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奏でられし聖樹の記憶  作者: ファル
― 四.魔法塔に迫る影 ―
31/68

4‐8

「あ、あれって何? 急に出てくるなんて、まるで破魔みたいな……」


 アスティがブルーさんへ確認を取りかけた、その途端。


 圧倒的な威圧感が、質量さえ伴う闘気となって『それ』の内部から噴出してきた。その闘気は周囲の熱気と化学反応でも起こしたかの様に勢いを増し、耐え難い突風となってこちらに襲いかかってくる。元々が通常より脆くなっているであろう洞窟の岩盤が、その圧力に耐え切れず『それ』の足元、頭上付近に幾筋もの大きな亀裂を生じさせた。


「―― 炎の石の“守護霊獣”・フォルスか! 半ば神話みたいなものだと思っていたが……まさか実在しているとは……!」

「って、そういう話は伝説だろーが何だろーが、事前にみんなに教えとけ!! ……うわっ!?」


 抗議はもっともだったが、その為に踏ん張る力が弱まったらしい。ブルーさんへいつも通りの突っ込みをしたかどうかでスバノンの身体が爆風に煽られ、後方へとすっ飛んだ。咄嗟に槍を地に突き立て、それを支えとしなければ自分も恐らく同じ目にあっていただろう。


 何とか顔を上げ、確認してみる ―― それはまるで神話に出て来そうな姿。牡牛の様な頭部と、頑強な人間の男の身体とを合せ持った、けれど身の丈は普通の人間の5~6倍もありそうな恐るべき巨漢だった。体格からすれば小ぶりな斧を携えているが、無論我々からすれば相当の大きさだ、万一当たれば即、命に係わるだろう。


 守護霊獣というだけあって、炎の石を持ち去ろうとした者を赦す気などはないらしい。闘気の嵐が止んだかと思うと、フォルスは軽く顔を仰け反らせ、耳を劈く咆哮を上げた。同時に斧を構え、いつでも戦闘に移れる体勢を取る。


「あ、あれと戦わなきゃいけないのっ? さすがにそれは、厳しすぎ……」

「大丈夫、アスティちゃんの事は、俺が守 ―――― !?」


 最早、尋常ならぬ地熱さえ意に介さず這いつくばって突風に耐えていたアスティの前に、それを庇う様にして立ったブルーさんへ、何かが襲いかかった。反射的に風刃魔法で防御しようとしたらしいが、それは半端にしか間に合わず杖が砕け、ブルーさん自身も弾き飛ばされる。


「アホかっ! 防御力が超紙な魔法使いのくせに、最前なんかに立つんじゃねー!!」

「て、スバノンちょっとっ。とどめ刺しちゃダメだってばぁ~!?」


 ―― その制止は、ほんの少し手遅れだったらしい。思わず、と言った風に繰り出されたスバノンの飛び蹴りをもろに食らい、倒れ伏したブルーさんは……どう見ても戦闘不能状態になっている。


「ちっ、使えねぇな ―― 俺とエルフィンで何とかするから、その間にそいつ回復してやってくれアスティっ!」

「そ、それはちょっとひどい……ヒーリングはかけるけど」


 だが、アスティの弱々しい抗議を受けている暇はスバノンには、いや誰にもなかった。


 再び咆哮を轟かせたフォルスが、第二撃を放ってきたからだ。―― 先程のそれと同じらしい、無造作に振るった斧から放たれる凄まじい刃圧を。


 慌てて飛び退くスバノンと私の間を、まるでケーキでもナイフで切ったかの様に容易く、深々と抉ったそれを見て、この相手の恐ろしさを実感する。軽く斧を振っただけでこの刃圧だ、もし凶刃の直撃など食らおうものなら、或いは身体が原形も留めず砕け散るかもしれない。


「こいつは……魔法とか唱えてる暇もねーかもなっ? 槍でいけ、エルフィン!」


 言うや、スバノン自身も彼が持つ高速攻撃・ダブルフラットでフォルスへと斬りかかる。私のデザートレイドにも匹敵する素早い動きと、それ以上の攻撃回数の多さを誇る奥義と呼べる剣技の1つだが、フォルスは巨躯にも関わらず目を見張るスピードでその剣先をかわしていく。


 それでも更に連続でフォルスへ飛びかかるスバノンは、単に無闇と攻撃している訳ではなかった。巧みな剣先は、フォルスを次第にアスティ達から遠い位置へと導いて行っている。意図を飲み込み、同様に「当てるよりも敵を遠ざける」事へ主眼を置いた技を、私も連続で繰り出していく。


「よっしゃ! そろそろ本気でいくぞ ―― て、何っ!?」


 焦ったかの声と共に、スバノンが大きくバランスを崩す。フォルスが唐突に繰り出した、闇属性の魔法・ダークホールドを食らってしまったのだ。その上へ更に、大きく振りかざされた斧が襲いかかる。飛び込みざまスピンカウンターを放ったものの、今回ばかりは反撃にまでは及べなかった。あまりに重すぎる一撃は、寧ろ抑えられた事が奇跡とさえ思える程だったのだ。


「わ、わりぃエルフィン……くそっ。魔法まで使いやがるとは、結構きついぞこりゃ」


 厄介な点は、それだけではない。フォルスの動きは、外見に反してあまりに素早く、無駄もない。こう言っては何だが、敏捷性にかけてはスバノンより上だと自負のあった自分でさえ、到底動きについていけない程、この守護獣のそれは速すぎた。


 ここは、スバノンや私が攻撃する合間を縫って魔法攻撃を仕掛けてくれる存在が欲しい所だが……その人物の方へ意識を向けた、瞬間を狙ったかの鋭い殺気を全身に感じる。


「危ないっ!」


 今度はスバノンが、そこへ飛び込んで窮地を救ってくれた。だがその足は、それに私の右腕も斧の一部が掠めた様で忽ち赤く染まり始める。


 これは、次の攻撃が来た時まずい ―― 知らず背筋が震えた、その時だった。

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