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23 悲惨な実情

 結奈はレフシの容姿に再び見とれてしまっていた。エフル自体、みんな美人なのだが、彼女の美しさはほかのエフルよりも際立っている。


 ギルバルド王国軍と戦争中である彼女らは、敵情視察のため、この森に潜入していたそうだ。不利であるにも関わらず、彼女たちが森の中でブリッカと戦っていたのには、そういう事情があった。


 今は戦闘があった場所で、少しばかり雑談に興じている。ブリッカの死体は、しばらくすると真っ黒な霧となって消滅した。魔物は死体を残さないらしい。


「軍の情報なら俺がもってきてやる。だから王子を、あいつらを皆殺しにしてくれよ!」


 コリムの悲痛な叫びが森に響き渡る。コリムは街の惨状をレフシたちに訴えた。

 領民は常に怯え、無慈悲に殺されていること。女は凌辱され、自分の母親も凌辱されたあと、串刺しにされて遺体をさられたことなど。


 それを聞くレフシたちの表情は重い。当然だろう。この話は、明日は我が身なのだ。領民に対してもこの仕打ち。敵国である自分たちは、果たしてどんな扱いを受けるのか。


「コリム。その話はもうやめよう」


「はぁ? なんでだよ!」


 結奈の提案に、コリムは理解できないといった表情で抗議してきた。


「馬鹿か、おまえは。今にも負けそうな敵国の女に、その話をしてどうなる? 無駄に怯えさせるつもりか?」


 ジョーカーが直球ストレートに言った。そこでようやく、コリムも自分の失言に気づいたようだった。


「貴様! 我々が負けるとはどういうことだ!」


 だが代わりに、エフルの兵士の逆鱗に触れてしまったようだ。やや黒みがかった色の髪。彼女は名前をラウラといった。


「違うのか? 状況を見るに、あと一回行軍があれば、君たちの国は落ちるのだろう?」


「殺す!」


「待ちなさい」


 部下の激昂を、レフシが冷静な声で諫めた。


「どうして、そう思うのです?」


「どうしてそう思わない? 客観的事実を集めれば明白だろう?」


 ジョーカーは淡々と説明する。まずは数の問題。ギルバルト軍約四千に対し、エフルの兵士は、およそ五百程度。十倍近くの戦力差がある。


 それなのに、数ヶ月以上戦争が長引いているのは、ギルバルト軍がエフルの女性を生け捕りにしようと考えているからだ。もっとも美しいとされる人間。その用途も価値も、容易に想像できるものだった。


 次に拠点の状況。この世界では、神が創りし神武は決して壊れることはない。その代わり、使用のたびに神気を消費してしまい、それが尽きると、ただのノーマンに戻ってしまう。


 神気は神脈に神武を掲げることで回復できるため、神脈の沸き出すポイントに拠点や城、街が建造されている。当然ながらほかの方法で神気を回復することはできない。


 すなわち、拠点はそのまま前線拠点となり、より多くの拠点を占拠しているほうが優勢なのだ。現状、エフル側の拠点はひとつを残すのみとなっており、それが落ちれば、本拠地への侵入を許してしまう。


 ジョーカーの話が本当であれば、万に一つもエフルに勝機はあり得ない。彼女たちが蹂躙され、家畜のように扱われる未来が透けて見えて、結奈は胸が締めつけられる思いだった。


 それにしても、ジョーカーはどこから、この情報を手に入れたのだろう?


「……そうですね。調べればわかることなので、誤魔化そうとは思いません。客観的事実は概ねそのとおりです」


「そんな! じゃあ、あいつらに復讐できないのかよ! 何か方法があるはずだろ?」


 コリムが縋るような声をあげる。けれど、レフシは長い睫を潜めて、再び押し黙ってしまった。


「おいおい、そこは作戦レベルの機密だぞ。簡単に口に出せるものでもないだろ?」


 ジョーカーが小馬鹿にしたように言う。


「うるせえな!」ジョーカーに吠えてから「俺も味方なんだ。協力できることがあれば、言ってくれよ!」


「あなたたちは敵ではないですが、味方でもありません。申し訳ありませんが……」


 レフシが静かに否定する。けれど、その憂鬱な表情は、何も策がないことを表しているように思えた。

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