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〈ピコン!〉〈ピコン!〉〈ピコン!〉……
【ニュース速報・逃走中の田町レン容疑者 事故により死去】
今朝のニュース速報でついに僕の死亡が確定した。
事故からわずか数日というタイミングでの発表だが、それは僕にとって実質
日数以上長く感じてしまう。
なぜなら肉体を持たない僕は瞬時何処へでも移動可能なゆえ、体感的に時間
を持て余してしまうのだ。
さらに僕は誰かに話し掛ける事すら叶わないし、睡眠の必要性すらない
のだから尚更だ。
ナオミは一命を取り留めはしたが、未だ意識が戻らず小康状態が続いている。
僕はというと先の見えない何とも不安で孤独な毎日を過ごしている。
そして”死”とは何なのかと今更ながら肌身をもって考えさせられる日々だ。
僕はてっきり人が死んでしまえば人生リセットされるもんだと思っていたが
どうもそれは見当違いのようだ。
たとえ肉体が滅んでも、魂は以前と同じように意思を持ちながらこの世に
存在するんだと。
これはあくまでも僕の私見だが、僕のような不慮の事故に遭うと今のように
魂だけこの世に取り残されてしまうのかもしれない。
おそらく人のDNAに組み込まれた運命をその人物が全うすれば肉体と魂が
同時に消滅し、その後新たな魂にそれまでの記憶が上書きされる。
そしてその上書きされた新たな魂が”あの世”と称される別の世界へ旅立つ
のかと。
つまり長い闘病生活の後に死去した場合がこのケースに当たるが、僕のように
突発的に肉体を失ったり、自殺のように無理やり肉体を死滅させると魂だけが
この世に残ってしまうのかもしれない。
もしそれが真実ならば自殺は絶対にするべきではないと僕は断言出来る。
なぜなら人生リセットされないどころか誰とも話せない、そして自らの存在
すら気づいてもらえず一人孤独の闇に生き続けるなんてあまりにも過酷で辛す
ぎるではないか。
底知れぬ寂しさから自害した人がつい遠足などの集合写真に写り込んでしまう
その気持ちも今の僕なら容易に理解出来る。
彼ら同様、賑やかな場所や人の集まりに紛れないと精神のバランスが保てない
のがまさに僕の現状だ。
そして今日僕はそんな寂しい現状を少しでも緩和しようと以前お世話になった
出版社へ瞬間移動を試みてみた。
・・・
・・・・・
(何だか妙に懐かしいな~)
僕はまるで出版社の社長になった気分で各部署を順次移動し、立ち話している
グループに近づいてはしれっと話す内容に耳を傾け続けた。
(みんな今朝のニュース速報見たのかな? どうして話に僕の話題が上がらない
んだろ? 僕、死んだんだよ! それって衝撃的だよね。まさか、誰もこの僕に
関心ないって事?)
そんな当初の予想に反した状況に落胆している僕の背後から女性の声が!
「すみません。栗原さん、どこに行かれたかご存知ですか?」
「彼女、たぶん資料室だと思うよ」
「そうですか、ありがとうございます」
(栗原さん、大丈夫かな……)
・・・
・・・・・
資料室への瞬間移動で僕が目にしたのは、ロッカー前でしゃがみ込み
肩を震わせ号泣する彼女の姿だった。
「ううっ……」
(く、栗原さん)
〈コン!〉〈コン!〉
「は、はい」「どうぞ」
「栗原さん、大丈夫ですか?」
「ええっ、もう平気よ」と彼女はハンカチで目頭を押さえながら立ち上がった。
「副編集長が今日は仕事いいから、早退するようにって」
「うん。じゃ~ これ整理したら早退するね」と彼女はロッカーの片隅に
置かれた段ボール箱を慎重に取り出した。
「何ですか、それ?」
「この中に田町先生の私物が入ってるのよ」
「あの~ ちょっと聞いていいですか?」
「どうぞ、私の知ってる範囲でなら答えるわよ」
「田町先生ってどんな方だったんですか?」
「そうね~ それって難しい質問ね。人って色んな側面があって、私に見せる
顔、編集部のスタッフに見せる顔、それに誘拐された女性に見せる顔、全て
違うと私は思うの。だから正直分かんないわ」
「そうですよね。でも今回の騒動に関して私、全然理解出来なくって」
「そうなの?」
「だって、有名作家でお金も社会的地位も全部手に入れたのに未成年を誘拐
するなんて。やっぱり作家さんってちょっと変わってるのかなって思っちゃい
ますよ」「あっ、余計な事言ってごめんなさい」
「別に謝らなくったっていいわよ。でも今回の件に関してはとってもシンプル
だと思うの」
「それってどういう意味ですか?」
「ねぇ、川田さん、作中の登場人物が自ら意思を持って、時に作者の目の前に
現れるって信じれる?」
「まさか、そんな映画みたいな事あるんですか?」
「実は先生がまだアマチュアの頃に経験したみたいなの」
「そ、それでどうなったんですか?」
「もちろん二人は恋愛関係に発展したんだけど、ある日突然彼女が消えちゃった
のね。でも本気で彼女に恋した先生はもう一度会いたい一心で執筆活動を続けた
のが偶然功を奏して小説家デビューしたみたいよ」と彼女はゆっくりガムテープ
に手を掛けた。
「じゃ~ 先生は小説家を目指してたワケじゃないって事?」
「まぁ、そういうことになるわね。誘拐はさすがに想定外だけどね。たぶん、
彼女にそっくりな女性が目の前に現れて、つい暴走しちゃっのかもね」
「なるほどね~ あっ、栗原さん、手伝いましょうか?」
「ありがと。じゃ~ これお願い」と彼女はコピー用紙の束を手渡した。
「あと、先生こんな事も言ってたわ。自分が物語を執筆してきたように
自分自身も誰かに執筆されてるんじゃないか、ってね」
「そんなの疑うって、何かあったんですか?」
「実は誘拐した女性が恋人と全く同じ病気を患ったのよ。しかも世界的に
症例が少ない難病で、偶然にしてはちょっと変でしょ」
「確かにそうですね。やっぱり誰かに創作されてたって事なのかな」
「たぶんね。だって説明がつかないもんね」「あっ、これもお願い」と彼女は
更なるコピー用紙の束を手渡した。
「これって先生の原稿ですか?」
「そうよ」と彼女はテーブルに並べられた原稿に目を通し始めた。
僕はすくさま彼女の背後へと回り込むと、原稿用紙に書かれてる内容を
彼女と一緒に目で追った。
主人公の男性が都会での生活に疲れ、長閑な田舎暮らしで出会う人々との
交流により本来の自分を取り戻すこの物語は問題なくスムーズに進行していた。
そしてかおりちゃんをはじめとする就労支援サービスのスタッフ達も登場する
展開に差し掛かり、彼女が読み終えた用紙をめくった瞬間事態が一変した!
「あっ!」
(あっ!)
僕たちはまるで息を合わせるように声を上げた。




