第49話 夢現
(あ、この匂い・・・。)
ハルは探していた匂いで嬉しくなった。
「ん・・・。」
目を開けると暗い場所だった。
ただずっと重い不規則な音が四方から聞こえていた。
「いったあ・・・。」
動くと左腕の矢傷が痛んだ。
(あれ、私撃たれたんじゃ・・・。)
触れた胸に少し腫れはあったが傷はない。
目が慣れてから建物の中にいると分かった。
少し開いた扉の向こうから雨の匂いと湿気を感じて、ハルはやっと頭上のこの重い音が激しい雨の音だと理解できた。
痛みをこらえつつ、扉のほうへ這って行く。
土間に足をつくと扉から外を見た。外もまた闇だった。
「ここが天国なのかな。っていうより地獄?」
雨音以外の静寂。
外へ出ると冷たい雨が体に降り注いだ。
「冷たい・・・。ルカ?ソウマ?何処?」
ソウマと呼んでから瓦礫が頭をよぎった。
「ソウマア・・・。」
自分がトオルを見つけなければ、自分が行けばソウマは死なずにすんだかもしれない。
しゃがみこんで溢れる涙を堪えることもなく流し続けた。
たった三人しかいなかった仲間をまた目の前で失った。
やりきれなかった。
「ソウマ・・・。ごめんね。ごめん・・・。」
もう楽になりたかった。
楽になるのが嘆くよりも簡単だと思った。
「次は普通の女の子がいいな・・・。お父さんがいてお母さんがいて、兄弟がいて・・・。学校通って友達いっぱい作って・・・。」
呟きながら、自らの命を絶つための武器を探した。
銃は見当たらない。
慌てることなく次に胸ポケットから一粒の薬を出し、雨で濡れた手の平に乗せ口を開けた。
手の平にあるのは服毒用の錠剤。
その小ささからこの薬の強力さが見て取れた。
(トウヤ・・・待ってて。今行くから。)
突然手を何かに掴まれ、痛いほどねじりあげられた。
「な、何?」
まるで何かの動物食いつかれ、引きずられているような感覚。
そして力いっぱい床の上に叩きつけられ扉が閉った。
再び闇に覆われ、頭の上で重い音が響いた。
「誰?・・・何?」
返事はない。
部屋にあるのは警戒したハルの小さな小さな息遣いと相手の静かな息遣いだけだった。
暫くじっとしていたが、ハルはまた死ぬための道具を探し始めた。
手に当たったものは自分の外套。
手袋を探してポケットをまさぐると非常時のための食料に触れた。
乾パンや飴、あと、
「そうだった・・・。これ・・・。」
突入の際ルカに渡された桃色の小さな箱。
(え?何・・・これ?発信機?助かる?)
振るとカラカラと乾いた音がした。
箱を開けると何かが下に落ちた。金属のようだった。
「何・・・?」
暗闇の中、手の平で探すと金属の糸に触れた。指先でつまむと先端に重みを感じた。
(ネックレスだ・・・。)
無性にルカに、ルカの笑顔に会いたかった。
「浮気者でごめんねトウヤ。」
そう小さく呟いてネックレスを握った。
それが自分の最下層にあった心を上へと引き上げてくれた。
「ルカ・・・。」




