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星を焚べる森(The Forest of Burning Stars)

その惑星には「夜」がなかった。あるいは、地上すべてが「昼」であったとも言える。


地表を埋め尽くすのは、緑色の葉を持つ穏やかな植物ではない。それは、黒曜石のように黒く、鋼のように硬い幹を持つ巨木たちだった。 その名も**「恒星樹ステラ・フローラ」**。


彼らは天からの光を求めない。彼らは自らの樹幹の奥深く、その炉心で水を砕き、原子と原子を衝突させていた。 「ズゥゥン……」という重低音が大気を震わせる。それは風の音ではなく、何億本もの樹木が同時に行っている核融合の鼓動だった。


樹冠からは、酸素ではなくヘリウムガスが吐き出され、それが淡く青い光を帯びて空へと昇っていく。その光景は、あたかも大地そのものが燃え上がり、空へ向かって逆流する滝のようだった。


【禁足地:灼熱の園】

恒星樹の根本、そこは生命にとっての地獄であり、楽園だった。 樹皮の隙間からは余剰エネルギーが青白いプラズマとなって漏れ出し、周囲の気温は数百度に達している。放射線が飛び交うこの**「ホットゾーン(炉心領域)」**に、肉の体を持つ獣たちは一歩たりとも近づけない。


だが、そこには彼らがいた。 体長1メートルほどの、磨き上げられた鏡のような甲殻を持つ節足動物――「鉛甲蟲レッド・ビートル」。


彼らの甲羅は鉛とタングステンの合金のような生体鉱物でできており、致死的な放射線を遮断する。彼らはのそのそと樹木に張り付き、樹皮から滲み出る高エネルギーのプラズマ樹液を、特殊な口吻で直接啜っていた。 「チュイ……」 一口すするごとに、彼らの腹部は核燃料のように青く明滅する。彼らは単なる虫ではない。生きたエネルギー・カプセルだ。


【境界線:飢えたる影】

ホットゾーンから数キロ離れた外縁部。そこは急激に冷え込み、ようやく「生物らしい」温度になる境界線だ。 そこに、影が潜んでいた。


体長5メートルを超える巨大な爬虫類、「放熱竜ラジエーター・ドレイク」。 その背中には、熱を逃がすための巨大なヒレが扇のように広がっている。彼らは飢えていた。彼らの巨体を維持するには、草や肉の化学エネルギーでは到底足りない。彼らが必要とするのは、あの「青い光」だ。


ドレイクは、焦がれるような瞳で輝く森を見つめていた。 あそこに行けば、無限の食料(鉛甲蟲)がいる。だが、一歩でも踏み込めば、自分の細胞は放射線で焼き切れ、血液は沸騰してしまう。 強者であるはずの彼らは、ここでは絶対的な弱者として、ただ「おこぼれ」を待つしかなかった。


【風の祝祭】

その時が来た。 恒星樹の一本が、生成したヘリウムを大量に放出したのだ。 「ヴォォッ!」という音と共に、上昇気流が発生する。


その風に乗り、腹一杯にエネルギーを蓄えた鉛甲蟲たちが、浮遊するために羽を広げた。彼らはヘリウムの浮力を使い、新たな樹木へ移動しようと、ホットゾーンの境界を越えて飛び立つ。


それは、外縁部で待つ者たちへの合図だった。


闇に潜んでいたドレイクたちが、一斉に空へ跳躍した。 長い舌が鞭のようにしなり、空中の鉛甲蟲を絡め取る。 バヂヂッ! 口の中で甲虫を噛み砕いた瞬間、まばゆいスパークが弾けた。肉の味ではない。それは純粋な電流と熱の奔流。 たった一匹の虫を食べるだけで、ドレイクの背ビレは興奮で赤熱し、全身の筋肉が唸りを上げて膨張する。


「グオオオオオ!」 エネルギーの充足に咆哮する獣たち。 だが、深追いしすぎた一頭が、勢い余ってホットゾーンの内側へ着地してしまった。 瞬間、その皮膚が水ぶくれのようにただれ、見えない熱線が巨体を貫く。彼は悲鳴を上げる間もなく、その場に崩れ落ち、やがて炭化して土へと還っていった。


