選ばれた少年
話は聞いた。
魔女…いや、アリストロメリアが俺の親父…竜次郎を助け、彼女の弟子であるルピカ・ビスマルクの元へと送り出したのも、親父が都合良く日記を書けたのも…彼女の計らいだった。
彼女曰く、数日程度は彼女の元で匿っていたとの事だ。
そして親父が…異世界であるにも関わらずベラベラと彼女と言葉を交わしていたどころ…気に入られたみたいだった。
それを機に、ずっと親父の事を探しながら…後何か事情も含め各地を点々としていた所…湖で偶然俺を見つけたと言うことだ。
そんでもって…俺には何やら資格があるだどうだと言い始め…今に至る。
因みに今、俺は彼女に遺跡のど真ん中で押し倒され、上に馬乗りにされていると言う状況だ。
「どうしてこうなった!?」
「今お主が説明した通りじゃろう?」
「いやいや、だからって馬乗りになる手順も雰囲気も何もねぇじゃねぇか! 何が目的だっての!」
「お主の言った通り…そして、お主の記憶の通り…どうやらあの男はもう居なさそうじゃからの…代わりに、お主をあの男の代わりにしようと思っての! しかもうちの弟子の娘と一緒に暮らしてるとは都合が良い!」
「何の都合だ! がぁぁ! 何をする気だー!」
「何もナニもしないわ…全くやかましいの…我もそう暴れられると手荒にせねばならんのだが…?」
すると、彼女は右手を掲げ…指輪から炎を出して見せた。
流石にこれ以上暴れて身体を焼かれては俺の異世界ライフが終了してしまうので…何をする気かは分からないが、抵抗することなく為すがままにしていた。
「良い子じゃ♪ まあ痛いとかそう言う事じゃ無いからの…じっとしとれ。」
「……早くしてくれ…。」
不服そうな顔を見せながらも、彼女のする事をただ寝そべって見るしかなかった。
すると、彼女は何やら俺の額に手を当て…ぶつぶつと呟き始めた。
その言葉に呼応する様に、周りの植物や木々、そして風が、ゆらゆら揺らめく様にざわめいている。
そして彼女の指輪が再び光ると…視界が光に覆われた。
※※※
光の中、眩しさを残しつつ目を開けると…今度は真っ白な部屋に居た。
ここが何処だか…その部屋の壁に咲く、白いバラの園が…教えてくれた。
そして、いつも通り正面を向くと…そこにはあの人が座っていた。
「あら…? 竜之介くんじゃない!
また来ちゃったの? 貴方も好きね。」
「好きで来たわけじゃ無いんだけど…また会いましたね…ルピカ・ビスマルクさん。」
赤茶色の髪に、青色の瞳…フィオラそっくりだと思っていたが、母親ならば似てても当然と言うわけだ。
度々飛ばされていたここは…フィオラの母親が居る空間だったらしい。
俺がその人の名前を…ルピカさんのフルネームを答えると、何だか懐かしい様な笑みを浮かべながら紅茶を飲んでいた。
「……そう、どうりで早いと思ったわ、やっぱり会ったのね…。
と、言うことは…そこに居るのね、アリストロメリア。」
彼女がそう言うと…それまで俺が立っていた場所…その俺の影が膨らみ…俺の横に実像となって出現した。
驚いて後退りしたが…そこには愉快そうな笑みを溢すアリストロメリアが立っていた。
「うお!? 俺の影から出てくんなよ!」
「ふふふ…まあそう言うでないわ。
"この場所"に来るには…お前の影に紛れる位しか方法が無いからの。」
「は、はあ…。」
そもそもこの場所自体がどんな場所なのかも分からないが…取り敢えずは一緒にここに来たと言うわけだろう。
どうやらアリストロメリアが言うには、この場所は特定の人間にしか訪れる事の許されない場所…。
精神と記憶が交わって出来た狭間の空間と言った不思議な場所らしい。
正式な名前は『賢者の園』。成る程…以前元の場所へと帰る時にルピカさんが賢者がどうとか言ってたっけ…。
取り敢えず、この賢者の園とやらに来たのは…ある理由からだった。
「やはり、ここに居たのだなルピカ…探しても魔力を感じないのじゃから…まあここじゃろうと思ったよ。」
「アリストロメリア…ごめんなさい、私はもう…。」
「ああいいんじゃ、我と違ってお主は普通の人間…『魔女』と違って死を迎えてしまったのじゃろう。
それぐらいは…分かっているつもりじゃ、だからここに居るのだから。」
「なっ!? ルピカさん…やっぱり…。」
そう、目の前に居るのは死んだ筈の人間。
俺の中に流れる…フィオラの記憶で見た通りなら…彼女は何者かに殺されていた…と言うことだろう。
最後にフィオラに賢者の花を渡したのは、死ぬことが分かっていたからだったのだろうな。
しかし、だからここに居る…と言うのは些か分からないので、少し聞いてみることに。
「あーすまんが、ここって…つまり天国か何かって事か?
死んだ筈のルピカさんが居るってことは…そう言うことだろ?」
と聞くと、アリストロメリアは呆れた顔で俺に質問を返す。
「ばかもん、それだったら我らも死んでしまって居る事になのじゃぞ?」
「あっ、考えてみればそうか…じゃあここは何だってんだよ。
目の前に居るこのルピカさんは…何だってんだ。」
そう聞くと、ルピカさんは先程までの笑みを無くし…真剣な表情で俺を見た。
何かを訴えかける様な強い眼差しに、少し怯みながらも…再度アリストロメリアの方を見た。
俺と目があった彼女は…渋々と言った顔で、説明を始めた。
「そうじゃな…ここに居るルピカは謂わば実像幻影…本物ではない。
だが、限りなく本物に近い存在だ。記憶も経験も…人格もじゃ。
じゃが、本物はとうに死んでおる。
だから…本物の代わりにここに居座っているのじゃ。
我の弟子…ルピカが『賢者の審判者』としての役割を果たすためにな。」
「賢者の審判者…?」
聞いたことのない言葉だ。
それについて…アリストロメリアは説明をし始める。
「本来ルピカは死んではならん、『賢者』を生み出すまではな。
賢者を生み出す為に、錬金術を用いて賢者の資格を得るための『花』を生み出し…それを与え、最後に賢者としての力を与える。
それが審判者であるルピカの目的…じゃったのだが…まあ無惨にもその命は半ばで途絶えてしもうたらしいがな…。」
ルピカさんはそれを聞くと…申し訳なさそうな顔でうつ向いた。
それをアリストロメリアがなだめ…再度話を続ける。
「じゃが、審判者は居なくなる訳にはいかん。
賢者を生み出せなければ…色々まずいんじゃよ。」
「何がまずいんだ?」
「…まあそれは後に話すとしよう。
それで、死んでしまうと悟ったルピカは…ここに代わりの審判者を残して行った…と言うわけじゃ。
つまり…ここに居るのは彼女の幻影…役目を終えるまで消えない…最後の意思じゃ。」
ここはある資格を持った人間しかたどり着けない場所…そこに居たのは『賢者を生み出す為の存在』。
そう、何が言いたいかと言うと…俺はその『賢者』に選ばれる為にここに度々呼ばれていたと言うことだ。
ここまでの情報…まあ賢者やら何やらまだ分からないことはたくさんあるが…ここにわざわざ無理矢理連れてきたと言うことは…つまり俺は今から、何か大事な事に巻き込まれると言うことだった。
理解した俺が何も言わずに…真剣な表情でみた彼女達の顔は、何か重要な事を託したい…そんな意思を感じさせる表情を、俺に向けていたのであった。




