Ⅱ 都 -14
都へと続く街道に出るまで、丸二日かかった。蘭や信は、子どもの頃から狩りに飛び回っていた針森の山は、外の人間には恐ろしい魔の山であるらしい。蘭と信だけであったら、半日もあれば行ける道も、何度か来たことがあるというだけの不慣れな旅人と、たくさんの反物を担いでの道中は、確かに大変だった。
今回は蘭と信がいることで、山歩きがとても楽だと、ザックは喜んでくれた。危険な動物を回避する術も、野宿に適した場所も知っていたからだ。合わせて、茶羽をを射落として、晩御飯に食べた時などは、涙を流さんばかりに喜んだ。
「旅の時は、干し肉ばかりじゃからなぁ」
これから先が楽しみだと嬉しそうに言うザックを見ながら、蘭は凛のことに思いをはせていた。
「どうかした?」
信が声をかけてきた。
「いや、凛も干し肉ばかり食べながら、旅したのかなと思って」
「弓矢は……持って行ってないか」
信の言葉を聞いて、キースが噴き出した。
信が睨むと、ごめんごめんと息を整えて、
「凛て、巫女になったっていう、蘭の妹だよね。弓矢もって、狩をしながら旅する巫女さまを、想像しちゃって」
蘭と信にとっては、ちっともおかしくなかったが、凛のことを知らないキースにはおもしろいらしい。
ザックがキースの頭をはたいた。キースは頭を掻きながら、なおも言葉をついだ。
「都ではね、巫女に選ばれることは千載一遇の幸運なわけ。巫女さまは、なんていうか、人間ではなく、雲の上の方なのね。だから、ふざけた言い方をすると、こうして怒られる。でも……」
キースは蘭を見ながら、ほほ笑んだ。
「元はみな、普通の娘なんだよね」
蘭は、凛のことを話したり聞いたりしている自分に気が付いた。まだ、笑って話すことは出来ないが、青ざめて震えてしまうようなことはなくなった。
少しは前に進めているのだろうか。
針森をぬけ、街道に出ると、ザックとキースは途端に足早になった。歩きやすくなったからかと思ったが、キースは首をふった。
「森沿いの街道は、盗賊がよく出るんだよ。いつもなら、出会っても、荷ひとつで退散してくれるけど、今回は蘭が一緒だから、出会いたくない」
女は盗賊の好物だ。特に、蘭ほど美人だったら、商品としても価値がある。
「蘭、親父の布で髪を巻いて隠して」
ザックは自分の頭に巻いていた布を蘭に渡すと、蘭はそれを頭に巻き、美しい黒髪を隠した。顔にも地面の土を塗り付け、小汚くする。服はもともと、動きやすいように狩をする服装で発ったので、一見女性には見えなくなった。
キースは満足そうにうなずくと、
「弓矢も持っているし、若い用心棒に見えるだろう」
そして信に目を向けると、短くため息をついた。盗賊の話が出た途端、信はいつでも守れるように、蘭の側にピタリと付いて歩きだしたのだ。
「そんなあからさまに、蘭にひっついていたら、女だってばれちゃうよ」
むしろ、俺たちにくっついてくれなきゃ、と続けるキースを無視して、信はザックに声をかけた。
「俺は一番後ろに付きます。蘭はザックさんの横に付いて」
俺は無視かよ、とキースはぼやいて、蘭の後ろに続いた。緊張すべきところなのに、笑いが込み上げてきた。
蘭を狙っている身としては、信はライバルなはずだが、自分に対してだけ子どもっぽくむきになる信のことを、キースは気に入ってしまっていた。
……これがまた、信の気に障るんだろうな。
背中に殺気に近い念を感じながら、キースは笑いをこらえて歩いた。




