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あの日以降僕たちの生活は一変した。
いつ捕まるかもしれないという不安や恐怖から僕たちは疑心暗鬼となり、
常に過度なストレスを感じながら互いに身を寄せ合う生活が続いた。
〈ガチャ!〉
「おかえり、先生。大丈夫だった?」
「それがさ~ 僕が店員にカゴを渡すとチラっと僕を見ては目を逸らしたり
なんか不自然でちょっとヤな予感がするんだけど」
「気のせいでしょ。そんなの」
「そうかな~ もしかして今頃警察に電話してるかも」
「大丈夫よ、そんなに心配しなくても」「それより先生にお願いがあるの」
「お願いって?」
「先生、これ覚えてる?」と彼女は布バッグからポイント表を取り出した。
「かおりちゃん、ホントよく頑張ったもんね」
「でしょ~ だからご褒美として私と一日デートしてほしいの? だって私
いつ病気で動けなくなるか分かんないんだもん。だから、ねっ。いいでしょ!」
「でもさすがに2人で外出はちょっと危険過ぎない?」
「実は私、すっごくイイ事思いついたの」
「じゃ~ クイズよ! あさって31日は何の日でしょう?」
「10月31日って言えば…… ハロイン?」
「そう、大正解! だから~」
「だから何?」
「も~っ、だからお互い仮装すればその日一日堂々とデート出来るじゃない」
「そっか~ なるほどね」
「デート、OKよね!」
「まぁ、それはかおりちゃんの体調次第かな」
「じゃ~ その日調子良かったら絶対デートよ!」
「うん、わかったよ」
『やった――っ!』
彼女は満面の笑みを浮かべながら再び布バッグから雑誌を取り出すと一転、
今度は真剣な眼差しでページをめくり始めた。
「先生、このドレスとこのドレス、あとこのドレス。どれがいいと思う?」
「えっ、かおりちゃんドレス着るつもりなの?」
「何よ、私がドレス着たらダメなの? それとも何? 私には似合わない
とでも言いたいワケ?」
「いや、そうじゃないけどさぁ~」
「もういいから早く選んでよ」
「じゃ~ コレなんてどう? 結構シンプルだし」と僕は派手過ぎないシック
な色合いのドレスを指差した。
「え~っ、ちょっと地味じゃな~い」
「ねぇ、先生、このドレスって素敵だと思わない?」
「ずいぶん派手だよね。コレってまるでお姫様じゃない」
「いいの! これで」「先生、早速明日買って来てね!」「あとは先生の衣装
だけど~ どうするの?」
「そんなの今急に言われても」
「そうね~ 私がお姫様だから先生は王子様でいいんじゃない」
「ずいぶん適当だな」「それより、かおりちゃんに謝りたい事があるんだけど」
と僕は雑誌を閉じながら身体を彼女に向けた。
「実はね……」
「ちょっと待って!」
「それデートが終わってからにしない? だってデート前に先生から謝られて
テンション下がるのヤだもん。ねっ、後にしよ」
「分かった。じゃ~ 後にするよ」
「でね、先生の仮装だけど王子様だったらヒゲで口元隠せるし、目は濃いめ
のサングラスしてれば絶対ばれないよ。はい、先生は王子様で決定!」
「でも王子がサングラスってちょっと不自然じゃない?」
「バカンスに来た王子様と夏風邪をこじらせたお姫様ってことでいいじゃない」
「夏風邪?」
「だって私、マスクするもん」
「ふっ! かおりちゃんってちょっと変わってるよね~」
「先生に言われたくないわ。ふふっ!」
僕たちがホテルの一室に潜み談笑する傍ら、警察は防犯カメラの解析、
各メディアは僕個人の生い立ちから人間関係に至るまで徹底的に調べ上げると、
各局連日ワイドショーを通し発信し続けた。
彼らの取材能力は想像以上に凄まじく、中には僕さえも知り得ない
超プライベートな情報まで含まれていた。
―田町の出身学園―
〈ピンポン!〉
『はい』
『あの~ ちょっと田町容疑者についてお伺いしてもよろしいでしょうか?』
『何でしょう?』
『田町容疑者は高校卒業までこの学園に在籍していたってことで間違いない
ですよね』
『はい、園長からそう聞いてますけど』
『田町容疑者ってどんな生徒さんだったんでしょうか?』
『特に問題があったとは聞いてないですけど』
『田町容疑者の父親は作家のK氏ってことでよろしいですよね』
『すみませんが、プライベートな事はお答えできません』
『じゃ~ 最後に田町容疑者は作家K氏の隠し子、つまり愛人の子供っていう
ウワサがあるんですけど~ それについては……』
『だからプライベートな事はお答えできません』
〈〈ガチャ!〉〉




