第62話 再会
「おはよ。」
「あれ・・・寝てないの?」
同じベットの中でハルを優しく見ていたトウヤの金色の髪は朝日を浴び透けていた。
「寝たよ・・・。でもハルが可愛くて見てた。」
「何、それ。もう・・・。」
トウヤは照れるハルの額に口付けた。
「今日、俺、あの五色米の方へ行ってみる。」
「あ、じゃ、私も。」
「ハルは待ってて・・・。総裁に狙われてるからさ。すぐに戻る。」
ハルはしばらく黙ったが邪魔になりたくはなくて小さく頷いた。
トウヤが着替えて出て行った後ハルはもう一度布団に包まった。
「総裁に狙われてる・・・か。」
総裁は暗部や構成員を動かせる。
自分より強くそして熟練した者達を。
そんな者達が自分に襲い掛かってくる。
いくら暗部といってもトウヤにだって限界はあるだろう。
トウヤの体これ以上自分のせいで傷はつけたくなかった。
折角生き抜いてくれた大切な人なのだから。
ただ一人でそんな奴らを相手にするとなると心が折れてしまいそうで、そばに誰もいなくなると心のどこかが寒かった。
いつもそばにあった温もりが欲しかった。
「ルカ・・・。ソウマ・・・。」
自分を助け続けてくれた二人は今どこで何をしてるのか。
もしかしたらこの寒い中、どこかで野宿しているのかもしれない。
自分を探してくれているのかもしれない。
寒さを満たすためハルは無意識のうちに服を着替えて外へ出た。
「動き出した。さ、あの暗部、足止めしないとね・・・。」
総裁は宿から出てきたハルを見て笑った。
「寒・・・。」
足はいつもの公園に勝手に向かっていた。
ルカがいるかもしれない。
そんな気がした。
公園は銀杏の落ち葉で鮮やかな黄色の絨毯が出来上がっていた。
「何だ・・・誰もいない。」
ハルはいつものベンチに座りマフラーの下に隠れているペンダントに触れながら、目を閉じた。
「何だか・・・寒いよお。いつからだっけ手を繋ぐようになったの。トウヤといるときはそんなこと無かったし。トウヤがいなくなって暫くして・・・、そっか、私が初任務で敵に襲われたときからだ・・・。薬にまだ慣れてなくて動けなくて足怪我したとき、ずっと手を握ってくれて・・・。」
(気を失っている間、ずっとトウヤが握ってるって思って、目を開けたらルカでがっかりした気がする。でも、それから二人の時は、寒いと思ったときはいつも握ってくれて。)
「そろそろ顔見せてよ・・・。会いたいよ・・・いつも私とトウヤが二人でいると邪魔するくせに、何で今回は出てこないの・・・。ホント女心が分からない馬鹿なんだから。」
自分の求めてた匂いはトウヤのものだった。
けれど、自分が慣れた温かさが恋しかった。
まっすぐにいつも自分を見てくれるルカの目が懐かしかった。
(会いたい・・・。逢いたいよ・・・。ルカ。)
「今度あえたら何しようかな。おいしいお茶とケーキ奢らせて、洋服、まとめ買いにいくのつき合わせて・・・。ん?」
ハルは少し考えて目を開けた。
人気の無い公園の入り口に散歩している人がいるのが見えた。
「それってルカといつもやってるか・・・。」
もう一度目を閉じて思い返す。
いつもケーキ食べながら窓の外を見ているルカの横顔が浮かんだ。
(黙ってると男らしくて、ほんのすこーしだけカッコよくて・・・当たり前のようにケーキ取り合いっこして・・・。)
思い出は尽きなかった。
「早く・・・来てよ・・・。」
目を開けるとそこに少し濡れたまっすぐな目があった。
(来て・・・くれた・・・。これは夢?)
「・・・また泣いてる・・・。泣き虫。」
「・・・目から鼻水だ。バーカ、お前こそ降霊されてきたのかよ。」
ハルが言葉を返すよりも先にルカはハルを抱きしめた。
ルカの体温はいつも隣にあった温かさだった。
「どれだけ心配したと思ってんだ、馬鹿!」
「ごめん・・・。」
ハルも目を閉じて抱きしめ返した。
その熱いほどの熱で自分の心はまるで溶かされてゆくようだった。
「ルカ・・・いつも温かいね・・・。」
ハルの目頭にほんの少し涙が滲んだ。
ルカに会えただけでこれほど自分の感情が動かされるとはハル自身思ってはいなかった。
今まであることに慣れすぎた存在だった。
そしてルカはとても優しく髪を梳いて呟いた。
「ハルだって・・・、すげえ温かい。」