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奏でられし聖樹の記憶  作者: ファル
― 五.砂漠に眠る伝説 ―
38/68

5‐6

「……勇者、候補?」


《俺たちは、代々の勇者に手を貸してきた。100年ごとに転生する魔王を、その度にまた眠らせる為。ここは俺たち精霊の、助言と力を勇者へと授ける場》


 風の精霊と思われる、羽衣を纏った影にオウム返しに聞き返したレディアさんへ、炎霊らしき精霊が答える。彼らに明確な性別があるのかは謎だが、最初に口を開いた水霊以外は、外見的には男性に見えた。


「おー? なら俺たちにも力を貸してくれよ。魔王とか、すぐに倒してきてやるからよ」

《あいにくだが、君達はまだ“候補”に過ぎない。それに、勇者となり得る者は、君ではない》


 相手が魔王などという存在でも、悪者となれば速攻で倒しに行くといった勢いのスバノンに、けれど風霊は協力的とは言い難い返事をし ―― その目が何故か、私へと向けられた。


「え? ……って何、エルフィンが勇者? そりゃ弱かないけど、エルフィンは女だぞ?」


《関係するのは性別にあらず。勇者候補の条件は唯一つ……魔王の魂と呼応するか否か》

《そして、この時代において条件を満たす者はただ一人、その娘のみ》


「その言い方……そうか、あいつだ。破魔が確かそんな事を言っていた」


 ブルーさんが何か思い出した様に指摘し、私もまた破魔がアスティの魔法に倒される直前、言いかけていた言葉を思いだす。



(小娘、おまえ。まさかこの時代の ―――― )



 あれに続く言葉が、まさか、この事だったのか。


 戸惑いの中、スバノンが精霊達に、更なる疑問をぶつけ出す。


「条件だの何だの、訳分からんけど、とにかくエルフィンが勇者だってんなら力を貸せばいいじゃねーか。出て来るだけで役にも立たないんじゃ意味ねぇだろ、お前ら」

《あなたたちが魔王を倒すと言うなら、力を貸して上げます。ですが果たして、魔王を倒したその後を生き抜く強さが、あなたたちにあるでしょうか?》

「……なんだと?」

《俺たちは100年前、勇者エガオンに手を貸した》


 水霊の返事は奇妙なもので、スバノンならずとも困惑するだろう。そこへ炎霊、更には風霊の言葉が重なり……それらは正直、かなりの意外性を持っていた。


《彼は確かに強かった。でも耐えきれなかったのだ ―― エガオンには無二の親友がいた。魔王を倒すと誓い、共に世界を旅する仲間が。だがその仲間が魔王そのものだとは……知らずにいた》

《エガオンは魔王を倒した。共に戦ってきた仲間を倒したのだ。苦しみに耐えられず、自害した》


「なんつー話だ……けど、俺たちの中に魔王なんていないし、だったらそのエガオンとか言う奴と同じ事になるわけもねーだろ?」


《さて。それはどうだろうね》


「―― なんかムカつくな、お前ら」

「あんた達は、俺たちの知らない事情をまだ知ってそうだが……いずれにせよ、魔物を生み出し続ける魔王は誰かが倒さなければいけないのは確かだ。なら素直に力を貸してくれないか?」


 スバノンに被せる様に、ブルーさんもやや強めの口調で要請する。一方でレディアさんはと言えば、ひとり何故か沈思していて、先程から何も言わずにいた。


《我々の力を望むのであれば……その前に、あなたたちが本当に魔王を倒すほどの力があるか見せてもらいましょう》

《まずは武力がなければ、話にもならんしな。勇者候補の精神は、何れまた試させてもらうが》


「ふん、望むところだぜ。力が貸せる程度には生き残れるよう頑張れよっ」


 水霊、炎霊の言葉にスバノンが返すと同時 ―― いきなりその頭上にグランドファイアと思われる火炎の津波が襲いかかってきた。


「馬鹿かお前はっ。相手は精霊だ、呪文なんぞ唱えなくても自らの属性の魔法は放てる、ある意味では魔物より厄介なんだぞ!」


 間一髪、同じ魔法でそれを相殺したブルーさんが怒って見せるも、常の様に、それが更なる会話に発展する暇はなかった。

 

 未だ熱気が残る空気を吹き飛ばす様に、ダブルサイクロンらしき風刃が襲ってきたからだ ―― 今度は私が相殺するも、これでは埒があかないと戦闘の行方が危惧された。相手もこちらも、魔法を操る者は3名ずつ。しかし相手は精霊、魔法を放つ為の魔力の「溜めの時間」が要らないのだ。こちらにも、ほぼ無詠唱で魔法を放てる高位魔道士のブルーさんはいるが、私やレディアさんはどうしても多少の「溜めの時間」が必要になるので、戦闘が長期に亘れば精霊達の魔法を相殺しきれなくなってしまうのが目に見えていた。


「だったら俺が片っ端から斬りまくりゃ、いいだけだろっ」


 言いつつ既に水霊に向かって飛びかかったスバノンへ、再び炎が襲いかかる。ブルーさんがすかさず相殺する傍から、水霊自身も氷結魔法・ショットガンアイスでスバノンを迎え撃った。これは範囲魔法ゆえ、彼だけの被害では済まなくなる。咄嗟にやや無理はしたが、更なる上級氷結呪文・フロストタワーで応戦する。籠められたのは完全発動するかぎりぎりの魔力量ではあったが、それでも水霊の魔法を飲み込み更に炎霊へ少しはダメージを与えられたようだった。


「ちっ本当にめんどくせーな……お前、この前の、あのどでかい魔法使えねーのか!?」

「だから何で馬鹿なんだお前はっ。ここでメテオなんぞ撃ったら、貴重な文献や英雄の墓まで滅茶苦茶になるだろう!」


「……ふぅ。確かに面倒な相手よね」


 言い合いながらも、戦闘の手は緩めない彼らの隣で、妙に冷静な声がする。何故か今まで、一切戦いに参加していなかったレディアさんのものだった。

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