第32話 それぞれの思惑
暫く彷徨うように歩いてから、ハルは疲れたように噴水に腰掛けた。
心臓はまだ早鐘のように体に響き、足が震えていた。
「どうしよう・・・。」
誰かがハルの背中を叩いた。
ハルの体は驚きで激しく揺れた。
「よっ!ケーキ食うか?」
「ルカ・・・。いつから・・・いたの?」
「今さっき、なんか背中汚れてるぞ?」
「なんでもない。」
ハルは自分の手で背中を払うとルカと距離を置いた。
「何?」
「や・・・。別に。」
(昨日キスしたこと忘れてるのかな。)
ルカは息を吐いてハルの震える手を握った。
「なんか・・・冷たい手、してんな。」
(温かい。それが・・・何か嬉しい。)
ハルはその手を握り返した。
ルカは嬉しいのか更に力を込める。
「昨日のあれ・・・俺の気持ちだから。」
「・・・ルカ。」
「お前が誰を好きでも、俺はお前が好きだ。」
気持ちの整理がつかなかった。
ただ今確実に言えることそれは、
「ルカは友達・・・、仲間として大好きだよ。」
「今はそれでいいよ。いつか俺のこと好きになってくれたらさ。」
ルカははにかんで笑った。
その笑顔が可愛くてハル自然に微笑んでいた。
「さ、帰るか。ソウマが待ってる。」
「え?」
「お帰りなさい。」
ソウマは机の上で書類を作成していた。
ソウマはルカと目を合わせ、ルカは頷いた。
「ハル。聞きたいことがあります。・・・君は静の何を探っているんです?そして君が会ったあの神の御剣、何ですか?」
ハルはただずっと黙っていた。
「目撃していたのは我々だけではありません。暗部も見ていました。」
ハルの目が泳いだ。
(見られてた。やっぱり見張られてた。)
「ハル、我々はチームです。」
「・・・分かってるよ・・・。」
「我々は暗部ではありません。一人で行動してるわけじゃない。支えて頼るためにチームを組んでいるんです。」
それはメンターの口癖だった。
『支え頼るための三人だ。』
奇麗事としか思えなくてハルはそれが大嫌いだった。
「あの神の御剣はこの前私を襲ったやつ。」
「あいつがお前を?」
「顔を知られて、この前からマークされてるみたい・・・。」
それ以上のことは言わなかった。
「で、あの静は・・・?」
「情報を渡してるみたいだった。だってウエイターにしては動きにキレがあるし、ものすごく横目で私たちのこと見てたし、心配になって・・・。」
「あの宿屋はなんですか?」
シギに以前連れ込まれ知ってたなどいえなかった。
むしろ今日あそこに行ったのは全くの勘。
あの男が神の御剣であるという証拠など何処にもなかった。
だが、神の御剣かもしれないと踏んだからこそ、あそこへ足を運んだ。
ハルは二人に嘘をついた。
「話の中ででてきたから・・・。」
「そうですか。しかし、情報を流されていたとは厄介な話ですね。」
「ねえ?私、ずっと暗部につけられてた?」
「ええ。」
「そっか・・・。」
「少しメンターと話をしてきます。ハルに不利益なことは言いませんから心配しないで。」
「でも・・・。」
「暗部が目撃してるんです。何にしろ時間の問題です。」
ソウマはあえて最後語尾を強くして出て行った。
ハルは残された部屋でうなだれた。
「元気出せよ。」
ルカはそんなハルの頭を撫でた。
「すごく・・・後悔したの。」
「え?」
「はじめはあのウエイターがおかしいって思った、静の人が騙されてるんだって。あの人は純真に人を好きになっただけで利用されてるんだって。だから・・・助けてあげないとって思ってあの宿にいったのに・・・。グルだった。いかなきゃ良かった。」
「ハル・・・。でもお前がいかなきゃ情報が漏れて俺たちは死んでたかもしれないんだ。」
ルカはハルの頬に触れ、頭を抱きしめた。
「泣くなよ。なら、お前は情報漏らせるか?」
「そんなことしない・・・。死んでも・・・。それだけは出来ないよ。」
「だろ?俺も漏らさない。そういうことだ。」
ルカは顔をあげたハルの目を見て優しく笑った。
ほんの少しハルの心臓が高鳴った。
「ルカ。今日、・・・かっこいいね。」
「そうだろ?俺にさっさと惚れろ。」
「いやあ、それはないから。」
ハルはもう一度顔を伏せルカの腕の中で目を閉じた。