本当の"改心"
ここは町外れ。
あの一件以来、『協会』の彼等はどうも沈み込んでしまって…表だった事が出来ずにいた。
今でも、テーブルを囲んで取る食事の時でさえ、主にジャック、カイン、クウォーラの三人はうつ向いたままだ。
彼等は自分のしていきたいことを答えたつもりだったのだが、それを否定されてしまったことを、今も思い悩んでいるらしい。
レンはそんな彼等に声を掛け、あの時の反省を今でも振り返る。
「あの、リュウノスケさんの事は…確かに仕方なかったと言うべきですが、皆がそんなに落ち込んでいたら活動は再開できません…。
もうこうやって反省を続けてかなり経ちましたが…まだ立ち直れませんか?」
すると、三人が思い思いにそれぞれの反省をのべ、活動への意欲を高めようと試みた。
いつまでもくよくよしていては、行動に支障がでて、更なる問題を起こしかねないのも懸念していた。
まずはジャックが反省を述べることに。
「何度も言うけど…俺はやっぱり自分のしてきたことを改めて償う事をしなきゃいけない気がする。
錬金術に頼るじゃなくて…自分自身で。
でも、俺は錬金術を知りたい…レンに見せて貰った錬金術の資料は、俺に夢をくれたからな。
それと…この前の事はすまなかったなレン…あの少年の言うとおり…よく考えたら俺が自己思念を押し付けたのが悪かった。」
「ジャック…大丈夫ですよ!わたしはこうして無事ですし…まあリュウノスケさんのお陰ですが…。」
レンがそう言うと、ジャックはふふっと微笑んだ。どうやらすっかり戻りつつある様だ。
そのあとも、カインとクウォーラも自分の思いの丈を存分に話した。
自分の発言から見えた自己中心的な考えと、それを正義だと思い込んでいた事に気付いた彼等は、以前にも増して錬金術の有り難みと、それを普及することの大切さを分かち合っていた。
押し付けるのではなく、差し伸べるように教えを普及するのだと。
竜之介の言っていた…『殺す力と奪う力』とは違う『与える、救う力』の方を目指す為に。
「しかし…あの少年ただ者では無かった…理解力も、言っていることも俺達より遥かに卓越してる気がする…。」
「確かに…技術と言う技術に手をつけているような…なんと言うか?」
「カインやジャックの言うとおりね…きっと協力してくれればもっと"錬金術協会"の力になったんじゃないかしら…。」
皆はそう言うと、彼を帰してしまった事に後悔し、何だかまたしても気分を沈み始めてしまった。
レンが慌ててなだめていると…小屋の奥から足音と声が聞こえた。
「あの少年…そう言えばリュウノスケと言う名前だったな。」
「「「親っさん!」」」
「お父さん…。」
すると、小屋の奥からレンの父親が話に割って入ってきた。
どうやら、前には気づかなかったが…何やらその名前に聞き覚えがあるとの事だ。
前回は色々あって話すことは出来なかったが、竜之介の情報は既に様々な町の住人に行き届いていたのだ。
東の森での活躍…とある店での爆発的な売り上げの向上戦略など、突如現れた彼の存在は、何故か情報として出回っているのであった。
「リュウノスケ…ふと現れて、錬金術師の少女と共に行動する少年。
ワシは実際に見た訳では無いが、あの【エリクシール】の素材を取ってきたとの事…それにこの町では見たこともない商法で、瞬く間に商品を売ったとの話もある…。」
「情報屋の筋ですかい?」
「ああ…レンは知っていたのでは無いか?」
父親が聞くと、レンは周りのみんなの視線を感じ…頭をかりかりとかきながら…答えた。
「実は…この前出会った時に…彼がその人だと言うのは直ぐに分かりました。
見慣れない服装に、超人的な思考力…『情報提供者』から聞いた通りです。
しかも調べていた当人に助けられ…挙げ句自らここに来てくれるなんて…思いもしなかったけど。
わたしは…やっぱり彼の事が諦め切れないんです。
わたし達の力になってくれるような気がして…皆さんはどうですか?」
レンは、彼の事を知っていた。
彼もまた凄腕の情報屋であり、それを知らないわけが無かったのだ。
その上で彼を見つけたときは運命すら感じたと言う…そんな彼に、今度はこちらから改めて協力を申し出る事は出来ないかとレンは言った。
無論、彼の父親も三人も、迷わず首を縦に振った。
自分達の歪んだ思いに気付かせてくれたのは彼だ…彼にとってはただの怒声だったのかもしれない。
だが、それが確実に彼等の心を動かしていたのは事実だった。
「もう一度!少年を錬金術協会に呼び込もう!」
「ああ!俺達はこの前とは違う!」
「きっと力になってくれると思いますわ!」
三人は立ち上がり、勢いよくそう言った。
お互いに頷き、同じ思いを共感している。
「うんうん!そうと決まればみんな!リュウノスケさんに謝りに行こう!
そうすればきっとまた話を聞いてくれるはずです!」
レンが言うと、彼等は急いで身支度をし始めた。
これまでの暗い雰囲気などとうに忘れ、新たなスタートを切り出そうとしているその姿に、レンの父親もガハハと笑いながら見ていた。
レン自身も支度を済ませると、三人が後ろに並んで、護衛のようについてくる。
そしてお互いに顔を見合わせ、頷くと…レンはドアノブに手を掛けた。
「さあ!皆さんしゅっぱーつ!」
「「「おーーー!!」」」
ガチャりとドアをあけ…太陽の光が差し込んでくる。
日の光があまり入らない小屋の中に、急に光が入ってくるので、眩しいと感じた四人は目の前を手で隠しながらその光に順応していった。
すると、その光に順応する内に…そのドアの前に人影があるのを確認した。
四人とも目がなれ、その存在に気付くと、その影の正体に…驚愕し目を丸くしてしまっていた。
見慣れない服装に、何処と無く漂う適当感…それでいて少し偉そうな立ち姿。
「えっ?」
「ん?おおレン!それにあんた達もか…よっ!また来たぜ。」
「「「どぇぇえええ!?」」」
なんと、目の前には"彼"がいた。
まさか本当にまた来るとは思っても見なかった彼等は、突如目の前に現れた彼…竜之介の姿に驚いて後ずさりしていた。
すると、そんな彼の後ろにもう一人…見知らぬ少女も立っていた。
レンが、その少女の姿に更に驚いたのは言うまでもなかった。
「あ、あ、貴女は!」
「あっ、こんにちは♪はじめまして!
私はフィオラ・ビスマルクです!リュウノスケさんの保護者として来ました!」
「逆だ逆!フィオラの保護者が俺だろ?」
「むう…そんな事無いですー!」
そんな会話をする彼等を尻目に…驚愕するレンの後ろに立っていた三人は、その名前を聞いて更に驚愕したのか…今度は尻餅をついて地べたに座り込んでいた。
まるでまぼろしでも見ているかの様に驚く彼等とは裏腹に、満面の笑みを浮かべる錬金術師の少女が、竜之介と共にここにやってきたのであった。




