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9-1(24)

〈ガチャ!〉


「栗原くん、ココにいたのか」

「あっ、副編集長」

「何だね、その荷物は?」

「田町先生のですよ」

「田町くんの私物がどうしてこんなトコに?」

「だってマンションの管理人さんから連絡があって、さっき取りに行って

来たんです」と彼女は段ボール箱を次々とロッカー横の僅かなスペースに

手際よく積み上げた。

「なるほど。それは大変だったね。ご苦労さん」

「置手紙に全部処分するようにって書いてあったんですけど、一応持って

来れる物だけでもココで保管しておこうかなって。先生が戻って来られる

かもしれないんで」と彼女は段ボール箱にマジックで印をつけた。

「ところで田町くんについてその後の進展は?」

「特にナシです」

「そっか~ 進展なしか」

「一応、施設側には今のところ警察沙汰にせず待ってもらってる状態なんです

けど、もうそんなに長くは期待出来ないと思います」

「だよね~ 代理店や芸能プロには体調不良って事にしてるけど、いつまでも

隠し通せるワケでもないしな~ もし今回の件が明るみにでも出たらまさに

ウチの信用問題に関わっちゃうよ」と彼はため息交じりに頭を掻いた。

「私、一応施設にも顔出したんですけど、先生は尋ねて来なかったみたいです」

「施設って?」

「あっ、田町先生が昔お世話なってた学園のことです」

「施設、施設ってややっこしいな」

「すみません」

「まさか栗原くん、学園に今回の件、話してないよね」

「もちろん話してないです。ただ先生が執筆中に逃走したとだけ伝えました」

「そ、そうか」「それで、結果どうだった?」

「いえ、特に今回に件に関する事は何も。ただ、先生の生い立ちなんかを結構

詳しく聞くことが出来たぐらいです。先生の父親って小説家だったんですね。

私、名前しか知らなくって。それで園長先生からこの本お借りしたんです」

と彼女は一冊の単行本を紙袋から取り出した。

「こりゃ、驚いたな。まさか田町くんがあの作家の息子だったなんて」

「副編集長、ご存知なんですか?」

「いや、実際会ったことはないんだけどね。この業界じゃ、結構有名だよ」

「売れっ子作家なんですね」

「まぁ、それはそうなんだけど」

「何か他にあるんですか?」

「いや、キミから田町くんのお父さんって聞いて言うのもなんだけど、あまり

私生活の評判が良くなくってね」と彼は単行本をパラパラとめくり始めた。

「へぇ~ ベストセラー作家なのに?」

「田町くんもそうだけど、売れっ子作家って取材と称してよく海外旅行に

行ったりするだろう。でも彼の場合毎回とっかえひっかえ愛人を連れて行く

って業界では有名なんだよ」

「なるほどね。でもそんなイメージないけどな~」

「そりゃ、週刊誌もスキャンダルとして取り上げないからね」

「えっ、そうなんですか。なんか意外。有名作家の不倫って結構インパクト

あると思うんだけどな~」

「そんなの掲載して作家と縁切れちゃったら出版社として大損害だからね」

と彼は単行本を閉じ彼女に手渡した。

「それにしても学園側からそんなプライベート情報よく聞き出せたね」

「園長先生がね、本当は個人情報開示は出来ないんだけどって前置きしながら

色々教えてくれたんです。で、帰り際に先生から『田町くんのこと支えて

あげてね』って言われちゃって~」

「そうなんだ。ずいぶん信頼されちゃったんだね」

「そうなんですよ~ ふふっ!」

「それにしても田町くん、どうしちゃったんだろうね。愛人作るぐらになら

まだしも誘拐だよ、誘拐。それも相手は未成年の女の子って」


〈ピッ! ポッ! ポッ!〉〈ピッ! ポッ! ポッ!〉


「あっ、すみません。メール確認していいですか?」

「もちろん」


――


「副編集長、磯田室長からです。近いうちに会う機会、作ってほしいですって」

「ついに最後通告が来たか……」

「そうみたいですね、残念ながら」


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