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2章(5) 画鋲

 9月13日。

 4日ぶりの討伐に選んだのは、画鋲の形の5000の魔物だった。首都の南西に位置する丘の上で、電車で30分のところにある。

 電車に揺られながら、3人はここ3日間の成果について話していた。

「攻撃魔法は順調?」とプロニが問えば、

「ぼちぼち」と鋭斗は答える。「……そっちは?」

「あたしは……中級魔法は発動できなかったわ」

 肩を竦めて言うプロニに、鋭斗は目を瞬かせる。

「3日じゃ足りなかったのか?」

「いくら時間があっても無理よ」

「え……」

 そんなに難しいのか、と鋭斗が嫌そうな顔をしていると、レウリオが口を挟む。

「プロニは理論を無視して直感で魔法を使うからね。でも、中級はさすがに理論抜きでは無理だったみたいだ」

「それは……そんな状態でどうやって魔導師試験通ったんだ?」

「全て勘で解いていたらしいよ。合格した後に聞いたんだけど……」

「勘だけで通ったのか⁉」

「そうなんだ!」レウリオの語りが熱を帯びていく。「プロニは天才だからね。凄いんだ。魔法理論なんて、プロニには不要なんだ!」

「ストップ!」プロニはたまらず制止をかけた。「褒めてるようで貶してるわね⁉」

「まさか。100パーセント褒めているよ」

「だって、中級攻撃魔法を使えないってことは、いつまで経っても1万の魔物を倒せないのよ⁉」

「それなんだけどね。僕もこの3日、何もしていなかった訳じゃないんだ。父の知り合いの、引退した魔導師から情報を得たんだよ」

 その言葉に、鋭斗とプロニは何の話が始まるのかと怪訝そうな顔をした。レウリオは得意気な顔で話を続ける。

「どうやらランクの高い魔導師でも、初級攻撃魔法を好んで使う人がいるらしいんだ。初級攻撃魔法が強い魔物に〝やりようによっては効く〟というのは本当だったんだよ」

 それを聞いた鋭斗は、相乗効果のことかと思った。だが、レウリオの話は違った。

「5つも6つも同じ魔法を同時に発動させて束ねれば、中級攻撃魔法と同等以上の威力になるみたいなんだ。他にも、多彩な攻撃魔法を10連発くらい放つことで倒せるとも聞いたよ」

「ちょっと。それは難しすぎるわよ。あたし今、2つか3つしか同時発動できないのに……本当にそんな使い方できる人いるの?」

「〝攻撃魔法は初級だけを使ってランク40万になった魔導師〟なんてのも過去にはいたみたいでね。その人は、20以上の同時発動や30以上の連発で上級攻撃魔法相当の威力を出していたそうだよ」

「化け物じゃない」

 プロニは呆れたように言った。

 鋭斗は首を傾げる。

「その人もプロニみたいに中級魔法が使えなかったのか?」

「いいや、攻撃魔法以外は中級以上の魔法を使っていたみたいだから、中級攻撃魔法だって使えたはずさ」

「じゃあ何でわざわざ初級で戦ってたんだ」

「僕もそれを疑問に思って、ちゃんと聞いてきたよ。魔法は格が高いほど発動に時間がかかるのは分かるよね?」

「ああ」

「だから、中級攻撃魔法は、初級と比べて連発が難しい。同時発動なんて至難の業。中級以上の魔法で連発や同時発動が出来る人なんて、才能の塊みたいな人だけなのさ。ほとんどの魔導師にとっては、中級以上の魔法は〝単発でしか放てないもの〟という訳なんだよ。〝中級や上級の攻撃魔法を1発放つ〟より、〝初級攻撃魔法を連発したり同時発動したりする〟方が高い威力が出るんだから、そうするよね、という話さ」

「……なるほど」

 相乗効果の方が絶対に楽だな、と思った鋭斗は、そろそろ相乗効果を試したくなってきた。未だ何属性があるかすら分かっていないが——それを考えずに、色々な攻撃魔法を覚えることを優先していたのだが、討伐休みの3日間で充分な数を覚えられた。あとは考えて試すだけだ。

「よく分からなかったけど、とにかくあたしは初級攻撃魔法をいっぱい同時発動できるようになれば良い訳ね?」

 プロニがそう確認した時、目的地に着いた。

 丘の上には大きな岩がある。その岩の上に、魔物はいた。

 写真で見た通りの〝大きな画鋲〟そのものの姿だ。針が岩に少し触れた状態で自立している。

 その針の先端を見て、レウリオが呟く。

「刺さったら、ただでは済まないね」

 近付いて行くほど魔物の大きさがよく分かる。身長より長く、腕を回せないほど太い針が、先端をこれでもかと鋭く尖らせている。

 鋭斗は、曇っていてよかったと思った。対峙している魔物には素晴らしいまでの金属光沢があり、晴れていれば眩しすぎて直視できなかったに違いない。

 3人は魔物から少し離れた位置で、魔物を囲むように立った。

「行くわよ!」

 プロニが攻撃を仕掛ける。魔物の下から火柱が立ち上った。

 魔物は驚いたように飛び上がり、そのままクルクルと回る。独楽のようなその回転は、徐々に速さを増していく。

 針が、プロニに向けられた。

 鋭斗は障壁を張りながら叫ぶ。

「避けろ!」

「……⁉」

 突っ込んできた針と、防御障壁がぶつかる。プロニが慌てて横に跳ぶと、ほとんど間をおかずに障壁が砕け散った。

「ちょっとエイト! アンタの防御魔法はこんなにヤワだったの⁉」

「だから避けろって言っただろ! 初級はこんなもんだ!」

 言い返しつつも、減速を使っていなかったことを少し後悔した。〝木で拘束する魔法〟を無詠唱で使ってみようとしていたから、補助魔法を使い損ねたのだ。結局、魔力を制御しきれずに、形を成すに足る魔力を注げなかった。

「まだ無理か……」

 落胆しながら呟きつつも、魔物へ減速をかける。

 魔物はまたしても針をプロニに向けた。

「何であたしばっかり!」

 ラトゥール杭が勢い任せに落とされたが、魔物は重心を傾け難なく躱した。

 魔物が回転する。大きく飛び上がっていく。

「走れ!」

 鋭斗の指示に、プロニは駆け出す。魔物はまたしてもプロニに突進。しかし針は空を切り、地面に突き刺さった。

 深く刺さっているのか、魔物は動けずにいる。

「攻撃するなら今のうちって訳ね」

 プロニは呟きながら魔法を発動。雷が束となって降り注ぐ。〝雷を落とす魔法〟の同時発動だ。

 期待通りに魔物は消滅した。

 爽やかな風が吹く。雲が流れて少し日が差す。

「……?」

 鋭斗の視界の隅で、何かが光った。何だろう、と思い近付いていくと。

 そこには、画鋲があった。

「っ……」

 ぞっとして息を呑む。

 6つの画鋲が、針を土に突き刺した状態で放置されている。ということは、先ほどの魔物は魔術で生み出されたものだったに違いない。

 立ち尽くす鋭斗に、レウリオが「何をしているんだい?」と声をかけながら寄っていく。そして、画鋲を目にして、眉をひそめた。

「……不気味だね」

「よし、見なかったことにしよう」

 そう呟いて、鋭斗は踵を返した。レウリオはじっとしていたが、

「何してるの? 帰るわよ!」

 というプロニの声で慌ててその場を後にした。




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