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1章(2) 占い2

「……まだ何も言ってないんだけど」

 怪訝そうな顔をする鋭斗に、エフェルリシアは改めて告げる。

「あなたの相棒が首都に帰ってくるのは、2日後の夕方よ」

「兄さん、それが知りたかったの?」

「ああ、会ったら気合入るかなーと思って。……何で分かったんだ」

「私の占いは、受け入れてもらえさえすれば自由に占えるの。あなたは限定的に受け入れた。だから、その受け入れた部分の未来が見えた。それだけのことよ」

 微笑んで言うエフェルリシア。鋭斗は観念したように溜息を吐いた。

「あ、全部受け入れてくれたのね」

「何かもう、考えるの面倒くさい……」

「これは……」

 鋭斗の「悪い未来」を垣間見たエフェルリシアは、眉をひそめた。

「何が見えたの?」

 美恵莉が不思議そうに尋ねる。エフェルリシアは苦笑いを浮かべた。

「明日、エイトさんが赤毛の男に殴られているのが見えたのよ」

「え、兄さんの名前教えたっけ?」

「ううん。そう呼ばれてたから。見えた未来の中で、ね」

 そんな話を聞きながら、鋭斗は思った。エフェルリシアの占いは何か怖いな、と。



 占い屋から出た鋭斗と美恵莉は、商店街を歩くことになった。鋭斗がいくら「帰りたい」と主張しても、美恵莉が聞き入れてくれないのだ。

 美恵莉は確信していた。兄は引きこもるつもりだと。外は日に日に寒さが増して、寮の快適さが身に染みる。新聞に載っていた天気予報では、明日から急激に寒くなるそうだ。外に出たくなくなる気持ちも充分理解できた。

「だからって、引きこもっちゃダメだからね!」

「分かってるって。図書館行ったり練習場行ったりする」

「討伐は?」

「……」

 鋭斗は美恵莉から目を逸らした。

「やっぱり行かないつもりなんだ!」

「……駅から近いところなら行く」

 渋々、という風に溜息を吐き、鋭斗は言った。

「そういえば、聞こうと思ってたんだけど」

 美恵莉が急に話を変える。

「魔導師試験の教本の、魔法を使い過ぎると頭が痛くなる、みたいなことが書いてある所、ゴチャゴチャして分からない。何か良い感じに分かりやすく教えて!」

「……ああ、あそこか」

 鋭斗は記憶をたどり、美恵莉の質問の意味を理解する。確かにあの説明は分かりにくかった。

「あれはゲームにたとえると分かりやすい」

「あ、良かった。またガスバーナーとか言われたらどうしようかと思った」

「……化学の実験に使うものでたとえてやろうか。ビュレットとか」

 からかうような笑みで言う鋭斗。美恵莉は慌てて謝る。

「ごめん、ゲームでお願い」

 鋭斗は溜息を吐き、話し出した。

「まず、魔法を使うのにSPが必要だとする。初級だと5、中級だと10、上級だと20、みたいな感じで」

「もっと差が大きそう」

「たとえだから。数値はテキトーだから。黙って聞いてろ」

「はーい」

「で、魔法を使えば使うほど、消費SPは減っていく」

「何で?」

「何でって……慣れるからだろ、多分。あれだ、消費SP軽減ってオートスキルがあるとして、魔法の使用回数に応じてスキルレベルが上がって軽減率が上がる感じだ」

 因みにこの説明は、「日本にいた時にしていたゲーム」ではなく「この国のメダルゲーム」でたとえている。そうでなければ、往来のど真ん中でこんな話はできない。

「なるほど」

「で、20歳までは最大SPが年齢とともに増えていく」

「あ、魔導師は20歳からしかなれないのって、それが理由?」

「それも理由の1つだと思う。……その話は置いといて。逆に55歳以上になると最大SPが減っていく。これは一概には言えなくて、人によっては70歳を超えても最大SPが減らなかったりする」

「ほえー」

「SPが残り少なくなると頭が痛くなって、SPがゼロになると魔法を発動できなくなる。以上」

「おー」

 ぱちぱち、と美恵莉は軽く拍手する。

「兄さんの説明にしては分かりやすかった!」

「そりゃどうも」

「……って、あれ⁉ いつの間にこんな所に!」

 駅前まで戻って来ていた。南に向かって歩いていたはずなのに、いつの間にか方向転換していたらしい。

「分からなかっただろ」

 鋭斗は得意気に言って、寮へ帰っていった。





 12月4日、午後3時。フィノーラは困惑していた。

 目の前には面識の無い男が3人。20代後半だろうか。チャラチャラした格好で、何やらよく分からない言葉をかけてくる。いや、何と言っているのかは分かるのだが、何故そんなことを言われるのか全く理解できない。「今から一緒に遊びにいこーぜ」「いいじゃん、暇だろ?」などと言ってくるのだ。酒臭く、少しふらついており、明らかに酔っ払いである。

