第7話 リベンジスタート
「よう。おはようオセロ」
「おはよう、ミーゼ」
明朝、僕は雑貨屋に来た。
ミーゼとその父親がカウンターに居る。ミーゼはいつものように頬杖をついてめんどくさそうにしている。町はいたって平和で、〈レキ村〉のことはまったく知らない様子だった。
僕は左目を瞑りながらカウンターの方へ歩み寄る。
「今日は俺が店番やってやるから、お前はオセロとデートにでも行ったらどうだ?」
「うっせぇ親父、あたしらはそういう関係じゃねぇっての。それにな、コイツにはすでに愛しの姫様がいるんだよ。な! オセロ」
そういえば、ミーゼには何度かヒカリの話をしたっけな。
「……うん、そうだね」
僕は笑顔を作ってそう言った。
「そんで、今日はなにを買いに来たんだ? 卵か? ミルクか?」
「今日はね、アレを買いに来たんだ」
僕は店に飾ってある剣――“棘の無い薔薇”を指さす。
「冗談言うな。お前にアレを買えるだけの金はねぇだろ?」
ミーゼの父親が言った。
「これと交換でどうですか?」
そう言って、僕がカウンターに置いたのは宝石で出来たコイン――“リベンジコイン”だ。
「そのコインはアルハルトンという宝石で出来ているそうです。売れば100万ゼラになると聞きました」
「……ちょ、ちょっと見せてみろ!」
ミーゼの父親は虫眼鏡でコインを鑑定し、顔中に汗をかいた。
「すげぇ、本物だ! 採れる場所によって色が七色に変化する宝石、アルハルトン! 100万どころか、300万で売れる代物だ! それに“棘の無い薔薇”と違って買い手はいくらでもいる!」
「交換してくれますか?」
「もちろんだ!」
ミーゼの父親は脚立に立って飾られた“棘の無い薔薇”を回収する。
「ほらよ。ウチの看板娘だ」
親父さんから“棘の無い薔薇”を両手で受け取る。
ズシ……と両手が沈む。
思ってたより重いけど、ギリギリ片手でも振れるぐらいの重さだ。
なぜ僕が“棘の無い薔薇”を買ったか。武器が欲しかったというのはもちろんだが、ただ単にリベンジコインを早く手放したかった。このコインを見ているとハムレットを思い出し、苛立ちが湧いてくるからだ。
「ほれ、これが鞘だ」
「鞘があったんですね」
「鞘というか、それを持ち歩くためのケースって言った方がいいかな」
“棘の無い薔薇”の鞘はくすんだ緑色だ。雑草色とでも言うのか。
鞘には肩掛けのベルトが付いており、鞘に“棘の無い薔薇”をしまい、ベルトを肩に掛けることで背負える。
「すみません、眼帯ってありますか? 左目を怪我しちゃって」
「あるぜ。おまけにタダでくれてやる」
「ありがとうございます」
僕は親父さんから黒い眼帯を受け取り、眼帯で左目を覆って隠した。
この“Ⅶ”が刻まれた左眼は目立つし、それに外気に晒すとヒリヒリして痛むのだ。……例え左眼を出していても眼に映るのは常に地獄だから、そもそも出す意味がない。
眼帯で眼を隠すと、あの地獄の光景が霞んだ。良かった……これならなんとかメンタルを保てる。
「剣なんて何に使うんだ?」
ミーゼが問う。
「狩りだよ。“棘の無い薔薇”を使って、狩りをするんだ」
「へぇ、イノシシでも狩るのか? あたしにも少しぐらい肉わけてくれよ」
「それは無理だ」
「え?」
「――骨一本残す気ないから」
僕はミーゼに背を向け、扉へ向けて歩く。
ヒカリ。僕にもできたんだ。命を賭けて、人生を賭けて成したいことが。
ずっと、君以外のすべてがどうでも良かった。そんな僕が初めて夢を持った。
いま、僕の胸の内にあるものこそが情熱と呼ばれるものなのだろう。
――ハムレット。
必ずお前を見つけ出して、殺してやる。
「リベンジスタートだ……!」
すべてはゼロに戻った。
金も、故郷も、愛する人も、左眼の景色も、全て失った。
あるのは一振りの剣と奴を殺すという夢のみ。
僕の暗い感情とは裏腹に、空は晴れて、この冷えた大地に温かい陽光が差し込んでいた。
嫌になるぐらいの冒険日和だった。
---序章 完---
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