【静寂と循環】

騒乱が去った後、再び重低音だけが響く静寂が訪れた。 空には、核融合の灰であるヘリウムが雲を作り、奇妙な色の雨を降らせる準備をしている。


虫たちは光の中で踊り、獣たちは闇の中でその光を見つめて涎を垂らす。 絶対的なエネルギーを持つ植物と、それに守られた最弱の虫。そして、その恩恵を遠くから盗み取るしかない最強の獣。


この歪で完璧な均衡が保たれた世界に、やがて「知恵」を持つ何者かが降り立つことになるのだが――それはまた、別の話である。

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惑星プロメテア人類史:『炎を盗む者たち』

第1期:墜落と絶望の時代(The Era of Impact)

【起源:西暦3xxx年】 地球からの移民船団「アーク・ノヴァ号」が、エンジントラブルによりこの惑星に不時着。 生存者たちは当初、眼前に広がる光り輝く森を「希望の光」だと思った。しかし、調査隊が森へ足を踏み入れた瞬間、致死的な放射線と数千度の熱に焼かれ、全滅する。


人類の地位: 生態系の最底辺以下。


生活: 植物(熱源)から遠く離れた極寒の荒野で、宇宙船の残骸をシェルターにし、わずかな備蓄食料で食いつなぐ極貧生活。夜のない世界で、常に放射線計の警告音に怯える日々。


第2期:甲殻狩猟時代(The Age of Shell Hunters)

【不時着から約100年後】 備蓄が尽きかけた人類は、決死の覚悟で生態系への介入を試みる。 彼らは気づく。「鉛甲蟲レッド・ビートル」の死骸、その殻だけが放射線を完全に遮断できることに。


技術革新「ビートル・アーマー」: 死んだ蟲の殻を加工して作られた、継ぎはぎだらけの防護服。これを着ることで、人類は初めて「ホットゾーン(森)」の境界線まで近づけるようになった。


狩り: 人類は集団で槍を持ち、放熱竜ドレイクが食べ残した蟲の残骸を拾ったり、弱った蟲を狩るようになる。蟲の体液(プラズマ濃縮液)は、驚異的な燃料となり、暖房と動力を人類にもたらした。


第3期:炉心産業革命(The Fusion Industrial Revolution)

【不時着から約500年後】 蟲の体液を安定した「エネルギー・カートリッジ」に加工する技術が確立される。 人類は森を取り囲むように巨大な**「円環都市リング・シティ」**を建設。


ヘリウム文明: 植物が排出するヘリウムガスを回収し、巨大な飛行船を建造。地上を支配する放熱竜の脅威から逃れるため、都市の上層部は空へと拡張された。


乱獲と反撃: エネルギー需要の増大により、人類は蟲を乱獲し始める。これにより生態系バランスが崩れ、飢えた放熱竜たちが都市の防壁を破壊し襲来する「大災害ザ・パージ」が発生。人口の半分が失われる。


第4期:適応種と旧人類の分断(The Schism)

【不時着から約1000年後】 「大災害」を教訓に、人類は二つの種へと分化した。


適応種「炉心貴族コア・ノブレス」 遺伝子操作とサイボーグ技術により、生身で放射線に耐えうる身体を手に入れた特権階級。 彼らは**「森の中」に住むことができる。** 防護服なしで核融合植物の木陰を歩き、直接エネルギーを管理する。その代償として、彼らの体自体が微弱な放射線を放つようになり、普通の人間とは触れ合えなくなった。


旧人類「凍土のフロスト・ボーン」 森の外、寒冷な荒野や都市の下層に住む一般的な人類。 貴族から配給されるエネルギー・カートリッジだけが頼り。彼らにとって貴族は「神」であり、同時に「触れれば死ぬ忌まわしい存在」として恐れられている。


第5期:現在(Current Era)

【不時着から数千年後】 文明は停滞し、歪な安定期に入っている。


社会構造: 森の中に黄金の宮殿を構える「炉心貴族」と、その外側で彼らを崇めながら蟲の解体労働に従事する「旧人類」。


新たな問題: 恒星樹ステラ・フローラの寿命か、あるいは乱獲の影響か、森の核融合反応が徐々に不安定になり始めている。「光が消える日」の予兆に、貴族たちは動揺し、下層民には不安が広がっている。

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