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14 魔女の証言






「国王陛下の召喚に応じ、マルブライト王国の魔女シルヴィア、ここに馳せ参上つかまつりました」

「召喚への応じ、誠に感謝する」


ため息が出るほどに優雅な仕草で国王陛下へと頭を垂れた見知らぬ女性がしたその挨拶にその場にいた者はみな驚きの声をあげる。

騒然となるのもおかしくはない。

今まで自分たちが思い描いていた魔女像とはかけ離れた女性が魔女だと名乗り、国王がそれに応じ感謝の意を唱えたのだ。

けれどそんな中でも彼女が魔女だと知るリリーベルとアーノルドはそのことに動じる様子もなくただ二人のやりとりに静かに耳を傾けるのみだった。


「至極当然でございますれば。陛下におかれましては大変悩ましい事柄に見舞われてますようで、このシルヴィア、微力ながらご助力させていただきますわ」

「微力など謙遜もほどがあるぞ、シルヴィア」


絶大な力があるからこそこの場に呼び寄せたのだから微力などということがあるはずはないのだ。

それでもスピカらしい言い回しに毒気を抜かれたウィリアムはそれまでにつもらせてしまった倦怠感も一緒に抜けていくのを感じて顔をほころばせた。


「さて、此度そなたを呼び寄せたのは他でもない、そなたの館が燃え尽きた日の件だ。あの日何があったのか今ここで証言してもらえるかな?」

「あら、あの件でしたらもうよろしいと申し上げましたのに」

「そういうわけにもいかなくてな。此度の事はそなたに国防結界を張ってもらっている以上そなたの暮らしが何不自由なくおくれるように務めるという約束を違えたことになる。本来ならばそなたはもっと怒ってもいいほどの出来事なのだよ、シルヴィア」

「あら、そうですの?別に屋敷一つ燃えたところですぐに復元できますからわたくし困りませんでしたのに。むしろこの半年間王城に留まらせていただいて、楽しくていい思いをしておりますから屋敷に火をつけてくださった方には感謝すらしてますのよ?」


コロコロと笑いながら楽しかったとおどけて見せるスピカに今度はウィリアムだけではなくリリーベルやアーノルドまで苦笑を浮かべたが、対照的に王城に留まっていたと聞いた途端オルドミズ侯爵は目を見開いてどういうことかと隣に座るメデイアを振り返った。

しかしもちろんそんなことは聞かされていないメデイアも驚きに目を見張り父の視線に横に首を振るしかなかった。

他の者もこんなにも近くに魔女がいたことにも驚いていたが、それよりも国王と魔女の親し気な様子といくらか砕けた口調の国王にさらに驚いているようだった。


「そなたが思慮深く温厚的で心底よかったと今、思っているよ。では、説明してくれるかな?」

「ええ、そうですわね。あの日はいつも通り夜が更ける前に眠りにつきましたの。けれど月が西に傾き始めるころにお客様がいらしてね?無作法にもほどがあるからと玄関先でお相手しておりましたら、ちょっと目を離した隙に火の手が上がっておりましたのよ?」

「お客様、とは?」

「とても様々な方がいらっしゃいましたわ。基本的には少し貧しそうな平民の方と下位貴族らしき方もお見受けしましたわ。皆さま剣を携えて対魔法武具もお持ちでしたから何かの訓練かと思ってお相手いたしましたの。でもあんまりにも長いこと続きましたので途中から面倒になって死んだふりをしましたら火がついていてびっくり致しましたわ」


実際には死んだふりではなく仮死状態になり、火の手が上がってびっくりしたのはひと月もたった後だったがあえてスピカは言葉足らずのままにした。

うっかり死んだのを確認しただとかそういう墓穴を掘ったりしないだろうかと思ってのことだったが、さすがにそこまで愚かではないらしくオルドミズ侯爵はスピカの後ろで沈黙を保っていた。


「では火の手が上がったのはそなたの不始末ではないということでよろしいかな?」

「そもそもあの屋敷に火の手が上がるようなものはございませんもの。食べ物に火を通すのも湯を沸かすのも対象物自体の熱を上げれば事足りますし、明かりも光魔法で賄ってますの。竈は昔の名残でこの数百年使ってないと先代がおっしゃってましたわ」

