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僕たちの2人が食い入るように見つめるそのページは僕が過去に執筆した
ナオミとの恋愛小説の一部分だった。
「こ、これってヒロインの女性に難病が発覚したシーンじゃない」
「栗原さん、それがどうかしたんですか?」
「つまりこのページのせいで誘拐された女性が難病を患ったのよ!」
「物語が繋がっちゃったって事ですか?」
「きっとそうよ。そうとしか考えられないわ」
(うわぁ~ 原因はこの僕だったんだ! ナオミの件もこの僕が若返ったのも。
てか、何で用紙が紛れ込んだの? ……あっ、あの時の地震だ!)
彼女は不安げな表情を浮かべながら次々とベージをめくる中、僕も彼女と
同じ気持ちで物語の進展状況を見守った。
だが過去に執筆した内容が突如として変化するはずもなく、シナリオ通り
ナオミの病状は悪化の一途を辿った。
「やっぱり厳しいかもね、彼女」
「助からないって事ですか?」
「えぇ、たぶんね」
「でも彼女、助かったから執筆後に先生の前に現れたんでしょ」
「あの時は映画で彼女が奇跡的に助かるシナリオに変更されたからだけど、
今回はまだ映画の企画段階で頓挫しちゃったからね」と彼女は一旦読むのを
止め、コピー用紙の束をテーブル上にそっと置いた。
「先生によるとね、このヒロインの女性、ナオミっていう子の他に色んな役柄
演じてるみたいなの。しかもその記憶は消えずに残るみたいよ」
「へぇ~ 私だったら混乱して変になりそう」
「ホント、そうよね。これも先生に聞いた話なんだけど、前に先生が交通事故
に巻き込まれそうになってね、その時にナオミって子が事故回避に一役買った
らしいの。これは私の勝手な想像なんだけど、その子って実は先生のお母さん
だったんじゃないかって」
「先生のお母さん、ですか?」
「そう。先生のお母さんは早くにして亡くなったんで、息子に何もして
あげられなかった事、ずっと悔やんでたんじゃないかな。だから不文律を破る
ような大胆な行動に出たんじゃないのかな~って」と彼女は再びコピー用紙に
手を掛けた。
「そうなのかな~」
「まぁ、ホントのところ分かんないけどね」
〈ピッ!〉〈ポッ!〉〈ポッ!〉……
「ちょっと、ごめんね」と彼女がポケットからスマホを取り出し、会話が一時
中断する間僕はラスベガスでのナオミとの会話を振り返っていた。
(確か以前ナオミが浮かない表情で愛人役を演じたみたいな事言ってたかも。
その愛人が僕のお母さん? つまりナオミの前に僕のお母さんを演じてた
って事? もしワイドショーの報道が事実ならかなりの確率でそうなのかも。
有名作家って出版社の経費で海外旅行によく行くし、愛人連れでラスベガスの
スイートルームに宿泊って事も珍しくないしな~ かおりちゃんの頭にある
ラスベガスの記憶も僕と過ごすずっと前の、つまり愛人としての記憶だったの
かもしれないな)
〈ピッ!〉
「ごめんね。話の途中で」
「いえ、気にしないでください。さっきの話なんですけど、何んだか腑に
落ちないって言うか、ちょっと変だと思いません?」
「変って?」
「だって、どうして田町先生は事故で亡くなったんですか? ナオミさんとの
恋愛小説で主人公は亡くなる設定だったんですか?」
「確かにそうね」と彼女は再び用紙の束を手に取りパラパラとめくり始めた。
――
―――
「ふふっ! なるほどね~ そういう事か」
彼女の表情が一変すると、満面の笑みで最後のページを放り投げた。
「私もいい加減新しい恋見つけなきゃね」「ねぇ、川田さん、
来週婚活パーティー行くんでしょ。私も参加していいかしら?」
「もちろんいいですけど……、どうしたんですか? 急に」
「新しい恋がしたくなっただけよ!」「さっ、もうこの話はおしまい!」と
2人は笑顔で部屋を後にした。
一人取り残された僕は何が起こったのかも分からず、とりあえず彼女が
ほおり投げた最後のページのラストシーンに目を向けた。
『未だ呪縛に苦しむ王女と共に彼は脱出に成功した。
だが不運にも崩れ落ちる城壁により彼はリサージェントソードを握りしめ
ながら静かに息絶えた』
(こ、これってまさか僕たちの事? となればリサージェントソードで復活可能
なんだけど。でもあの時僕、剣なんて握ってたっけ? ま、まさかの剣先イカ?
〈〈剣先イカか――い!!〉〉
【キャスト】
田町レン
白田かおり
栗原さゆり
高杉健作
横山進
水原武
磯田史子
段田久実
森早希
大蔵茂三
百田泉
成宮正樹
西成のおっちゃん
手配師の男
作業服姿のおっちゃん
ホームレス風の男性
ベテランホームレス
新庄真弓
源田淳史
救命隊員の皆さん
看護師の皆さん
滝沢将司
除細動の医師
川田久真子
藤崎ナオミ(愛情出演)
ジョセフ・Y・森川(方言指導)
衣装協力
ノンキホーテ ウニクロ
医療指導 医療機器協力
ソレ・ムリヤンナ医科大学病院
ロケ地協力
大阪市西成区
大阪市中央区・道頓堀周辺
監督・脚本 リノ バークレー
――3年後――
〈ドックン!〉〈ドックン!〉〈ドックン!〉……
リズミカルに脈打つ鼓動の中、僕はいつものように目覚めた。
まるで海月のように海中でプカプカ浮かぶこの感覚は毎回二度寝したくなる
ほどの気持ち良さだ。
僕は思わずあくびと同時に大きく伸びをした。
「あっ! 今、赤ちゃん私のお腹蹴ったよ」
「元気な赤ちゃん、生まれそうだね」
「うん。私、今とっても幸せよ。あなたがそばにいて、しかもお腹に赤ちゃん」
「ずいぶん大げさだな」
「だって私、こんな未来想像出来なかったんだもん」
「ごく普通の家庭だと思うけどな~」
「実は私、あなたと出会う前に大病を患ったの」
「えっ、そうなの? ナオミが話してくれないから僕、全然知らなかったよ」
「ごめんね。別に隠すつもりはなかったんだけど何だか言いづらくて」
「じゃ~ もう完全に治ったんだよね」
「うん。ところであなた、赤ちゃんの名前なんだけど」
「そうだったね。ナオミの言う通り男の子だったんだから、ナオミに任せるよ」
「ホントにいいの?」
「もちろんさ。で、名前はもう決めてるの?」
「うん」「レン、漣にしようと思うの。どうかしら?」
「なんだかいい響きだよね。僕も気に入ったよ」
「ホントにいいの?」
「もちろんさ」
「あなたに気に入ってもらえて良かった!」
「ところで漣って何か意味とかあるの?」
「うん。さざ波よ」
「漣には私たち家族に囲まれて穏やかに成長してほしいの。さざ波のようにね」
【終わり】
*最後まで読んで頂きありがとうございました。




