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第27話「フィンランド・ロヴァニエミ(7)」

「あの化け物どもは、彼らの間では特別なスターみたいなものだ、そして怪物に襲われながら生存したサヴァイバーも、今ではほとんど同様の価値を認められつつある」


 老人が誰を指して「彼ら」と言っているのかはわからない。老人の一族や、その周辺の連中のことだろうか?


 世界を動かしている、本物の権力者たち。


 ゼンが笑みを浮かべたまま、両手を組んでその上にあごを乗せ、わずかに身を乗り出しながら、あんたはどうだい、と聞いた。


 あんたはディアーボに、興味があるのかい?


 老人は答えない。まっすぐにゼンの目を見返す。


 どうだろうね、と老人は首を振った。


「まともな年寄りは世間を騒がすモンスターに心躍らせたりしないものだ、戦争、内乱、テロル、疫病、災害、事故、自殺……人びとが命を落とす原因は、この世界に無数に存在する、そして実際に、毎日、この瞬間にも、誰かの命が失われている、

 突然化け物が現れて数百の命を奪っても、大騒ぎすることではない、それは低俗なゴシップ誌を飾る著名人のスキャンダルと、なんら変わりのないものだ」


 だが、と老人は呟き、一度そこで言葉を切った。


「だがね、モンスターと友達のためにわざわざこんな場所にまで足を運ぶ変わり者には、少なからず興味が湧くよ」


 変わり者? それ、あんただろう、そう言ってゼンが笑う。


 老人も笑った。


 老人は、ひとり硬い表情を崩さない俺を見て、笑うのをやめ、じっと、何かを確かめるように目を細めて俺を見据えた。


 もしお前なら、と老人は俺から目を離さずに、言った。


「およそ思い望む、すべての欲を叶えられるパワーが自分にあることがわかったとき、そしてそのパワーを自在に行使できるのだと理解したとき」


 老人の目には、威圧的な色は見られない。ただ真剣で、切実なものが感じられるだけだった。ふいに、彼は俺にではなく、自分自身に語りかけているのではないか、そう思った。


 世界を統べる本当の権力者たちの家に生まれたという自分の生い立ちに、この老人は、葛藤し、ぶつかり、そして家を飛び出して、この世捨て人のような暮らしを選んだのだろうか。


 中途で言葉を切り無言で俺を見つめていた老人が、ふたたび口を開いた。


 そのときお前なら、どうする?


 老人の問いかけに対し、考えるより先に、言葉が口をついて出た。言語を司る脳ではなく、体の中にある俺の核のようなものが直接反応したかのようだった。奇妙なことに俺自身に、自分が答えたという実感がなかった。


「どうもしない、自分が大切にしたいものを、ずっと大切にしていくだけだ」


 老人は何も言わない。わずかな沈黙の後、隣に座るゼンが静かな口調で老人に向けて英語で何か喋った。俺の言葉を訳してくれたのだと思った。


 小さく、本当に小さく、老人が一度だけ頷いたように見えた。ゆっくりまばたきをし、それから目を閉じて、老人は細く息をはき出した。


 もう一度まぶたを開けた彼の目からは、それまでの切実な色が消えているように思えた。


 かわりに、穏やかな優しさが宿っている気がした。それでいいんだよ、そう俺に言ってくれているのだと、不思議なことに俺は確信していた。


 無言のまま、俺は彼の目をじっと見返した。わかってくれてよかった、とでも言うように、老人はまた息をはいてから、シワとひげだらけの顔で、微笑んだ。


 それから下を向き、今度は笑みではなく、真剣な表情を浮かべ直して、言った。


「お前は、完璧に人智を超えた世界の存在を、信じるか?」

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