Ⅱ 都 -16
蘭は暗い天井を一人で見つめていた。
温泉で温まった体に、夕飯の時飲んだお酒がじんわり染みて、ふわふわと体が浮いているようで、気持ちがよかった。
都やその周辺で、一般的に広まっているジーニというお酒を、蘭は初めて飲んだが、スッキリしていて飲みやすかった。
信はキースの煽りもあって、飲みすぎ、キースたちの部屋で潰れていた。
普段、そういったヘマをすることがない信だが、キースに挑発され、どんどん杯を進め、そんなに飲んでも顔が変わらないのだなぁと感心していると、急にテーブルにつっぷして、寝てしまった。
それを機に、キースは、さあ、部屋に戻ろうかと立ち上がった。
まるで信が潰れるのを待っていたかのようだと思い、そう言うと、キースはにやりと笑って言った。
「これで、ゆっくり眠れるでしょ?」
そうして、信はキースの部屋に運び込まれ、床に転がされた。酔っ払いを蘭の部屋に置いておくわけにはいかない、というのがキースに言い分だった。
ザックは苦笑いして、
「まぁ、わしも都の人間じゃからの。お前さんたちを二人きりにするのは、ちと心苦しかったんじゃ。大事な預かりものの娘さんじゃからの」
そう言って、蘭の部屋まで、蘭一人を送ってくれた。
「じゃあ、明日の」
信には悪いが、なんだが温かい気持ちになり、寝台に横たわると、ほっとした。
村を出てから、一人になるのは久しぶりだ。瞼が重くなり、身体からゆっくり力が抜けていった。
蘭は天井も壁も床も白い廊下を、ただただ歩いていた。曲がり角もなく、ただただ真っ直ぐな廊下が延々と続き、終わるところなどないように思われた。
それでも蘭は歩き続けるしかなく、心細くなりながらも、懸命に足を動かしていた。
そのうちカタンカタンという織機に音が聞こえ始め、廊下の先に誰かがいるということが分かった。
蘭は走り出した。
音はだんだん大きくなり、永遠に続くかと思われた白い色も、少しずつ色を帯び始めてきた。ぼんやりと織機に座る人影が見え始めた。
声をかけると、たちまち消えてしまう気がして、蘭は黙って走った。
しかし、その人の所にはたどり着けない。近くなってくる気さえしない。
蘭はたまらなくなって、思わず、叫んだ。
「凛!」
人影が振り向いた気もしたが、そうと分かる前に、急速に織機もその人も白い色に吸い込まれてしまった。
うまく呼吸ができない。蘭は白い廊下で立ち止まった。荒い呼吸を繰り返し、どちらに行っていいか分からないと思った瞬間、これは夢なのだと、気が付いた。
蘭はきつく目を瞑った。




