第4話 メンター
三人の前にはメンターと呼ばれる三十代半ばの指導員が資料を持って立っていた。
すべての部隊には『メンター』が配備されていた。
メンターは幼くして親元から離された子供の心・技・体すべてを兵器として育てる役目を担っていた。
そしてその子供たちが試験に合格し構成員と認められればメンターは上からの任務を伝える伝令役となり、別の子供の育成を始めるが、まだ若いこの部隊にとってメンターは精神的に非常に重要な人間だった。
「次は警護だ。」
「はあ?警護?つまんねえなあ。」
ルカは外套の中からポテトチップを出した。
「警護は重要な仕事だぞ。それにこれ終わったら休みやるから。明日、十八日の午前五時に密輸部門の男とMの三地点で合流後Sの一一六地点まで武器を運べ。最近警備が厳しくなっているからな。警戒しろ。ついでにこの任務は『結』も一緒だ。ただあいつらは今別の任務が入っているから午前十一時にSの四一地点で待ち合わせだ。」
メンターは壁に張り出された暁国地図を指差した。
細かく細かく線で区切られている地図を三人は確認した。
「結ってさあ、私たちの一コ上の部隊だよね。あのナルシストがいる・・・。」
「ああ、そうそう、ソウマを越えるナルシスト。あの前髪のはね具合かなり笑える。」
「私がナルシスト?・・・ルカ、君死にたいですか?」
「い、いえ。嘘です。調子乗りました。」
「やあい。怒られてやんの!ばあか、ばあか。」
「うっせえ!この天然馬鹿!」
「ってか、それ何味?かなり匂うんだけど。」
「これ?ツナマヨネーズ味。」
「気持ち悪。」
「おっさんの匂いさせてるよりましだ。」
「任務なんだし仕方ないよ。だって今回は色仕掛けなんだもん。ね?メンター。」
「なあ、メンターこいつの色仕掛け止めさせてよ!なんの効果もないし!」
「色仕掛けしたくないなら男よりも強くなることだな。・・・そういえばバネッサ帰ってきてるぞ?ハル。」
「おばちゃんが!嬉しい!会いにいってこよ。メンターもう会議終わりだよねえ?」
バネッサという名を聞いたハルの顔は輝き返事を聞く前から立ち上がっていた。
メンターはどうぞといわんばかりに資料を整えてハルに道を譲った。
「なあメンター。無視すんなよ・・・。ハルみたいなペちゃパイ、男は相手にしねえよ。」
「ああいう体型が好きな男もいる。今回のターゲットはそうだったんだろう?だったら十分戦力だ。」
「いや、でも!」
メンターはため息をつくとルカの髪の毛をワシャッと掴んで顔を近づけた。
組織始まって以来の天才と呼ばれ、千を超える任務をこなした男の目にはルカが出そうとしても出せない力が宿っていた。
「甘えたこと言ってんな。若い女の需要なんて体差し出すぐらいしかないだろうが。それとも何か?お前がすんのか?」
ルカは悔しそうに唇を噛むとメンターの腕を振り払った。
「飯、食ってくる!」
「よく噛めよ!」
残されたソウマはメンターを一瞥すると部屋を出て行った。