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フラワーアルケミスト

──あれから数ヶ月、俺達の生活は順調に進んでいた。

 この世界のルールも、生活も雰囲気も…完全に俺の中で常設されたものとなり、文化の違いに対しても何も感じなくなっていた。


 それと同時に、この世界に住む人達の苦労や、何が不足し…何が起こっているのか等、表立った問題も浮き彫りになってきていた。

 それによって、俺が平和だと思っていた世界もまた、人によって成り立った"社会"だと言うことを改めて実感した。


 それを踏まえて俺達は…実はある仕事を始めたのだ。


 今日もまた…朝早くから支度をし、それを始めるために道具を揃える。


 早朝の日差しを受けながら、フィオラの家の前に立てた…小さな露店を開き、そしてその仕事を始める。


「フィオラ、今日も売れるといいな。」


「はい! その為にまた色々と『咲かせて』おきましたよ!」


 フィオラはそう言うと取り出したのは…無数の花。


 それはそれぞれ薬や食用で使える物ばかり…そう、売っているのは"花"だ。

 以前彼女と何か物を売る事が出来ればと話していて、結局出来なかったからな…今回を機に実行に移したのだ。


 彼女もそれを大変嬉しく思っているのか、毎日張り切って花を育てている。

 勿論、錬金術を使い…それの上達も含めての事だ。


「フィオラ…その花何だ?」


「これですか? これは新しく作ったお花です!

 名前はそうですね…『ユタンポポ』何てどうでしょう!

 触ると暖かくて…寒い時期でも花弁を貼ればあったかポカポカ!


 育てるのに必要なのはお湯だけですから、どんな人でも育てて使えますよ! どうですか!?」


「いやフィオラ、今…夏なんだけど。」


 かなりジメジメとした気温で…外は暑い。

 季節で言うと夏で、彼女が作ってきたのは冬の為のものだった。


「あ…あはは…そうでしたね…。」


「フィオラ……まあそれもフィオラらしいな。

それに…楽しそうだから良しとするか。」


「あはは…すみません…。」


 苦笑いしながら花をこそっと袋に戻す彼女を見て、俺はそう言った。


 彼女も何だかんだ言って楽しそうで、笑顔が耐えることは無かった。

 今回は失敗だったが…いつも作る花はかなり有用な物が多く、売れ行きもいい。

 彼女の錬金術の腕が上がっているのも目に見えて分かる…どうやら俺達は道がハッキリしたお陰でより前に進む力が付いたみたいだ。


 誤魔化すように笑う彼女を見ていると…店の準備を進めている俺達の前に…彼女がやって来た。

 いつも吸っているお気に入りの葉巻を口に咥えながら、どうやら茶化しに来たようだった。


「ほうお主ら、朝から元気じゃの…また珍妙(ちんみょう)な花を作った見たいじゃが…。」


「あっ! お師匠様! おはようございます!」


「お前は朝から葉巻か…身体壊すぞアリストロメリア。」


「竜之介…分かっておらぬな?

これが体調を整える秘訣なのじゃよ…ふふふ。」


「成る程、ババアの身体もボロが来てるって事か。」


「…お主本当に口が達者じゃのう…。

もうちょっと敬意を持ってもいいんじゃぞ?」


「誰が持つか。」


 すっかりフィオラのお師匠様として君臨している彼女…俺と同じこの家に居候(いそうろう)しているアリストロメリア。


 俺が挨拶がてらに罵倒を浴びせると…相変わらず喜んでいるのか悲しんでいるのか良く分からない表情を浮かべながら呑気に葉巻を吸っている。


 どうやら彼女も朝の挨拶をしに来ただけではなく、何やら朝早くから誰かを呼んできたようだ。


 彼女が葉巻の灰を落としながら、家に繋がる道をチラリと見る。

 釣られて見ると…何やら複数の人影が手を振って歩いてきているようだった。

 その内声も聞こえ始め…それで誰が来ているのかは良く分かった。


「リュウノスケー! 手伝いに来たよー!」


「リュウノスケさんー! わたし達も来ましたー!」


「少年! 元気かー?」


「おーい! 待ってくれー!

はぁ…はぁ…クウォーラ、手伝ってくれー!」


「カインあなたね…ジャックもレンも、もう少し歩くスピード下げて下さい!」


「わりぃわりぃ…レン、そこの嬢ちゃんと先に行ってくれ。


 全く…カインお前最近太りすぎじゃないか?」


 耳を澄ますとそんな会話が笑い声交じりに聞こえてくる。


 そこに居たのはレン、ジャック、カイン、クウォーラの"錬金術協会"の四人だ。

 それとあと一人…元気にレンと走ってくるエメラルド色の髪をした女の子、ミッシェルだった。


「よお! 何か久し振りだなミッシェル。」


「やっほー! リュウノスケもフィオラも元気そうだね!」


「ミッシェルいつも元気だよね…私もそれぐらい元気だったら良かったんだけど…とほほ。」


「どうしたのフィオラ?

