婚約破棄?
悪役令嬢: ステラ・フォン・ルミナス
元婚約者:アスタ・ル・ヴァルハラ
第1話:婚約破棄ですか?結構です。私は領地のジャガイモと結婚します!
「 ステラ・フォン・ルミナス! お前のような冷酷で、未来の王妃にふさわしくない悪女との婚約は、今この瞬間を以て破棄する!」
きらびやかなシャンデリアが輝く、王立学園の卒業パーティー会場。
大勢の貴族たちが見守る真ん中で、第一王子ヴァルハラが、私の鼻先にパシッと手袋を突きつけて叫んだ。
その隣には、悲劇のヒロインぶってうるうると涙を浮かべた男爵令嬢が、王子の腕にしがみついている。
(あ、これ……デジャブだ)
頭の中に、ものすごい衝撃が走った。
私の頭の中を駆け巡るのは、ここが前世で徹夜で遊んでいた乙女ゲーム『恋する王宮』の世界であること。そして私は、ヒロインをいじめて最後に没落・国外追放される「悪役令嬢」だということ。
……いや、それより何より。
(私、前世で死ぬほど残業させられて、大好きなポテトチップス喉に詰まらせて死んだ社畜OLじゃん!!)
思い出した。前世の記憶。
毎日終電、上司の理不尽な説教、癒やしはコンビニのLサイズのフライドポテトだけだったあの日々。
それに比べて、今の状況はどうだ。
婚約破棄?
ってことは、毎日朝から晩まで受けていた、あの地獄のような「王妃教育」を受けなくていいの?
マナー講師のババアに「背筋が曲がっています!」ってムチで叩かれなくていいの!?
「おい、ルミナス! 聞いているのか! 罪を認め、泣いて縋り付くなら、少しは罰を軽くしてやっても――」
ヴァルハラが勝ち誇った顔でニヤニヤしている。
私は、ドレスの裾を両手できゅっと掴むと、満面の笑みで深くお辞儀をした。
「婚約破棄ですね? 承知いたしました! 謹んでお受けいたします!」
「……は?」
ヴァルハラが鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。
「今まで大変お世話になりました! これからはどうぞ、そちらの可愛い男爵令嬢様と末永くお幸せになってください! では、私はこれで失礼します!」
「待て! ルミナス、お前何を――」
引き留める声を完全に無視して、私は踵を返した。
もうね、足取りが軽い。スキップしたい。ドレスの裾が邪魔だから、ちょっとまくり上げてダッシュしちゃう。
会場の扉をバンッ!と開けて外に飛び出し、夜風を浴びながら私は心の中で叫んだ。
(やったーーー!! 自由だーーー!! 退職届が受理された気分だーーー!!)
◇◇◇
翌朝、私はすぐに公爵であるお父様の書斎に突撃した。
「お父様! 私、責任を取って、我が公爵領の最果てにある『バシュタール地方』に隠居します!」
お父様は、紅茶を盛大に吹き出した。
「な、何言ってるんだルミナス! あそこは年中霧が深くて、地面は泥だらけ、ジャガイモくらいしか育たない死んだ土地だぞ!? 王子に婚約破棄されたからって、そんな自暴自棄に……!」
「いいえ、お父様。ジャガイモが育つなら、そこはパラダイスです」
「ジャガイモが……パラダイス……?」
お父様は、愛娘がショックで狂ったと思ったらしい。めちゃくちゃ哀れみの目で見られた。でも、前世の記憶を持つ私からすれば、ジャガイモは神の食物だ。
ポテチ、フライドポテト、コロッケ、肉じゃが、ハッシュドポテト。調理法は無限。しかも主食にもなる。
「私は決めました。王家のようなドロドロした人間関係はもう凝りごりです。これからは、私を裏切らない、泥だらけのジャガイモたちと結婚する勢いで生きていきます!」
「娘が芋と結婚すると言い出した……」
お父様は頭を抱えていたけれど、最終的には「そこまで言うなら、お前の好きにしなさい」と、領地を丸ごと私に譲ってくれた。お父様、話がわかる人でよかった。
こうして私は、ドレスを全部脱ぎ捨て、動きやすい作業着に身を包んで、馬車へと乗り込んだ。
目指すは、誰も行きたがらないジャガイモの聖地。
これから、元悪役令嬢の、ガチのイモ生活が今始まる――!




