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一角のアネモイ  作者: pandanikus
第2章 スパイダーフォレスト
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第69話 風雲

城壁内、厩舎の横でリオが愛馬アラシの身体にブラシをかけている。


「アラシ、今日はおとなしいのね。」

耳をピンと立ててアラシは遠くを見渡している。

「なにかあるの...?」


本城のほうから戦士が歩いてくる。

「あ、ムサシだ。」

「ブフォオ」

リオが呟くと、アラシが鼻息を荒げる。


「相変わらずだな。」

ムサシが苦笑いしながら近づく。


「ひさしぶりに会えて嬉しいのよ。馬屋に用事?」

「ああ。コマレアへの国道が完成したらしい。開通式に顔を出せと。道場の様子も気になるから、里帰りだ。」

珍しく素直な返事をするムサシにリオが感心する。


「馬車で行かないの?」

「馬車は好かん。閉じ込められて息が詰まる。ホミニスがひとりで行っていいとさ。」

「それで馬を選びに来たのね。」

「ゴォオウン。」

アラシが唸り声を上げる。


吹き上げる風にたてがみが逆立つ。

「アラシ行きたいみたいね...!」


「おい、アラシ...。」

偶然吹いたと思われた風は、アラシの意志が呼び込んだものだった。


「馬も風使えるんだな。」

ムサシが目を丸くする。


「え、そうなの。すごいじゃんアラシ!」

アラシは目を細め得意げな様子だ。


「いいか?連れて行っても。」

「もちろん。たまには伸び伸びと走らせてあげなきゃ。」


「よし、頼んだぞアラシ。」

ムサシがアラシの鼻先を撫でる。


「ゴゴゴウウウ!」

「ぉお。」

「まあ。」

アラシの新たな種類の鳴き声に、ふたりが顔を見合わせる。


出発を待ちきれずアラシが軽快に蹄を鳴らす。



_______



五戦士の間の円卓、奥の席にミコトが腰掛ける。

魔術盤で地図を生成し、スパイダーフォレストを眺める。

ホミニスが提言した開発計画に思いを巡らす。


実現すれば、王国の歴史を大きく変える。

北方ウリルはムサシの故郷の源流。


ジュラヴ問題等鑑みてもやはり実行する価値はある。

ただ、歴史を変えるには相応の覚悟と犠牲が伴う。


(『この広大な世界に目を輝かせていた若かりしあの頃だ。自分らの代で、ラーフィールを史上最高の国にすると胸に誓っただろう。』)