「私は仕事中。何度も言っている」

 迷惑そうに言ってみせても、3人はどこ吹く風。それどころか、肩に手を回してきた。

 魔法で吹っ飛ばしたくなった。

(我慢)

 溜息を吐き、どうしたものかと思っていると。

 1人の男が横に吹っ飛んだ。

(え?)

 どうやら誰かに殴り飛ばされたらしい。残りの2人は、慌てて殴られた男へ駆け寄っていく。

 その酔っ払いたちと反対側を見ると、そこには黒いスーツに身を包んだ25歳くらいの男がいた。髪は赤色。鮮烈で、一度見たら忘れられないような色だ。

(この辺りの人じゃなさそう)

 こんな色に染める人を、首都では見たことが無い。だから、別の街から来た、あるいは外国から来た人だろうと思った。

「信じらんねー! なんだこいつ!」

「あんな殴り方しなくても良いだろ! てか、いきなり殴るなよ!」

 酔っ払いの2人が赤毛の男を見て言う。涙目で。

 殴られた男は気絶している。不憫に思い、回復魔法をかけてやった。

 酔っ払いたちが揃って逃げていく。それを見送りながら、赤毛の男が口を開いた。

「下品な野郎どもだ。君のような、澄んだ湖面に映る月のように美しい人に絡むなんて」

 なんだこいつ。先ほど酔っ払いが言ったセリフが、自然に頭に湧き出てきた。

「君に相応しいのは、俺様しかいない。共にお茶でも飲みに行こうじゃないか」

 この男も仕事の邪魔をするつもりらしい。

「私が魔導師だと分からない?」

「いや、先ほどの回復魔法を見て分かったが。それがどうした?」

「……仕事の邪魔だと言っている」

「少しくらいサボっても良いだろう」

「……」

 殺気をこめて睨みつけるが、全く引いてくれない。

(どうしよう)


「あの、俺の同僚に何か用ですか」


 鋭斗は赤毛の男に声をかけた。フィノーラが困っているように見えたからである。

 昼寝を終えて、宮殿に向かう途中だった。駅から涙目の男が3人飛び出してきて、何か起こったのかと思った。それで駅に入ると、フィノーラが目に入った。

 絡まれているのが見ず知らずの人だったなら、放っておいただろう。だが、フィノーラが絡まれているのを見ては無視できなかった。

(占いでは、赤毛の男に殴られるって……)

 回避したいなら、見て見ぬふりが正解だったのかもしれない。

「はあ?」

 赤毛の男は怪訝そうに振り返り、瞬時に拳を突き出した。それは、あまりに速い。出す瞬間が見えないほどに。

 鋭斗は防御障壁を展開。殴られると分かっていたから、その心づもりをしていた。おかげで、間に合った。

 めきりと障壁にヒビが入る。あと1撃食らえば壊れそうなほどのヒビ。

(嘘だろ⁉ 何だこいつ!)

 呆気に取られていると、赤毛の男はあらぬ方を見た。

「おっと、残念だが時間切れだ。また口説きにくるよ、お姫様」

 赤毛の男はそう言い残し、颯爽と立ち去る。

「二度と来ないで」

 フィノーラの呟きは、あの男には届かなかっただろう。距離が開きすぎてしまっていた。

(もうあんな所まで⁉)


 鋭斗は驚愕しつつ、フィノーラに目を向ける。

「……ああいうこと、よくあるのか?」

「分からない。素手で障壁にヒビを入れる人なんて、ニクスくらいしか知らない。……ニクスでも、あそこまで大きなヒビは入れられない」

 フィノーラは首を傾げて言った。その後、聞かれているのはそういうことじゃないと気付く。

「絡まれることは滅多に無い。だから、どう対応すれば良いか分からなかった。……魔法で対処して良いと思う?」

「どうだろ……」

 良いのではないか、と思ったが、無責任なことは言えない。

 2人はしばらく首を傾げ合っていたが、

「……討伐行ってくる」

 フィノーラはそう言って、さっさと歩いて行った。






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