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4章(3) 大都市

 その頃、スパイルは苛立っていた。取調官が代わる代わるやってきて、「誰に受信機のデータを改ざんさせたんだ」とばかり聞いてくるせいだ。

(知らんがな!)

 A国出身だからA国の工作員だと疑われる、ということ自体は今までもあった。お国柄仕方がないと思っている。取り調べを受けるとすぐに疑いが晴れるので問題無い。しかし、このパターンは初めてだった。

 どうやら、犯人が判明するまで閉じ込めておくつもりらしい。

(上は分かっとるはずなんやけどなぁ……)

 やってくる取調官は若手ばかりで、明らかに不慣れな様子だ。

(もしかして、経験積ませようとしとるんか?)

 スパイルが大きく嘆息すると、目の前の取調官が机に握り拳を叩きつけた。

「早く吐け、誰にデータを改ざんさせたんだ」

「しつこいねん。オレは工作員ちゃう言っとるやろが」

「っ、方言を使ってビビらせようとしたって、そうはいかないぞ!」

「ちっ」

「馬鹿にしているのか⁉ 早く吐けよ、このクソ野郎!」

 怒り任せの言葉が、取調室に響き渡る。それを聞いて、スパイルは少し冷静になった。

「……仮にオレがデータ改ざんを指示していたとして、動機は何だと思ってるんだ?」

「そんなの、この国の戦力を削るために決まってるだろう! 若い魔導師たちを死なせようとしてるんだ!」

「読みは悪くねぇな」

「ほらみろ! これは自白だな⁉」

「んな訳ねぇだろ、仮定の話なんだから」

 スパイルは、データ改ざんの動機を2つに絞って考えていた。内一つが先ほど取調官が語ったもの。もう一つは、〝ただの遊び〟だ。

(どっちにしろロクでもねぇ。犠牲者が出てねぇのが救いだな。早く捕まってほしいモンだぜ)

 自分でどうにか出来ないのがもどかしく、スパイルは大きく溜息を吐いた。

 取調官は手元の資料をめくる。

「えーっと……旧アラドトルム領出身? 今の地名は?」

 出身地の話で揺さぶりをかけてA国の工作員だと認めさせてやろう、という魂胆だった。

 スパイルは苦笑する。

「地名が〝旧アラドトルム領〟なんだ」

「確かA国では、100年ほど前に貴族制が廃止されて家名も撤廃されたんだったな。それなのに、未だにそんな地名なのか」

「アラドトルム家は三大貴族のひとつとして有名だったからな。他の有名な貴族の領地だった地域も、同じ様に〝旧〇〇領〟って地名になってるぜ」

 その説明に、なるほど、と調査官は頷いて、「違う!」と頭を振った。

 こんな話をしようとしていたのではない。これでは駄目だと思い、調査官はスパイルを睨む。

「話を逸らそうとしても無駄だ」

「オレはお前の質問に答えてるだけだぞ」

「黙れ! 言いにくい出身地しやがって! 言うたびに噛みそうだ。何だよアラドトルムって」

「アラドトルムは〝トルムの血を正当に継ぐ者〟みてぇな意味だ」

「トルムって……古代A国の英雄の?」

「ああ、そのトルムだ」

「へぇー、詳しいんだな」

「そりゃそこの出身だからな。旧アラドトルム領のことなら大体答えられるぜ」

「おおぉ、じゃあ、そこの名産とか」

「……お前、尋問のためにオレと話してるんじゃなかったのか?」

「あ」

 しまった、という顔をする取調官に、スパイルはからりと笑う。

「まあ経験浅いうちは仕方ねぇよ。ただ、本物の工作員はこの程度じゃねぇぞ。気ぃ付けて喋れよ」

「……」

 取調官は渋面を浮かべた。

 話の主導権を奪われたばかりか、完全にペースを掴まれ乗せられていた。そのことに、指摘されるまで気付かなかった。こんなことは、上官を相手に訓練した時以来だ。

「やっぱりお前、工作員だろ。それか諜報員か……詐欺師か何かだ」

「酷ぇ言いようだな。こういうこと出来る魔導師がいたって良いだろ」

「良いわけがあるか!」

「大体、お前がヘタクソすぎる。そうやってすぐ取り乱すし、感情むき出しだし、話の主導権の端っこをちょっと掴むだけでコロッとこっちに転がってくる。工作員や諜報員にとっちゃ格好のカモだろうな」

「……それは、訓練でも指摘されたが……」

「〝訓練だから本気になれないせいだ〟とでも思ったか? 甘ぇな」

「っ……」

 図星を突かれ、取調官は悔し気に押し黙った。




 ショッピングモールの2階にはフードコートがある。鋭斗とニクスはそこに来ていた。レウリオがプロニと共にフードコートへ行ったと、30分ほどの聞き込みを経て分かったからだ。