ホミニスの言葉が頭に蘇る。


病で弱ったホミニスの目を思う。

計画を実行せぬままホミニスを亡くしたとき、自分に同じ提案ができるだろうか。

ミコトが大きく息を吐き頭を抱える。


「ミコト、ダイジョブか。」

やってきたヘラクレスがミコトを案ずる。


「ヘラクレス。大丈夫。ホミニスの計画のことは聞いてるかい?」

「ああ。オレは、理屈はワカらんが...。ミコト助ける。」

ヘラクレスの眼差しが頼もしい。


グラント、ビノダロス、ギデオンが共に入室する。

「ふたりとも早いね!」


「グラント。」

ヘラクレスが笑顔を見せる。


「ホミニスのやつ...だいそれた計画を持ってきおって...。」

「なにを恐れてる。俺様はあのジュラヴの野郎どもが許せねえ。ウリルに殴り込んで、親玉を潰す!シュウッ!」

ギデオンが息を荒げ、ビノダロスを煽る。


「ホミニス、ギデオン、まあ座ろう。冷静に話し合おう。」

ミコトがふたりを交互に見て落ち着かせる。


間を置かずムサシが到着する。

「俺が最後か。待たせたな。」

「大丈夫。来てくれてありがとう。」


「そんじゃ、始めるか。シュウ。」

ギデオンが拳を握り円卓の上に乗せる。


「ホミニスの計画についてはワシから説明するか?」

「ありがとうビノじい。でもここはグラントに頼みたい。中立な説明がほしい。」


「ボ、ボク...!?」

不意の指名にグラントが目を見張る。


「メモ通り、頼む。」

「わかりました...。」

グラントは王族議会で繰り広げられた議論を五戦士たちにしっかりと説明する。


ムサシもヘラクレスも途中質問をせず、黙って話を咀嚼する。

グラントが話し終えた後もしばらく沈黙が続く。


「ありがとうグラント。そういうわけで、北方開拓を進めようという計画だ。ギデオンの参加は決まっているんだね?」

ミコトが切り出し、ギデオンに目を向ける。


「シュッ。アネモイが来たとしても、森が脅威であることには変わりない。犠牲を最小限に留めるため、トラプス軍の主力を投入する。五戦士からは、2名派遣を頼むぜ。」

グラントを除いた五戦士のなかから2名というのは皆の暗黙の了解だった。


「言っておくが、ワシは慎重になるべきと思う。初めはジュラヴの正体解明から端を発した計画だったはすだ。

 しかし現時点で出ている情報を総合しても、森を切り開くことがジュラヴ問題収束に繋がるとは到底思えぬ。多大な犠牲と、新たな危機を招くだけじゃ。

 計画を強行するために、ホミニスが後付けの大義を羅列するような態度がひっかかる。なにか別の狙いがあるように思えてならんのじゃ。」

ビノダロスが言葉を選びながら訴えた。


「うん...ボクも、森は危険だと思う...。ボク見たんだ。森のなかで。たぶん、あれはスパイド族だった。ボクの首が絞まるのを見て、笑ってた。あの顔が、忘れられない。」

グラントがかすかに震えている。


「スパイド族。人食い種族だって?」

ムサシが平然と尋ねる。


「昔はそう言われることもあったそうだけど...ごく一部の過激派が人を襲っていただけだったらしいんだ。父さんから聞いたことがある。」

「スパイドスレイヤー...」

ミコトの言葉でグラントがフェイフェリスの異名を思い出す。


「人を食う者も...実際にこの目で見た。スパイド族は食人によって生命力が飛躍的に上がり、半永久的に、生きることもできる。トラプス軍が餌食となれば、スパイド族に力を与えかねん。」


「ああ!?エサだと!?シュッ!」

ビノダロスの発言が気に障りギデオンが声を荒げる。


「俺たちトラプス軍が、そんな蛮族にやられるわけねえだろうがァ。第一、森の外のスパイドはフェイフェリスが滅ぼしたんだろ。500年前に森に逃げ込んだヤツらはたった4人って話だ。迷い込んだ人間を食い繋いで生きてたとしてもトラプス軍の本隊に敵うワケがねえ。シュッ。」


「オレも、いるぞ。」

ギデオンの話を聞いたヘラクレスが、突然存在をアピールする。


「そ、そうだ。ヘラクレスがいればヤツらなんて敵じゃねえ。すぐにとっ捕まえて保護してやるよ。」

「随分と...いや。」

ムサシがギデオンになにか言いかけて止まる。


「ムサシはどうだい?」

ミコトが意見を乞うと、しばらく間を置いてムサシが口を開く。


「俺は...お前らに任せる。北方への道が開けるのは、俺としては意味がある。どうやら先祖が北から来たらしいからな。」

ムサシが目配せしても、ビノダロスは厳しい表情を変えない。


「でもじいさんが言うことも、わかる。俺が言えるのは、お前らの判断を信じるってことだけだ。必要なら、遠征にも参加しよう。」

ムサシの落ち着いた物言いに、皆顔を見合わせる。


「で、どうなんだ。ミコト。五戦士の結論はお前にかかってるぜ。シュッ。」

ギデオンの問いかけに、ミコトが大きく息を吐く。


「わかった。五戦士としては...実行に賛成したい。スパイダーフォレストは、早めにとりかかるべき問題だ。ただ王族議会の結論がどうなるかわからない。」

「おう。王族は腰抜けだらけだ。」

ギデオンが納得した様子で腕を組む。


「...仕方あるまいな。ただひとつ頼みがある。遠征には、ワシを参加させてくれ。ホミニスの真意を確かめる。」

ビノダロスの申し出に一同はハッとする。


「わかった。頼りになる。」

ミコトとビノダロスがしばし見つめ合う。



_______



コマレア遠征に向かうムサシを、ミコトとギデオンが見送る。


アラシが上機嫌に首を振る。

「ふたり揃って手厚い見送りだな。」


「シュッ。お前らに言っておくことがあってな。ムサシは気づいてるかもしれんが。」

ギデオンの言葉にムサシが頷く。


「なんだいギデオン。」

「ああ...スパイダーフォレスト開拓は、ギデオン...父の悲願だった。計画が成功すれば、ギデオン将軍は歴史に名を残す。シューッ。」

ギデオンが静かに息を吐く。


ムサシがアラシの首を撫でながら、ミコトを見る。


「きっと成功させよう。僕らが作るんだ。新しい歴史を。」

力強くミコトが言う。


「ミコト。ギデオン。風を読め。」

ムサシはそう言うと、勢いよくアラシにまたがった。


「ゴゥフ。」

アラシが短く鳴く。


北からの風が冷気を帯びている。

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