夢に向かって
───さん────
──の──さん────
俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。
聞き覚えのある声…甲高くて、優しい波長のその少女の声が、遠い場所にある俺の意識に語りかけている。
『頼み事』は終わった…そろそろ起きないとな。
その声を頼りに、俺は飛ばされていた意識を集中し…あるべき場所へと帰る。
今から新しい目的の為に…この声の主と、様々な経験をするんだ。
託された"夢"を胸に抱き、俺は"現実"へと身を起こした。
※※※
「…はっ!? 戻ったか…!?」
「リュウノスケ…ひゃんっ!?」
「痛ッッ!?」
俺は意識を取り戻すと、そこはフィオラの家のベッドの上だった。
起きた直後に勢い余ったのか、それとも彼女がビックリしたのか分からないが、結構な勢いで頭をぶつけ合ってしまった。
声にならない声で二人ともその痛みに震えていたが…それよりも話さなければならないことやがある俺や、"帰り"を待っていた彼女は同時に顔を見合せて声を揃えて言った。
「「話したいことが!!」」
お互いにあっ…と言いながら少し照れる。
落ち着いて深呼吸し、俺は俺の得てきた物の事を…彼女は俺がそこに居る間に考えていた事を話したがっていた。
起きたばかりで身体も何だかだるく感じるが…俺はそれよりも大事な事のため、それを物ともせず話を始めた。
「こほん…フィオラ、俺からいいか?」
「…はい、お願いします。」
彼女は真剣に話を聞いてくれた。
俺がルピカさんから託された力の事…それから、今後何をするか、それをどうやって二人でこなしていくか…等々、彼女にはありったけの事を話した。
俺達はもう既に"託された"。
だから…これからは忙しいと言うことや、夢を追いかける事について真剣に検討すること等…俺は今後やりたいことを彼女に一気に伝えた。
親父の事も、彼女には伝えた…勿論驚いていたが、それと同時に安堵の様なものも感じた。
ルピカさんは…残念だったが、まだ希望はある…それだけで良かった。
その希望を見つけるためにも、俺は彼女にハッキリした生活を望んだ。
彼女は一切否定することなく頷いてくれた…やはり、ある程度察していた様だ。
「フィオラ…本当に良いのか?」
「はい、私決めたんです…これからもっと頑張って…お母さん見たいになるんだって…。
だから! 今リュウノスケさんが言ったように、これから色んな事をしなければ行けませんからね。
私も考えていた事…勿論リュウノスケさんも一緒に、ですよね。」
「ああ、託されたもんは仕方ないからな。
それに…俺も目標が決まった。
それの為にも俺は進まないと行けない。
あと…知りたいことも山ほどあるからな。
あっ…それと……フィオラ、これを。」
「…!!」
お互いの気持ちを簡単に疎通しあった所で…俺はポケットに入れていたあるものを取り出した。
本当ならば、持ってくることは出来ない。
だが…意識が薄れる前に、アリストロメリアが何かしていたのを知っていた。
俺は迷わず手を入れ…その小さな預かりものを見せる。
彼女はそれを見て驚き…同時に笑みを浮かべ…それを受け取った。
俺が渡したそれは…『種』。
「…『スノーローズ』の種だ。
これだけ…何とか持ち帰って来れた。アリストロメリアのお陰だ。
……ルピカさんがフィオラにって…。」
「……お母さん……。」
その小さな種子を胸に抱き…フィオラは暖かな表情で笑っていた。
母の大好きだった花…もう咲かせる事は出来ないと思っていた彼女にとっては、その種の意味がどんなことなのか…きっと理解している事だろう。
笑っている、とは言ったが…彼女の目は…何処か悲しみと別れを抱いている様にも見えたのであった。
「…リュウノスケさん、ありがとうございます。
これで…一層決心がついた気がします。
それに…お義父さんはまだ生きているんですよね?」
「ああ、多分だけどな…だが、もしかしたら調べれば昔の事とか分かるかも知れない。
…親父の事も含めて、これから忙しくなりそうだなフィオラ。」
「そうですね…でも! それもまたいいんじゃないでしょうか?
最近私もぐうたらし過ぎて…やりがいを見つけたかったんですよ!」
「何じゃそりゃ…まあ、確かに俺も少し現実に甘えすぎてたのかもしれないな。」
彼女は自分に課せられた課題がどれだけ重いのか、理解しながらも…それを苦にもせず、自らの道として歩んでいくことを元気良く言った。
俺自身も、これからは彼女に本格的にフォローを入れなければならない。
彼女を見習って…辛気臭い空気を入れ換えることにしたのであった。
「良し! 俺もずっと真面目モードだったもんで流石に疲れたわ!
まあやることは多くなるけど…日常が変わるわけじゃ無いよなフィオラ!」
「はい! ただ…怒られないでしょうか?」
「ん? 大丈夫だって! 少し位日常が変わるだけだろ?
仕事見つけて…錬金術磨いて…後は情報収集や何やらやるだけだ。
後は好きなように生活したっていいだろ?
"賢者様"がサボって無かったって証拠は何処にも無いからな。」
「あはは…私がもし賢者となってサボって居たら…それはそれで…。」
「……見つからない様にサボるしかないな。」
「リュウノスケさんやる気あります…?」
そんな事を二人で言いながら、いつもと変わらない雰囲気で話を続けていった。
重大な事を託された筈なのに…何故か心は落ち着いている。
それどころか、これまでよりずっと、焦りに陥る間隔も短いような気もする。
寛容になったと言うか…心が広く感じると言うか…これもルピカさんから貰った力のお陰かも知れない。
「さて! 話も終わった事だし…早速それ、植えようぜフィオラ。」
「はい! 行きましょう!
…所であの、えっと…あの人は?」
フィオラにそう言われ…あの人? と一瞬考えたがすぐに思い出した。
さっきも一瞬考えてた筈なんだが…忘れてしまっていた。
アリストロメリアは…何処に行ったんだ?
俺達は部屋から急いで飛び出し、駆け足でリビングへと向かう。
何やらリビングから話し声が聞こえる…どうやらリベルさんの声の様だ。
そっと俺達がリビングを覗くと……そこにはリベルさんと楽しく話している"あの人"が居たのであった。
「アリストロメリア!! 俺と一緒に行ってた筈じゃ!?」
「いつの間に…?
と言いますか…あれ? 今まで何処に?」
「おお! お主らも来たか!
何やら美味しいお菓子を出してくれてな…モグモグ…お主らも食べるか?」
「「いや質問に答えて下さいよ。」」
この匂い…どうやらリベルさんはアリストロメリアに『スワンスクッキー』をご馳走しているようだ。
何ともずけずけとした態度で…堂々とした笑みを浮かべながらもお菓子を頬張るアリストロメリアのその姿がそこにあった。
俺は呆れ、フィオラはぽかーんと放心していると…一気に頬張ったそのクッキーを飲み込み…立ち上がると、彼女は俺達を指差し…ハッキリとした口調でとんでもない事を言い出したのであった。
「んぐ…んぐ…ふう! 旨かったー!
さて…フィオラ・ビスマルク及び龍ヶ谷竜之介!
我は今日から……この家で共に暮らし! そしてお主らの行動に責任を持つ保護者となってやろう! ありがたく思うがいいぞ! はははは!」
………。
「「はぁぁぁぁああああ!?!?!?」」
こうして、俺達は目的の中にまた一つ…厄介事を抱えて、生活を送ることになったのであった。
ご閲覧ありがとうございます。
突然ですが…次でエピローグにしようと思っています。
中途半端に終わってしまって本当に申し訳ありませんが…一旦区切りをつけようと思っています。




