人間は信じていいものなのか。




 身体能力測定が始まる。


「次、パンチ力」


 那由多が測定器の前に立つ。


「いくぞ!」


 ドンッ!

 表示された数値を見て、研究員が固まる。


「……1.5トン」


「え?」


「1.5トンです」


「マジ?」


「はい」


 鍛え抜かれた身体。

 そして今回の強化薬。

 その組み合わせによって、那由多の拳は世界記録を超えた人間離れした威力を叩き出していた。


「次、走力」


 50メートル走。

 結果は、4秒台。


「……」


「どう?」


「……世界記録級です」


「わあい」


 那由多は素直に喜んだ。


「モルモット君から、化け物君に昇格だね」


 律が笑う。


「喜んでいいのか?」


「一応、褒めてるよ」


「わあい」


 那由多はもう一度喜んだ。

 しかし――


『……ご主人』


 ネアの声が響く。


「ん?」


『フェムトマシンの内部構造が変化し始めています』


「え?」


『薬物が作用しています。私にも何が起きているのか分かりません』


「なんかフェムトマシンがおかしくなっているらしいんですけどー!!」


 研究員が慌ててデータを確認する。


「待ってくれ。そんな風になるようには作っていないぞ」


「だとよ?」


『……何が起きているのでしょうか』


 その答えを、誰も知らない。



 ネアの内部。

 これまで眠っていた、本人すら存在を知らないシステムが起動する。


《環境変化を確認》

《宿主身体構造:変化》

《フェムトマシン構成:最適化開始》

《適応》


 誰も知らない。

 この瞬間から、フェムトマシンが少しずつ変わり始めたことを。

 那由多はそんなことなど露知らず、自分の身体を眺めていた。


「これなら、また探索……いや」


 那由多は笑う。


「冒険に戻れるな!」


『まだまだ安静ですよ、ご主人!』


「分かってるって!」


 律が苦笑する。


「お疲れ様。とりあえず今日は帰っていいよ」


「分かった!」


 那由多は拳を握る。


「もっともっと強くなってやるぞ~!」


 その日の夜。

 那由多は眠りについた。

 静かな部屋。

 その中で、ネアだけが暗い画面を見つめている。


 そこに表示されていたのは――


 フェムトマシン適応率:0.01%


 ネアは、その数字をじっと見つめる。


『……私は、一体何に適応しているの?』

那由多は何になるのでしょうか

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