って何その花! 初めて見たー! ちょっと触らせて…って熱っっ!?」


「…お前相変わらずだな…本当に…。」


「何それ褒めてるの?」


「その頭もほんっっっと変わんねぇな!?」


「元気じゃのう…。」




 相変わらず変わらないミッシェルに、何だかんだホッとしながら笑っていると、レン達もどうやら到着したようだ。


 どうやら彼等も色々と進展があったようで…カインはなんとクウォーラと結婚したらしく、そのせいなのか何なのかは分からないが…小太りだった身体がすっかりまるまるになってしまっていた。

 幸せ太り…って奴だろう、(うらや)ましい限りだ。


 カインとレンは店の改築や宣伝隊長として錬金術を町に広めてくれていたお陰で、俺達のこの露店を開くきっかけをくれた。

 彼等にはかなりお世話になっている…今日も手伝いに来たくれたようだ。


 因みに相変わらず変わらないミッシェルだが、彼女も実はマルテッタさんの店を跡継ぎとして引き継ぐ事を決めたらしい。


 それと同時にメテロンの店はやめてしまったが…彼女曰く店はまだまだ大繁盛らしい。


 ミッシェルはナイフを作ると同時に鍛冶屋としても活躍しているらしく、レンの店と提携を結び…冒険者の手助けをしているそうな。


 この数ヶ月、大幅に道が見えてきた俺達だが…まだまだ変わらない日常を過ごしている気分だ。

 初心のまま…気楽に生きるのがこの世界には似合っているからな。


 と、考えるのも大概にして、彼等と懐かしい話をしながら…露店を次々に整備していく。


 この店も大分町の人から好評や評判を受け、連日お客が絶えない程にまでなった。

 常連客何かもついて…町から離れているのに毎日大忙しだ。


 だが…それも一つの作戦、これも実は俺達の夢に繋がる事なのだ。

 思い通りに行ってると…そう考えながら準備していると、アリストロメリアが感心しながら声を掛けてくる。


「ふむ…錬金術もまずは知ってもらう事で認知させ、人を寄せ付ける事で…それを通じて世の中を探って行くって魂胆だな竜之介?」


「流石は"原初の魔女"、その通りだな。」


「まずは『人』か…ふふふ、やっぱりお主は"賢明"じゃの?」


「ああ…何せ俺は完璧(パーフェクト)だからな?

 天才竜之介さんにやれないことは無いってことよ!」


「そうじゃったな…自称天才じゃったな。」


「自称はいらんわ!」




 そうしている内に、露店を開く準備は整い…みんなは定位置につく。


 俺もフィオラと肩を並べ、目の前に綺麗に並べられた花達を見つめる。

 店のトレードマークは手書きの白いバラ…その横には実物の『スノーローズ』が掛けられている。


 売ることは出来ないが…これも大切な商売道具のような物だ。


 大切な人から預かった、大切な花。


 みんながそれぞれ目を合わせ、開店に備える。


 そして…その時間となったとき、目の前の道の先から、一人のお客がやってくるのが見えた。

 それぞれ満面の、出来るだけ最高の笑顔を浮かべながら…その人を迎える。


 俺もフィオラと目を合わせながら微笑み…声をかけた。



「さあフィオラ! 今日も一仕事だ!

世界を知るのも…まずは人からってな!」


「はい! 今日も張り切って行きましょう!」




 竜之介達の経営する露店は、たちまち町に広がり…やがてその噂はまだ見ぬ大陸の先にまで広まっていた。


 病を直す花、食の問題を解決する花、植えるだけで彩る色彩の花…様々な花を取り扱うその店の名前は、知れ渡っていった。


 白いバラをモチーフにしたその店の主…青い瞳をした赤茶色の綺麗な髪をした錬金術師の少女…そしてそれを支える奇妙な服装をした一人の少年の事を、この世界は認知していった。


 いつしかその二人がこの世界に新たな息吹を灯すことを…まだ世界は認知していなかったが、それでも二人にはある呼称で世界に馴染んでいたのだ。



 今日も元気良く仲間達と人々を助ける花を売り続けるその彼等の事を、アリストロメリアは遠目で見ながら…微笑み、その呼称を呟いたのであった。


 彼等二人を総称する…ピッタリの名前を、彼女は呟いていた。




「『フラワーアルケミスト』……か、ふふふ…そのままじゃないか…。


 でもまあ……花の似合う錬金術師ってのは…そんなに悪くない者なのかも知れないの………。」



 手に持った一輪の白いバラをクルクルと回し…それを空に放り投げると……舞い散るその花びらを背に受けながら、彼等の元へと歩み寄るアリストロメリアなのだった。





 二人は『フラワーアルケミスト』。


 花に選ばれた…奇妙な錬金術師達の開花は…まだまだ始まったばかりなのであった。

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