表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
阿吽  作者: 北天の護人
PR
7/22

第六章 開眼

開眼かいげんとは、仏像に“魂”を入れる儀式。

南都焼討の後、焼け跡に立ち尽くす運慶の前に、一人の僧が現れた。重源――その男は、すでに六十を超えていたが、背筋は伸び、眼差しは燃えていた。


後白河法皇の

「焼かれたものを、再び立てよ」

その言葉は、命令ではなく、祈りのようだった。


重源は、東大寺復興の大勧進として、朝廷との折衝、資金の調達、職人の統率、技術革新――すべてを一手に担っていた。宋からの技術導入、全国を巡る勧進、そして焼け跡の木材をも活かす知恵。その姿は、僧でありながら、まるで時代を彫る者のようだった。


運慶は、重源の背を見つめながら思った。


「仏を彫ることは知っている。でも、仏を生み出すとは、こういうことなのか」


ある日、銅の供給が滞り、大仏の鋳造が止まった。重源は慌てることなく、地方の豪族に直談判し、古銅器を集めて再利用する策を講じた。職人たちが不満を漏らせば、酒を振る舞い、冗談を交えながら士気を高める。


運慶はその様子を見ていた。自分が木を彫るとき、すべてを自分の手で完結させてきた。しかし重源は、百人、千人の力を束ねて、一つの仏を生み出している。


「一人で彫る仏も尊い。だが、千人で築く仏には、別の尊さがある」


そして、ついに大仏の開眼供養かいげんくようの日が来る。香が焚かれ、経が響き、僧侶たちの声が空に溶けていく。後白河法皇により、大仏の目が開かれた瞬間、運慶は胸の奥に熱いものを感じた。


終了後、彼は重源のもとへ向かう。


「教えてください。どのようにすれば、そのように皆で、そのような仏を生むことができるのですか」


重源は微笑みながら言った。


「それは、形ではない。心だ。

 人を信じ、任せ、支え、共に歩むこと。

 仏は、彫るものだけではなく、集う心の中にも、

 やはり現れるのだ」


その言葉は、運慶の胸に深く刻まれた。

それは答えではなく、問いのようでもあり、祈りのようでもあった。


それからの運慶は、仏師としての道をさらに深めていく。

だが、彼が目指したものは、ただ一人で作る仏ではなかった。

弟子を育て、みなと語らい、民の願いを聞き、

集団として築く仏。その中にも、尊さがあると知った。


仏は、そこにいた。

焼け跡から立ち上がった人々の中に、その言葉の奥に。


「教えてください。仏を生むとは、どういうことなのか」


重源は微笑みながら言った。


「仏は、人の心に宿る。その心を束ねるのが、私の役目だ。君は、木に仏を彫る。私は、人に仏を彫るのかもしれないな」


その言葉は、運慶の胸に深く刻まれた。


それからの運慶は、仏師としての道をさらに深めていく。だが、彼の姿には、どこか重源の影が宿っていた。組織を束ね、弟子を育て、時に人を導く。彼は、仏を彫るだけでなく、仏を生む者となっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