魔女探し
王宮の執務室に、セリーナのため息が静かに響いた。
机の上には、各地からの報告書が山積みになっている。そのどれもが『魔女の行方は掴めず』と無情な言葉を並べていた。
「……見つからないわね」
精鋭部隊を総動員し、王国中をくまなく捜索させたものの、影も形も見当たらない。まるで風のようにどこかへ消えてしまったかのようだった。
「ここまで見つからないと、探し方を変えた方がいいかもしれない」
隣で報告書をめくっていたカナンが、腕を組んで考え込んだ。
「まさか王宮の中に隠れている、なんてことはないでしょうけど……」
セリーナが疑わしげに窓の外を見やると、カナンがふっと口元を緩める。
「実は、セリーナ。ひとつ試してみたいことがあるんだ」
「何か手がかりでも?」
「いや、ただの勘。でも、たぶん効果はある」
そう言って、カナンは不敵に笑った。
◆
翌日、王宮の中庭。
普段は整然とした芝生と美しい噴水が目を楽しませるはずのこの場所が、今日はとんでもないことになっていた。
――猫だらけ。
長毛、短毛、白、黒、茶、キジ、サバ、ハチワレ、サビ、三毛……あらゆる種類の猫が集まり、思い思いにくつろいでいる。
「……何なの、この光景」
セリーナは自分の目を疑った。王宮に猫が現れることはたまにある。でも、ここまで大量に集まったのは初めてだ。
「本日はこちら、最高級サーモンのムース、キャットニップの香り添えでございます」
「こちらは、鶏のささみを絶妙な火入れで仕上げました、特製ジュレとともにお楽しみください」
王宮のシェフたちが、誇らしげに料理を並べていく。もちろん、猫用だ。
「……ええと、なんでこんなことに?」
「猫が集まれば、あの魔女も現れると思って」
カナンは悠々とティーカップを傾けながら答えた。
「わざわざ猫の食事会を開いたの?」
「ああ、宮廷シェフたちも腕が振るえて満足そうだ」
「……贅沢ね」
セリーナが呆れたように言うと、目の前のシェフがにこやかに頷いた。
「お食事はお気に召しましたか?」
彼は満足そうに魚を食べている猫に話しかける。
猫は喉を鳴らしながら、目を細めて応えた。
「さすが、舌が肥えていらっしゃる」
(なんで猫相手にそんなやり取りしてるのよ!?)
冷静な仮面を被りながらも、思わず心の中でツッコミを入れるセリーナだったが、猫たちは全く気にする様子もなく、ご馳走を堪能していた。
その時――
「ハァ、ハァ……フフフ……」
異様な息遣いが聞こえた。
木の陰。黒いフードをかぶった小柄な影が、猫たちをじっと見つめていた。
「うおおおおおお……猫ぉぉぉぉ……!!!」
フードの奥で爛々と光る目。興奮しすぎて、今にも涎を垂らしそうな口。
「可愛い……可愛すぎる……こんなにたくさんの猫……夢じゃないよね……!?」
魔女は両手を胸の前で組み、恍惚とした表情で猫たちを見つめていた。
「にゃんこ……サイコー……!!」
頬を染め、身悶えしながら、彼女はさらにブツブツと呟く。
「セリーナたんも猫耳と尻尾を露わにしてくれたら……完璧……この世の理想……にゃんにゃん王国……!」
「…………」
セリーナは言葉を失った。
「ふむ。やっぱり来たな」
カナンがすっと立ち上がる。
「しまった!!」
魔女はハッとした顔をしたが、遅かった。
「――逃がさない」
カナンの手から、銀色の網が舞う。
「え、えええええっ!? やめて、やめなさい! 私の自由を奪うなんて、そんなの許されないわ!!」
「許すも何も、君が自分から来たんだからな」
「……ぐぬぬ」
魔女は歯ぎしりしながら、魔力を発動しようとする。が――
「無駄だ。その網は魔力を封じる特別製だから」
「くっ……そんなの……聞いてない……!!」
網に囚われたまま、ずるずると引きずられる魔女。
「さて、それじゃあ……呪いを解いてもらおうか」
カナンが静かに言うと、魔女は「ヒッ……」と、小さく悲鳴をあげて彼を見上げていた。セリーナから見えなかったカナンの顔がどんな風だったのかはーー魔女と猫だけが知っている。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本日もう一話投稿します。
次話『呪いを解く方法』




