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始まりの"風景"

「あ、あんた…その姿…女だったのかよ!?」


「うむ、あの姿は仮の姿…まあ『賢者』に姿もどうもありはしないのじゃが…お主みたいな年頃の少年には、この姿がお似合いじゃろ?」


「ここは性別不詳の国か何かか! てか別にそんな姿で動揺するかアホ!」


「ほれほれ~? 大きな果実は好みでは無いかの?」


「やっかましいわエロババア!」


 目の前にさっきまでいた子供の姿は、そこには無かった。


 何やら意味の分からない魔術か何かで、彼…いや彼女の言う『真の姿』とやらに戻ったらしい。

子供にしては達者な口振り、それに気迫も並外れたものでは無かったが…まさかこんな姿になるとは思いもしなかった。


 人払いをしたのはこの為か?


 俺の緊張や警戒を解くためにしたとは言ったが…これでは余計に何者か分からないし、俺の警戒を強める結果となった。


「…むう、我のこの美貌では警戒は解けぬか…お主さては女知らずじゃな?」


「いちいち失礼な奴だなあんたは! 純粋無垢な天然の優しい好青年何だよ俺は!」


「剥く? 何を…ナニ(・・)を?」


「おっまえその姿になった瞬間下ネタひでぇな!? 誰もそんな事言ってねぇよ色欲魔!」


 ああ言えば下ネタ、こう言えば下ネタ…これならさっきの方がまだましだったな。


 と、ツッコミがてら受け答えをしていると、彼女は何だかつれなさそうな顔をして言った。


「むう、この姿になるのは久し振りでな…我も色々と溜まっておるのじゃよ…魔力も下欲もな! なはははは!」


「もういいから黙れよあんた…。」


 いい加減ペースも空気感も汚染されてきたので…渋々彼女の話とやらを聞くことにした。

 これ以上爆弾発言撒き散らされると、処理に追い付かないからな。


 改めて俺は飛ばされた椅子を直し、彼女に向かい合う様に座った。

 彼女もさっきまでとは違い、色っぽさを全面に出しながら、片足組むようにして向かいの椅子に座った。


 服装は子供の姿の時のままだが…またそれが目のやり場に困る困る。

 取り敢えず目線を身体から顔に向きなおすと、改めて話を始めた。


「で、話ってのは? あんたみたいな得たいの知れない奴の事だし…世間話だけって訳じゃ無いんだろ?」


 そう聞くと、彼女はクスッと笑いながら頷いた。


 まるでそう言うのが分かっていたかのようなこの反応が…俺には少々苛立(いらだ)つ仕草だったりするのだが…彼女はお構い無しに話に入る。


「くく、良く分かったの? 流石は我が見込んだ少年だ…実に『賢明』…いや、『賢者』と言うべきかの?」


「…どういう意味だ?」


「そのままだよ、君は選ばれているのだろう?

匂いで分かるよ…『あの男』と同じ…"幼い身体"の匂いがね。」


「あの男…? 意味が分からん…真面目に話してくれ。」


「ぬう真面目に話してるのじゃが…仕方ないの…手っ取り早く伝えるにはやはり彼処に行くしか無さそうじゃな。

 では場所を移すとするか。

…これでは人払いの意味が無いからの?」


 そう言うと、彼女は俺の後ろ…カウンターの奥を指差して言った。

 振り向いて良く見ると…レンとジャックがこそこそと覗き見をしていたのであった。


 俺達の視線を感じると…彼等は慌てて奥に戻っていったが…全く気付かなかった。


 確かに、これでは人払いの意味が無いだろう。


「はあ…まああれだけの風とかが急に店内で出てきたら覗きたくはなるわな。」


「まあこれは我のミスだ、彼等に悪味(あくみ)は無いじゃろう…仕方ない、ほれ。」


「はあ? 何だよ右手出して…何もくれてやる物はないぞ?」


「違うわあほたれ、手を貸せと言っているんじゃ。」


 彼女はそう言うと強く俺に手を置くようにと示唆してきた。

 何をするのかは分からないが…取り敢えず彼女の意思に従った方が良いだろう。


 彼女のその意思に従い、俺は左手を上に被せる様に置いた。


 すると、彼女のその右手…被せた手の薬指辺りが熱くなるのを感じた。

 良く見ると、彼女の薬指には指輪がはめられていたのだが…その指輪が大きく赤色の光を放ちながら熱を発していた。


 驚いた俺は手を離そうとしたが…彼女がそのままガッシリ指を組んでしまい、手を離すことは出来なかった。


「あちちち!! ちょ、熱いんだけど!!」


「我慢せい…これだから女知らずは…。」


「理性の話をしてんじゃねぇよ! 熱いっていってんの!」


「分かっとるわ…ふざけるのは無しじゃ、行くぞ。」


「行くって何処に…うおっ!?」


『行くぞ』とそう言った瞬間、その指輪から溢れた光は小さな粒の様な…いや、何処と無く『泡』に近い姿に代わり、俺達を包み込んだ。


 その光の泡に包まれた俺は、目の前が真っ白な世界に包まれ…言葉を出すことも出来ず、ただ為すがままにするしかなかった。


 身体が浮くような感覚に襲われ…途端に眩しさを感じ、目を瞑る。

 そして俺は…一瞬眠りに落ちたような感覚に襲われ…意識を閉じた。


※※※


 どれだけたったか…ふと意識を取り戻し、目を開くと…眩しさが残っているため、周りの事が全く見えずに居た。


 目を一生懸命擦りながら、目を徐々に慣らしていると…横から彼女の声が聞こえた。


「うむ、少し刺激が強かったかの? 我もこの魔法ばかりは加減が出来ん…まあ許してくれ。」


「な…何だ? 何が起こったんだ?」


「ほれ…己の(まなこ)でしかと見るんじゃ。

ここは…今のお前にとって必要な場所になる筈じゃからな。」


 徐々に目が慣れ…周りの風景を目が描写し始めた。


 ふと感じると、そよそよと気持ちのいい風が俺の身体の側を流れていく。

水の音も聞こえる…どうやら、ここはさっきまでのレン達の店とは違う場所の様だ。


 魔法…と言っていたが、つまり『転移魔法』的な物を俺に使ったのだろう。


 そして完全に目が慣れた俺は…目の前に広がる景色に…驚愕していた。


「な…何だここ!? 遺跡…なのか?」


 飛ばされたと思われる俺の目の前には、(こけ)に覆われた石柱群に、古びた本や絵画が散らばる森の中に立っていた。


 そして…更に顔をあげ、上を見ると…彼女がある物の前に立って俺を見つめていた。


 俺はその…ある物を見て…汗をかく程の困惑と焦りに襲われたのであった。


「ここ…これって…!!」


「やはり…お主なら知っていると思った。


 "あの男"も…ここから現れたからな。

お陰に"匂い"まで一緒と来たら…連れて来ずには居られなかったんじゃよ。」




 彼女の後ろ…そこにあるのは光輝く大きな絵画。


 そこに描かれていたのは……

俺の世界…つまり…明らかに『東京』のビル群、町の風景画が描かれていたのであった。

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