僕の習性
青春――
この二文字を聞くだけで、多くの人が、素敵なものだとかきらきらしたもので何物にも代えがたい楽しい期間だと想像するだろう。
この時間は大人になってからは体験できないもので、社会からの圧もなく皆自由で遊ぶ時間が豊富な時代――そう想像する人が多いはずだ。
ドラマやアニメや漫画、小説なんかでも非常に輝かしい眩しいものとして描かれているものがほとんどだ。全員、毎日わくわくしており、その創作物に憧れを持っている人たちも何人も見てきた。
浮かれきって、羽目を外す人もいるし、先生たちにひどく怒られる人もいる。調子に乗って騒ぐ騒ぐだけ騒ぎ、学生の本分である勉強を疎かにする人が非常に多い。
それは高校生にとって如何なものだろうか。そんなの何も成長出来てはいないのではないだろうか。
……まあ、思うところは多々あるが、別にあまり他人に迷惑をかけなければいいとは思う。
……ただ、廊下を複数人で並んで歩いて通行の妨げになったり、授業中に騒いで先生を怒らせ全く授業が進まなくなったり、休み時間はめちゃくちゃ大きい声で騒いでいるのに、いざ授業中で音読する時間になったときに鈴虫の鳴き声くらい小さな声になったりするのは、どうかと思う。もっと周りを見て自分の行動に一貫性を持ってほしい。……いくら温厚な僕でも腹が立ってしまう。
まあ、ちょっと愚行を許せないときもあるが、基本的には勝手に楽しむ分にはどうでもいい。それに、笑い合って楽しんでいる人を観察するのはそんなに悪いものでもない。微笑ましい気持ちになるし。……ただ、悪口だけはやめてもらいたい。僕のことかと思ってしまうので。
ただ、それも許せる範疇ではある。僕が許すことが出来ないのは自分みたいな青春を謳歌できていないものを下に見ることだ。
別に青春というものに自分自身が合っていなかっただけで、自分のことは下だとは……あまり思っていない。……ちょこっとだけ思わなくもないけど。
ただ、必要以上に下に見て上から目線で物を語ってきたり、同情の目を向けてきたりするのをやめてほしい。別に僕は僕自身で楽しんでいるし、一人でいることに対して惨めに思っていない。……ただ、群れることが苦手なだけだ。大勢の人がいるところとか怖いし。特に知らない人がいっぱいいるところ。職員室とか。偉い先生たちがいっぱい鎮座してるし。
なので、陰キャの僕と陽キャたちでは住んでいる場所とタイプが違うだけだ。ホッキョクグマは砂漠では生きられないし、ラクダは北極では生きられない。環境が違うだけである。
好きで一人でいるのだから、それに関して何とも思わないで欲しい。スクールカーストも存在するかもしれないが、だからといって上にいる人たちが下にいる人たちに偉そうにしていいわけじゃない。というか、うざいからやめてほしい。
よって僕は晴れ晴れとした気持ちで、授業が終わった教室をあとにする。もちろん、横には誰もおらず、一か月この状況なので別に何とも思ってない。はあ、気楽でいい。
このあと部活もないし。
小、中では惰性でスポーツをやっていたが、もうそれもない。この開放感を一回味わうと、なかなか元には戻れないな。清々しい。
「川湊君、ちょっといいかな。」
意気揚々と帰ろうとしていると、後ろからもったりした男性の声が聞こえてきた。
珍しい学校でこの僕の名前――川湊明斗の名前を呼ぶ人がいるとは。
後ろを振り返ると、日本史の先生である向山田先生が丸い眼鏡を微かに揺らしながら近づいてきていた。
……珍しい、僕に話しかける人がいるなんて。
「君に来て欲しいところがあって。」
「……僕に、ですか?」
聞くと向山田先生は首を縦に振る。
折角、この教室というちょっとした監獄から解放されたというのに。晴れ晴れとした気持ちが一瞬で、雲がかかってしまった。はぁ……。
ただ、その気持ちを表に出すことはない。表に出してしまうと、変につっかかれるかもしれないからな。まあ、向山田先生に限ってそんなことはないだろうけど。
しかし、面倒ごとが起きる確率を少しでも下げたいからな。
僕は特に抵抗することなく、向山田先生の後についていく。先生は少し寂しい頭をしており、僕より身長が低くふっくらしている。歩くスピードもなかなかに遅いので、じれったいなと思いながら付いていっていた。
「川湊君は一人が好きなのかな?」
出し抜けに先生がそんなことを聞いてきた。
僕は少し驚いてしまい、しどろもどろになってしまう。
「うん……まあ、はい。変な奴といるよりかはいいかなと思いまして。」
自分の身体が二重になったんじゃないかと思うくらい、びっくりした……。
何で急にそんなことを聞いてきたんだ?先生もやっぱり一人は良くないと思っているたちなのか?まあ、何にせよほっといて欲しい。
「そう……。じゃあ、気が合う人とだったら一緒にいたい?」
「まあ、それはそうですね。なかなかそんな人いませんけど。」
青春を熱をもって楽しみたい人が多い以上、なかなか僕と同じ考えの人はいない。僕はできるだけ波風立てずに過ごしたいのだ。
「じゃあ、ぴったりかもね。」
要領を得ないことを先生は呟く。何がぴったりなのだろうか。




