第37話 第六章 恣意
第六章 恣意
「準備は?」
ルカの言葉にハルは浅葱色の手袋をつけて頷いた。
ソウマも浅葱色の手袋に手裏剣を握っていた。
鳥の声が城を包んだ。
合図だった。
まず黒い球が風を切っだ。
門衛たちは何の音か分からず空を見上げ、それが砲弾と気が付いた時には既に爆発に巻き込まれていた。
爆風と爆音、閃光があたりを支配する。
各門でも一斉に同様の現象が起こった。
一撃では鉄の門を破ることはできなかったが数初喰らうと煉瓦の城壁に一部亀裂が入った。
「さあ、行きますか。」
「ちょっと待って。ハル。これもっとけ。」
ルカは自分の外套から箱を取り出すとハルに振り向くことなく軽く投げた。
「何?」
「いいから!非常食袋にでもいれとけ。後で・・・終わってから見ればいいから。」
「うん・・・。わかった。」
小さな桃色の箱だった。
ハルは言われたとおり非常食袋にしまうと前を見た。
「へえ、これアレですよね。」
ソウマがルカの背中をポンポンと叩いた。
「うっせえ、とにかく、生き残るからな。俺たち!俺たちは最強チームなんだ!」
「そうですね。またあのシギにチームワークをぶち壊されるのはたまったものではありませんし。ハルにはあとでちゃんと事情をきくとしましょう?」
「ちゃんと話すから。全部話すから。」
その言葉にソウマは目を閉じ、ルカも顔を緩めた。
「よし!いくぞ!」
三人は走り出した。
焦げた壁を抜けると中では兵士が消火活動を行い、建物の中からも兵士の指令を伝える声が響いていた。
その中で侵入者に気が付き攻撃してくる者はハルの銃弾によって倒れた。
時折、風を切る音共に塀を越えて大砲の球が落ち、爆発と共に地面に穴を開けた。
(多い。)
改めて思ったことだった。今まで囲まれたことのない人数に囲まれていた。
四方何処を見ても敵。
ハルは風を確認すると鞄から袋を出して粉をまいた。
白い粉だった。
風に乗った粉吸った風下の兵士に異変が起こったのはすぐだった。
その場に倒れ苦しみもがく。
けれど、それもじきに止み全く動かなくなった。
兵士たちに動揺が走った。
その一瞬のひるみをルカの炎が襲った。
悲鳴を上げ転げまわる兵士たちの中でソウマは城壁の上から攻撃をする兵士を見つけ手裏剣を何枚も重ねあわせ人差し指をつけた。
すると手裏剣に稲妻が走った。
「かなり痛いですよ!」
城壁の兵士は白い光を帯びたその手裏剣が刺さった瞬間皆感電し、その場に倒れた。
兵士が見るも無残に散ってゆく中三人は斬り続けた。
爆撃は城をも破壊し上から煉瓦と兵士が降った。
ソウマは兵士を足場にして空へと跳びあがると雷を降らせ、ハルはルカの間合いを見極め敵に銃弾を浴びせる。
三人の周りは軍人が山のように倒れていた。
「ここはもういいでしょう。中へ!」
ソウマの言葉と同時に城の中へと突入した。
中では戦闘員でもない侍女や官吏が逃げ惑っていたが爆撃により容赦なく建物が破壊され、崩れ何人もが巻き込まれた。
ハルは銃を握ってあたりを警戒し、自分達を狙う人間を撃っては弾を補充した。
視線の隅に人の姿が入った。
撃とうと構えてハルは相手と目が合った。
「嘘・・・。」
手を止め立ちすくんだハルに向かって放たれた矢をルカは斬りハルを背中に庇う。
「何してる!気い抜くな!」
「トオル・・・さん。トオルさん!」
ルカが目を上げたそこにいたのは紛れもなくトオルだった。