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受け継がれる思い

 俺は崩れ行く空間の中で、急がなければならないのは承知の上…アリストロメリアを止めた。

 彼女自身、きっと本当ならば何か思う節がルピカさんに対してあったに違いないと、そう思った。


 お節介なのかもしれないが…もうこれでルピカさんと会うことは出来なくなる。

 それも彼女の師匠ともあれば…少なくとも彼女には別れを告げる義務はあるはずだ。


 アリストロメリアは少し渋い顔を浮かべているが…俺は真剣な顔で見つめていた。

 すると、痺れを切らすようにアリストロメリアが、声を発した。


「の、のう…本当に言わねばならんのか?」


「はあ? 当たり前だろ?

 あんた師匠何だろ? 消えちまう弟子の一人にも声が掛けられないって言うのか?」


「ち、違うんじゃ…えっとだな…」


「何をもたもたしてるんだ…早くしないとここ諸とも俺も一緒に消えるぞ?」


 俺がそう言うと、ルピカさんもアリストロメリアも俺を止めた…だが、一人の弟子に声を掛けられないような小心者の望みに応えるほど俺はお人好しじゃないし、アリストロメリアはこれからきっと俺達と関わりを持つのだろう。


 だとしたら…今度俺達と別れが来るとき、彼女はまた逃げるかも知れないと感じた。

 単純な話…俺はただ最後の別れを告げて上げて欲しいだけなのだ。難しい話ではない。


「はぁ…原初の魔女ともあろうお方が…人一人に敬意も払えないのか?」


「そ、そんなに煽らなくてもいいじゃろう!

分かった! 分かったよ全く…お主本当に掴めん男じゃの…。」


「上に立った人間が下の人間に言葉を掛けるのは、社会でも必要だぜ?」


「何の話をしておるのじゃお主は…?」


 と、無駄話をしているほど…この空間を保つ余裕は無さそうだ。

 所々崩れ…真っ暗な空間が外に見えてきているのが分かる。


 出口を介せずあの真っ暗な空間に放り出されたら…もう意識を身体に戻すことは不可能だろうと察した。

 だから、早急に…話をしてこいとアリストロメリアを煽った。


 別れ話をする時間くらいは…あるはずだ。


 ルピカさんの前に立ち止まったアリストロメリアは…何だか申し訳なさそうな顔をしていた。

 それをみたルピカさんは…ふふっと笑って居たのであった。


「な、なんじゃ! おかしな事などしてないぞ?」


「いえ…ふふ、アリストロメリアがそんな顔するの何て…何年ぶりかしら?」


「む…そうじゃな…。

 お主の娘が産まれた時…どうしようも無くて慌ててた時位かの…。我もあの時は流石に焦ったからの…。」


「ふふ、変わらないですね…『お師匠様』。」


 その言葉を聞くと…アリストロメリアはより一層表情を曇らせた。

 これまで俺が見てきた余裕の部分など、何処にも見えないほど…彼女に辛い事があるのは見て分かった。


 俺は、彼女達のその話に耳を傾けながら…ただ見つめて立っていた。


「アリストロメリア…そんなに悲しい顔をしないで。


 貴女がそんな顔をしてたら…後に任されたあの子達はどうするの?

見届けるんでしょう? 錬金術師の道を…。


 この世界の…奇妙な運命を。」


 ルピカさんが、そう言ってアリストロメリアの手を…今にも消えそうなその手で掴んだ。


 彼女は笑い、悔いはない…後は任せたと言わんばかりの顔をしている。

 それを見たアリストロメリアも、それまでの曇った表情を拭い…それまでの彼女の風格を取り戻していった。


 手を握り返したアリストロメリアは…最後の言葉を彼女に掛けた。


「実はなルピカ…お主に声を掛け、『別れ』をこの身に実感してしまえば…我は後悔と、お主を助けられなかった無力に苛まれると思ってたんじゃが…。

 最初、お主が死んでしまった時…我は…いや、()は後悔した。


 狙われているのが分かっていて、それを見過ごしてしまった私の臆病のせいだ…本当にすまない…。」


「お師匠様…。」




「じゃが…お主の言葉を今聞いて分かった。

 お主はしっかりと…その身が朽ちようと、この場所で(こら)え…そして無事に役目を果たした。


 師匠として…こんなに嬉しいことは無い。


 よく…頑張ったな…ルピカ…。」


 そう言うと、アリストロメリアは涙を浮かべながらも…笑みを浮かべて言った。



 その言葉を受け取ったルピカさんは…ふふっとまた笑うかと思うと…一粒だけ、涙をその手で拭った。


 その姿は幻影ではない…まさに本当の彼女であるかの様に…俺は見えた。


 そして、アリストロメリアは彼女の手を離し…数歩後ろに下がると…彼女を見て頷いた。


「あの子を…フィオラを…そして竜之介くんを…頼みましたよ、お師匠様。」


「ああ…我は必ず彼等を運命の糸に繋げて見せるぞ。だから…安心して眠ってくれルピカ…。」


「はい…あ、最後に…竜之介くん、こっちに。」


「んん? 俺ですか?」


 唐突に呼ばれた俺は、ルピカさんの元へ駆け足で向かった。

 何か俺に伝えたい事があるようで…それを伝えたいとの事だった。


 床も崩れ始め…足元に気を付けながら進み、前に立つと、ルピカさんは話を急いでしてくれた。


「竜之介くん、実はこれだけ貴方に伝えようと思って…きっと気になってると思うから。」


「何ですか…その話って?」


 すると、俺の手を握ったルピカさんは…とても真剣な表情で俺にあることを伝えた。



 それを聞いた俺は…思わず後退りしてしまうほどであった。



「実は……貴方のお父様…『リュージロー』さんなのだけど…まだ生きているわ。」


「な…何だって!?」


「私は殺されてしまったけれど…あの人は最後、連れていかれるのが分かったわ。

 きっと何処かで…まだ生きているかもしれない…。


 竜之介くん、もしも出会ったら…あの人に宜しくね。


 あと…これを…。」


 親父が生きている…そう言うとルピカさんは、驚く俺の手のひらにあるものを渡した。


 それを見た俺は…その意図を感じ、目を見て頷いた。


 後は任せてくれ…そう言う様に。



 俺達は、それを受け取り…別れが済んだ所で…出口となる魔方陣の上に立った。

 消えていくその身体、それでも満面の笑みで手を振って見送るルピカさんの姿を目に焼き付け…必ず彼女の意思を受け継いで行きたいと、そう心に決めた。


 壁に咲いていた『スノーローズ』は…崩れていく衝撃で舞い散って行く…。


 その花びら一つ一つが、地面に触れる度に光の粒子となって(そら)に消えていく。

 次第に部屋自体が粒子へと姿を変えていき…まるで幻想的な光景を見ているかのようだった。


 アリストロメリアの合図で俺達は転移を開始し…その視界は光に包まれる。




 正に散り際…俺の視界に最後に映ったのは、光に包まれ、白いバラの様に穏やかな雰囲気を残しながら…。


「ルピカさん…親父が貴女に惚れたのが…良く分かったよ。


 優しいけど少しトゲがあって…本当にバラみたいな人だった。


 ありがとう…後は任せてくれ。」





 ルピカさんは…消え行くその部屋で咲いていた無数の白いバラ達と共に…美しい花びらへと姿を変え……(そら)に消える光となって散っていったのであった。



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