「なるほど。ところで、焼け跡から見つかった人らしきものは何だったのかな?」

「ああ、あれ・・・ちょっとしたサプライズだそうですわ。わたくしの弟子たちが心を込めて作った肉付き人形ですのよ。国境で狩った魔獣のお肉を人形に巻き付けてただけなんですけれど火事でこんがり焼けて余計それらしくなりましたのね。驚かれました?」


にっこりと調査をしただろう近衛騎士団へと笑顔を向ければ思い出してしまったのか彼らは一様に顔色を悪くして首を振った。

驚いたどころの話ではなかったのだろう。

これは申し訳ないことをしたと、あとで作った本人たちを謝罪に向かわせることを近衛騎士団に約束した。


「では、あとはお客様に心当たりはあるかい?」

「さあ?わたくしあまり外には出ませんもの。わたくし自身は誰かの恨みを買った心当たりはありませんけれど、魔女という存在自体を疎ましく思っていらっしゃる方は多いようですし、誰とは言えませんわね」


それまでの経緯については朗々と語ってはいたが具体的な証拠になることまではわからないのだと語った魔女に誰もが肩を落としかけたが、彼女はそこで言葉を切ることはなく、ただ、と続けた。


「対魔法武具の核となるのは魔力を吸収する鉱石でできておりますの。その鉱石は今現在タリバン共和国でしか採掘できておらず、彼らはその鉱石を限られた商人にしか販売しておりませんから、そこを辿れば自ずと導かれましょう。ちなみにあの鉱石は魔力を一定量以上吸収すると暴発しますので共和国はキチンとした商人にしか販売権を与えておりません。ですので国を通してお話すれば快く調べ上げてくださると思いますわ」


タリバン共和国はマルブライト王国と北の山を挟んださらに北に位置する国で同じく魔物の巣窟に隣接する国として討伐協定を結んでいる同盟国でもある。

対魔法武具はその魔物討伐のために生み出された武器であり、それを生み出すにあたって何代も前の魔女シルヴィアが助言をしたことで、かの国はマルブライト王国と魔女に対して恩義を持っている。

そんな共和国が自国の武具が魔女に仇なすことに使われたと分かれば協力を惜しむことはないだろう。

しかもうまくいけば共和国も長年悩まされていた闇商人を洗い出す理由にもなるだろうから徹底的に追及してくれることも見越しての提案だった。


「わかった。すぐにでも使いを出そう。真相は今しばらく待たせることになってしまうな」

「構いませんわ。興味ございませんもの。何かしらの処罰を与えるにしても全てそちらにお任せいたします」


けして解決したとは言い難い流れとなったがそもそも魔女はそのことに対して問題視していないと最初から告げていることから『魔女の館襲撃』についてはそこで終わりとなった。

しかしウィリアムはこれから使いをやるような言い方をしていたが、実際はスピカが目覚めてすぐにタリバン共和国に使いを送っている。

かの国からも数日前に大詰めだと経過報告が来ていたので近日中に闇商人と襲撃の犯人は日の元に引きずり出されるだろう。


もうよろしくて?と首を傾げたスピカにウィリアムは頷いて見せるが退室は許さなかった。

この場に残り監視しろとのことだろうが、驚いたことに彼は自身が座る左手の一段下、つまり本来ならば側室の椅子が据えられていたはずの場所に来るように促したのだ。

それにはスピカも困ったように眉を顰めて王弟の方を伺うが、彼も同じような顔で肩をすくめてみせるだけだった。

そうした国王だけでなく王弟とも親し気なやり取りをする魔女を見ても、もう貴族たちは驚くこともなくただ魔女が王の命令に対してどうでるかを静かに見守るだけだった。

そしてなおも頑として譲らぬ様子のウィリアムに観念したように軽く床を蹴り軽やかに飛んで見せたスピカの着地点にオスカーが一番驚くことになってしまう。

一息で壇上まで飛んだ彼女は王が示した場所ではなくオスカーの目の前へと降り立ち、彼の右手へとその身を落ち着けたのだ。

そうしてスピカがどことなく気まずそうな弟の横についたのを見届けると、ウィリアムはもう一度前を見据えて口を開いた。


「次に、ラルフレッドの王位継承権の放棄とその後の処遇についてだが、」

「お待ちください陛下!母であるわたくしの許可なくラルフレッドの継承権放棄を認めるだなんてあんまりですわ!」


あってはならない、王の言葉を遮るという行為をしたのは、またもメデイアの一層悲壮な声だった。




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