表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/149

中編

 翌朝。

 スパイルは悩んでいた。

(消化に良い物……うーん……)

 冷蔵庫を開けてもパントリーを開けても、そういう物は無い。買っていないのだから当然だ。

 そこへニクスが起きてきた。すたすたとリビングを横切り、キッチンに置かれているパンを無造作に食べ始める。

「え、おい」

 スパイルが困惑して声をかけると、ニクスは振り向いた。パンを飲み込み、明るく笑いかけてくる。もう大丈夫だと主張するように。

(やっぱり良い子すぎるぜ……)

 思わず苦笑してしまう。

 様子を見ていると、ニクスはすたすたとドアのもとに行き、外に出ようとした。

「待て待て」

 即座に呼び止めた。まだ一人で外に出すのは危険だ。

 ニクスは不思議そうに振り向き、目を瞬かせている。「これ以上、迷惑をかける訳にはいかない」と言いたげだ。

(何か、逆に心配だな。大人びすぎてるっつうか)

 スパイルは嘆息し、ラトゥール剣を2本出した。内1本をニクスに渡し、

「来い」

 と言って庭へ行く。

 剣を合わせれば、意思疎通できるのではないかと思ったのだ。

 ニクスは不思議そうな顔でついてくる。

 庭に出た2人は、ラトゥール剣を構えて対峙した。

 互いに睨み合い……同時に飛び出す。ぶつかり合ったラトゥール剣が軋みを上げた。

(気ぃ遣う必要なんて無ぇぞ! お前はどうしたいんだ! 一刻も早くここから出て行きたいのか⁉)

 思いを込めて踏み込むと、ニクスが驚いた顔で後ろに跳んだ。

 更に踏み込む。ニクスは身を屈めて前進、その勢いのまま斬り上げてきた。

 出て行きたい訳じゃない、と。

(なら、ここにいろ!)

 ニクスの攻撃を防ぎながら、受け流しながら、……次第に剣へ集中していく。

 意思疎通など、どうでもよくなっていた。楽しい。剣をぶつけ合うのが、楽しい。

 それはスパイル自身の感情でもあり、剣から伝わってくるニクスの感情でもあった。

 何合もの打ち合いの後……剣を突き付けられたのは、スパイルだった。

 スパイルは尻餅をついた状態で、ニクスを呆然と見上げる。首に当たりそうな所で止められているラトゥール剣が、陽光を受けて煌めいた。

(こいつ、こんなに強かったのか……)

 オスク洞窟で勝てたのは、ニクスが消耗していたからに過ぎなかったのだ。

「面白ぇ、もう一回だ!」

 新たにラトゥール剣を2本出す。子供相手にムキになるのもどうかと思ったが、ニクスは楽しそうに応じてくれた。



 2人は昼まで剣戟に興じていた。

 序盤こそニクスがずっと勝っていたが、途中からスパイルも勝てるようになっていった。

 スパイルは、なまっていただけだったのだ。人と剣を交えるなど10年以上ぶりだったのだから。

 終盤ではほとんど互角。この調子なら、近々勝ち越せるかもしれない。

 ニクスは目で「腹減った」と訴えてくる。

「そりゃ良かった」

 消化の心配はしなくて良さそうだ。

 昼食の準備をしながら、スパイルは考える。

(レトルト食品の場所と電子レンジの使い方を教えれば、自分で用意できるようになるか……?)

 ニクスに付きっ切りという訳にはいかない。魔物討伐に行けば、食事は外で済ますことも多い。

 言葉の通じない状態で教えるのは難しいが、案外ジェスチャーで通じているので、この件も伝わるだろう。

 そういう訳で昼食後、スパイルはニクスに電子レンジの使い方を教え始めた。

 コップに水を入れ、電子レンジの中に入れる。

「で、このボタンを押せばスタートだ。分かったか? よし、やってみろ」

 そう言って離れると、ニクスは頷き、電子レンジの前に立つ。人差し指がそっとボタンに触れた。


 ピッ


 ジジジ……


 ドカン!


 爆発した。

 電子レンジが、爆発した。


「…………は?」

 ぽかんとしながら呟いたスパイルに、ニクスが申し訳なさそうな目を向ける。「ボタンの押し方を間違えた」と言いたげな顔をしていた。

(何をどう間違えたら爆発するんだ⁉ 訳分かんねぇ!)

 とはいえ、実際に爆発しているのだから仕方がない。爆発の規模はごく小さく、電子レンジの破片が飛び散った以外の被害は、それを置いていた台が少し焦げた程度だ。

「……新しいの買ってくるから、待ってろ」

 そう言って、スパイルは家を出た。



 買い物を済ませて家に帰ったスパイルは、驚いた。木っ端みじんになった電子レンジが、きれいさっぱり消えていたのだ。

「片付けてくれたのか?」

 尋ねると、ニクスは頷く。

(……あれ、言葉通じてるっぽいな?)

 少し理解できるようになったのかもしれない。嬉しく思いながら、新しい電子レンジを設置した。また爆発しても良いように、安物だ。

 先ほどと同じように、水の入ったコップを入れる。

「もう1回試してみろ」

 その言葉に反応し、ニクスは電子レンジに近付く。温めスタートのボタンを押そうとして、止まった。そして、少し考えるような素振りを見せ……意を決したようにボタンを押した。

 電子レンジが作動する。しばらくして、温め完了を知らせる電子音が鳴った。

「よし。じゃあ、次は……」

 他の機能も説明し、実際にさせてみたが、爆発することは無かった。

 どうやらニクスは、電子レンジを爆発させずに使う感覚を掴めたようだ。

(いや、どんな感覚だよ)

 苦笑しながら、教えられそうなことを教えているうちに、夜になった。

 夕食後、ニクスは風呂場へ向かっていく。

 その間に後片付けをしようと思っていると、ニクスが戻って来た。その間、1分たらず。

「……⁉ カラスの行水ってレベルじゃねぇぞ⁉ どんな入り方したんだ⁉」

 ニクスは首を傾げ、手招きした。「見に来れば良い」とでも言うように。

 そうして風呂場に入ったニクスは、何かをぼそりと呟いた。すると。

 バッシャーン

 ニクスの上から水が勢いよく降りかかる。直後、ふわりと熱風が巻き起こり、瞬く間に水分を飛ばしていった。

 スパイルは呆気にとられた。

「………………そう来たか」

 これは魔術というものだろう。シャワーの使い方は分からないのかもしれない。

「えっとな、これをこうして……こうすると、出てくるから、次からこれ使えよ」

 シャワーヘッドを足元に向けて湯を出して見せると、ニクスはそれを興味深そうに見ながら頷いた。

「あと、体はタオルで拭くもんだ。それから、ドライヤー……は別に使わなくても良いけど」

 風呂場から出てすぐの洗面所で、色々教える。ニクスは全ての説明をしっかり聞いて理解してくれた。



 午後11時。スパイルはリビングで新聞を読んでいた。

 そろそろ寝ようかと思っていた時、先に寝ていたはずのニクスが下りてきた。きょろきょろと視線を彷徨わせ、雑巾を見つけると持って上がろうとする。

「おい?」

 声をかけると、ニクスは気まずそうな顔で振り向いた。

(……また吐いたのか?)

 一緒に部屋に行ってみると、やはりそうだった。昨日と違って胃液だけのようだ。

(消化不良になってねぇのは良いとして……何で吐くんだ? この部屋が原因か?)

 置いていた物の中に、異世界人に合わない物質でも含まれていたのだろうか。

「部屋、交換するか?」

 聞いてみたが、ニクスは首を振り、そのままベッドに潜り込んだ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