第6話 任務その壱
「時間ですね。」
一八日の早朝、待ち合わせ場所の木下には黒い外套を着た三人がいた。ソウマが銀色の懐中時計で時間を確認し顔を上げる。
「寒いなあ・・・。眠いのに・・・。」
垂れた目をいつものように更に垂らしながらハルは浅葱色の手袋をした手に息を吹きかけていた。
「しかし、この前まで暑いと思ってたらもう冷たい風吹くようになったなあ。」
「違うよお。もう長袖でいられないときもルカは半そでで暑いって言ってたし。ずっと前から涼しくはなってたよ。」
「ハルが冷え症なだけだ。運動しろ、運動。」
一方、待っている間、木につかまり懸垂しているルカは玉のような汗を浮かべていた。
「しっ。」
ソウマが形の整った唇の前に人差し指を出し、耳を澄ませた。
遠くから馬の蹄の音が聞こえた。それは戒の待っていた者であった。
「戒だな?ご苦労。」
中年の男が声を潜めて聞く。
男は一見鼠のように小柄な商人の風体であるが、賓度羅跋羅惰者に於いて密輸部門を管理する男であった。
ハルたちもこの男の存在は知っていた。
「ええ、警護します。」
「ああ、頼む。最近我々の部門も国境警備が厳しくなり、若い者たちが何人も失敗している。我々にとって密輸は大事な外貨獲得にも関わらずだ。」
「メンターからも厳しくなってるってのは聞きましたけど、そんなにひどいんですか?」
「ああ。お前らのメンターはカイクだったなあ。そう言えばあいつは警護の腕も超一流だったもんだ。懐かしい。」
男は黒い牝馬を撫でながら続けた。
「上層部の話では我々を壊滅させようと国自体が動いているようだな。組織の人間だと分かれば容赦なく殺されているということだし。実際いくつかの部隊が消されている。」
「そう言えば、そんな話この前食堂にいたやつらが話してたな。」
「聞きますね。そういう話。」
「へえ、そうなんだあ。知らなかったあ。」
「だから!お前気をつけろよ!むしろお前が一番気をつけろ!」
ルカに頬をつねられハルは頬を膨らませて睨んだ。
「私だってやるときはやるんだからね!」
「そうですね。ハルはやるときはやりますよね。ルカよりも頭はいいしね。」
「ね〜。」
「そろそろ行くぞ。」
子供のような会話に男は飽きたのか三人を促し馬を進めた。三人は運ぶ荷物がどういう武器でどの国へ行くのかなど余計な詮索は決してしない。
ただ自分が与えられた仕事を完璧にこなすことだけが彼らに要求されていた。
馬車の後方にソウマ、前方にルカ、横にハルがついた。ルカは常に手を刀にかけ、前方にくまなく目を配り、ソウマは後方から広く周りに気を配っていた。ただハルは眠気と格闘しながら馬車に掴まっていた。
馬車は正規の道ではない裏のルートを通り、崖の下に広がる森の中を通過していた。車輪の通った跡以外は枯れ草に占拠され、陥没や水溜り、小石が見受けられる舗装されてない道だった。
通るたび馬車が上下に揺れ、ガタガタと車輪が大きな音をたてた。
そんな中ソウマの耳に車輪の音ではない何かの音が聞こえたような気がした。視線を崖の上へと上げ目を凝らす。
そして前を歩いていたルカにも何かの気配を感じ手を広げ馬車の進行を止めた。
ハルは装備していた銃を握って周りを見回した。
ルカの前に何か小さなものが飛んできた。
「下がれ!」
ルカの声と同じ時、閃光と軽い爆発が起こった。