 レウリオとプロニはアイスを食べながら喋っていた。その席にすたすたと近付いた鋭斗は、前触れもなく尋ねる。

「管理会社に入れるように取り計らってもらうことって出来るか?」

 唐突な言葉に、レウリオは目をぱちくりとさせた。代わりのようにプロニが口を開く。

「出来るわよ。あたしも入らせてもらったことあるもの」

「受信機の所まで入れるか⁉」

 勢い込んで尋ねたニクスに、ようやくレウリオが答える。

「あ、うん。僕が受付で頼めば入れてもらえるよ」

「急ぎなら、あたしも一緒に行くわ。その方がレウリオも素早く動くもの」

 そう言って、プロニは立ち上がった。


 こうして、奇しくも最初の討伐と同じ面子で同じ路線の電車に乗ることになった。


 管理会社があるのは大都市だ。その都市は首都の西に位置し、経済の中心地となっている。

 電車の中、ニクスは駅の売店で買ったパンを食べながら事情を説明する。

「管理会社に、受信機のデータを改ざんした奴がいる。で、それを指示したとして、俺の師匠みてぇな人が捕まったんだ。その人、A国出身だからな。放っといても証拠不十分で釈放されるだろうが、時間がかかる」

「……なるほどね。工作員だと疑われた訳か」

 レウリオが納得したように言うと、プロニがぎょっとする。

「工作員⁉ 何よそれ、ぶっ飛んでるわ」

「そんなことないさ。3か月前の選挙を忘れたのかい?」

「あっ……そういうことね」

「どういうことだ」

 鋭斗が口を挟むと、レウリオは肩を竦めた。

「A国の工作員が、選挙結果を改ざんしたのさ。こういうことは時々あるから対応は速かったけれど、まだピリピリしていて、何かあるとすぐA国の工作員の仕業だと言い出すんだ」

「うわ……」何て粗末なセキュリティなんだ、と鋭斗は呆れ返った。「じゃあ、何もやましいことがなくても、〝A国出身〟ってだけで工作員扱いされるのか?」

「そういうことになるね」

 レウリオが苦笑しながら頷く。そこへニクスも補足を入れた。

「〝大雑把で思い込みが激しい〟ってのがこの国の国民性らしくてな。スパイルは身元調査でA国出身なのが割れてるから標的になりやすいんだ」

「待ってくれ、スパイルだって?」レウリオが目を見開く。「名前は聞いたことがあるよ。ランク20万・30万の最短記録保持者だろう? そんな方が捕まっているだなんて、おおごとじゃないか」

「いや、年一ペースで捕まってるから大したことじゃねぇよ。ただ、長いこと捕まってるとその分討伐が滞るのが問題なんだ」

「代わりの魔導師を回すのにも時間がかかるからね」

 何度も頷くレウリオの隣で、プロニは嘆息する。

「警察は特に、思い込みで暴走しがちなのよね」

「それ、大丈夫なのか……?」鋭斗が胡乱げな顔をすると、

「基本は〝大雑把〟だから大丈夫よ」プロニが苦笑いを浮かべ、

「まあ、冤罪が多すぎるのは難点だね」レウリオは溜息を吐いた。「だけど、この国民性あってこそ、C国はここまで発展できたんだ。島国の科学技術もB国の魔道具技術も受け入れて、ね。一長一短なのさ。……ところでニクス、どうやってデータ改ざんの犯人を見つけるつもりなんだい?」

「ちゃんと見つけるから大丈夫だ」

 はぐらかそうとするニクスに、鋭斗が口を出す。

「俺も気になってた」

「……受信機を操作してる人に聞いてまわるつもりだ。データを改ざんしたかってな。反応見れば嘘ついてても分かる。要は読心術だ」

 それを聞いた3人は目を丸くした。

「アンタ、さらっととんでもないこと言うわね」プロニが呆れたように言い、

「なるほど……」鋭斗が苦笑気味に呟き、

「それって、諜報員なんかが使うようなものだろう? どこで身に着けたんだい?」レウリオが怪訝そうに尋ねた。

 ニクスは「教える訳ねぇだろ」と言って悪戯っぽく笑った。



 首都から約1時間半経ち、目的の大都市の駅に着いた。

 経済の中心地だけあって、他の街とは全く景観が違う。大きな建物が並んでいて、これぞ都会だと主張しているようだ。余所にはなかったアスファルトの道路、行き交う自動車、高層ビル。鋭斗にとっては日本で見慣れた景色だが、それでも圧巻だった。

「エイトはここ来るの初めてか?」

 ニクスの問いに、鋭斗は頷く。するとニクスは変わった形のビルを指さした。ビル群の中にあって、一際目立っている。

「あれが魔導師協会の支部だ。で、隣が管理会社」

「へぇ……」

 その横で、プロニはレウリオと喋っている。

「ねえ、折角だからデパートにでも寄らない?」

「良いね。僕の役割が済んだら行こうか」


 4人は徒歩で管理会社に向かった。

 首都の駅と魔導師協会本部が目と鼻の先なのに対して、大都市の駅から魔導師協会支部は徒歩20分。当然、管理会社までも20分くらいかかった。


「はい。これを首から提げていれば、どこにでも入れるよ」

 レウリオは、管理会社に着いてすぐ受付で受け取ったものを鋭斗とニクスに渡した。そして受付の右奥を指さす。

「受信機管理室は3階の大部屋だから、そこのエレベーターから行くと良いよ」

「助かるぜ。ありがとな」

 ニクスはそう言ってエレベーターへ向かう。鋭斗も慌ててレウリオに礼を言い、ニクスを追いかけた。




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