お返事を
あたしは、次の日、気合いも新たに、たっくんの部屋へと向かった。
取り敢えずは、テンの散歩を何となくギクシャクと済ませ部屋へ帰る。
(善は急げだ、行けーやれー!)
と思いつつも声が出てこない。珍しくコーヒーを選んで、ズズっと飲みながら前に座るたっくんをチラ見する。
「あの…」
たっくんが何か言いかけて、また黙る。
(これじゃ、にらめっこだ!)
「たっくん…あの、昨日のその…」
「うん…」
戸惑う様子があからさまに解る。あたしは心を決めた。
「あたしで良ければ、お願いします!」
そう言って思いっきり頭を下げてみた。
(バンッ)
その瞬間に激しい衝撃が額から走った。余りに勢いよく頭を下げたので、テーブルに額をぶつけたようだ。一瞬、意識が飛び、その後、痛みが額に
「いったーー!」
「だ、大丈夫?」
たっくんがあたしの横に慌てて来て座る。
「う、うん大丈夫」
(ヒリヒリッ!痛っ)
しかし、今は、それどころじゃない!
「あの、あたしなんかで…たっくんはいいの?」
あたしは額を押さえながらも聞いてみた。
「なんかって!僕には未来ちゃんしか居ないんだよ!」
(!!!)
「僕は未来ちゃんとあの日に出会うまで、もう、死んじゃってもいいかな…って思ってたんだ」
俯くたっくん。
「…!何故に!たっくんはイラストも売れてて、こんなにマンションに住んで、あたしより随分と格上だったじゃない」
「格上って……」
たっくんは、戸惑った顔をしながら
「僕さ、イラストが売れて田舎から逃げる様にこっちに来たけど、やっぱり、引きこもりで、ぼっちなのは何も変わりなくて…スマホに変えようとしても、レンタルショップで会員になろうとしても、いつも名前が気になって出来なかったんだ。毎日誰とも喋らず誰とも会わず、ましてや彼女なんて出来るなんて思ってもいなかった」
「そ、そんなぁ…」
「それで、こんな毎日が一生続くならいっそ死んだ方がマシだなって…」
それを聞いただけで、あたしは泣きそうになった。
「だけど、あの日、未来ちゃんに出会って
僕を好きだと言ってくれて、ここに来てくれるようになってから、僕のモノクロで何も無かった世界に一斉に、いろんな色が溢れ出したんだよ。惰性の様にやってた仕事もどんどんイメージが湧いて来て、僕の世界が全く変わったんだ」
(そんなにまで言ってくれるなんて!)
「いつも、ホントに僕の事を好きでいてくれるのかな?嫌われたくないって思ってた。毎日、未来ちゃんが来るのが嬉しくて、そして帰る時はいつも寂しかった」
あたしは、その言葉に思わず、ポロポロと涙が出てきた。
あたしも同じだった。来る時は嬉しくて、帰る時は寂しかった。
「それで…ずっと一緒に居たくて、一生そばにいて欲しくて…」
「うん、ありがとう。たっくん」
あたしは、泣きながら返事をした。
「泣かないで、突然でびっくりさせてゴメンよ。未来ちゃんとはケジメをつけて、その…付き合いたかったんだ」
彼らしい、そんな、たっくんを好きになったんだ。
そして、これが夢でないよう確かめるようにあたしは、ずっと言えなかった一言を勇気を出して言ってみた。
「たっくん…ギュッてして」
たっくんは、一瞬ビクッとしたが
「う、うん」
と返事をすると大切な宝物を触るように腕をあたしにまわすと。ゆっくり抱き寄せてくれた。初めての彼の腕の中、彼の胸の暖かさ心臓はドキドキしてるのに凄く安心する感じ
(やっと、ここまで…)
と浸っていると膝にドンと衝撃。
それは、テンだった。体をくねらせ、必死であたし達の間に割り込んでくる。そして間に入るとたっくんとあたしの顔を交互に舐めまわした。どうやら、この可愛いおじゃま虫は、あたし達に焼きもちを焼いてる模様。
”僕が一番!僕が一番!”
とでも言いたいように、黒い目をキラキラさせて、慌てて尻尾を振って舐めまわす。あたしとたっくんは、目を合わせ笑いながらテンを撫でた。緊張してた空気が和らいでいく、あたし達を会わせてくれたテン。
これからもずっと一緒ね。




