第75話 屋上で
「聞いた。総裁っておばちゃんなんだな・・・。」
給水塔の上に腰掛けてルカはそう切り出した。
ハルは頷いて顔を伏せた。
「ん。そう、私が憎い女の子なんだって。」
「お前は、お前なのにな・・・。」
「それに私のせいで・・・トウヤは死にかけたから。」
ルカは何度も何度もハルの背中を撫でた。
「なあ、見てみろよ。・・・なんか・・・こうやって見てると街の明かりって宝石みたいだな。」
日が沈み、時間を経るごとに増える街の灯火。
それは明かりを失いかけたハルの心に少し明かりを引き戻した。
「本当だ。綺麗・・・。」
冷たい風が吹き、ハルが身をすくめるとルカは自分のパーカーをハルにかぶせ手を握った。
「冷えきってんじゃん。冷たい手。」
ハルはその暖かい少しゴツゴツした手をきつく握った。
「ま、五人そろったし。あれだ、あれ。お前にはトウヤが戻ってきたんだ。もう大丈夫だよ。だって降霊するぐらい好きだったんだもんな。」
「ん・・・ずっと、見てたって。」
「そっか、前にお前が降霊してたときに視線感じた。あいつだったんだな。だったら俺たちの前に現れろってんだよな!」
ルカ顔はもう暗くて見えなかった。
けれど声だけは妙に明るかった。
ハルはそんなルカに指を軽く絡ませた。
ルカは気付くと逆にきつく指を絡ませた。
「いつも温かいねルカの手。」
「お前が冷え性なんだ。でも、これからはトウヤがいる。あいつに守ってもらえばいい。」
「うん・・・。そうだね。そう・・・。」
(ルカの言っていることは当然のこと。でも、でも・・・どこかでまだルカに傍にいてもらえることを期待していた。好きだと言ってもらえることを望んでいた。)
顔を見たときは安心したはずなのに、ルカが自分を諦めたようなことを言うと苛ついてどうにも止まらなかった。
繋いでいる手をいくらきつくしても何故か心は寂しくなった。
「あのイチゴパンツだってトウヤとの一番大事なときに使えよ。」
「は?何でルカがそんなこというの?」
「え?」
むしろ表情が分かれば自分がどんな顔をしているかルカに分かって、ルカがどんな顔をしているか分かったのに。
それができないのがもどかしかった。
「戻る。」
「何だよ。」
「戻る!」
ハルがパーカーを脱いで無理やり立って降りようとするとルカが体を支えた。
「何してんだ!大人しくしてろ!傷開くぞ。」
「触らないで。」
「何怒ってんだよ!」
「わかんない!私にだってわかんないよ!」
「何だよそれ・・・。」
「もう放って置いて!」
「分かったよ!」
ルカもムッとして無理やり抱き上げると屋上から降りた。
ハルは抱き上げられながらルカの顔を見た。
怒っているのが見るだけで分かった。
(何でこうなったんだろう!)
抱き上げられながら廊下を進むごとに悲しさと悔しさが増し、涙の量も増えた。
「何で泣いてんだよ!お前わがまますぎ!トウヤに散々甘やかされたのか?」
「もういい!放して!」
暴れたがどうにもならなかった。
その声を聞いてトウヤが顔を見せた。
「あ、二人ともご飯・・・どうしたの?泣いてたの?」
「はいよ!出かけてくる!」
ルカはトウヤにハルを預け歩いていった。
「なんかあった?何処に行ってたの?」
「屋上。夕日が綺麗だったから。」
「起こしてくれたらよかったのに。」
「ごめん。トウヤも目の下にクマあったし。」
トウヤは微笑むとハルの額に口付けた。
「泣き止んでよ。ご飯食べよ。でも、あいつ今から何処行くんだろうな。」
「知らない。あんな奴。」