第33話 どちらが・・・
「何だ・・・これは・・・。」
シギは長官の後ろで部屋の光景を見た。
それがいかに悲惨な光景であろうがシギの顔に変化はない。
ただシギの背越しに部屋の内部を見た人間は堪えきれず、その場で嘔吐した。
血のむせ返る匂いと、屋根にこびりついた血飛沫。
部屋はどんな惨劇がおこったのかというほど血と肉で溢れていた。
「警告・・・でしょうね。」
シギは静かに歩を進め神の御剣の遺体の前にかがみこんだ。
遺体は五体引き裂かれ散乱し、もともと何人の体から分かれたものなのか、何人部屋にいたのか把握できなかった。
「資料は?構成員の資料だ。」
シギが長官の言葉に顔を上げた。
部屋には血で汚れたたくさんの書類があった。
それらは皆宙でばら撒かれたかのように床に散乱し整えることすら不可能に思えた。
シギはそれでも目を動かした。
数枚、数十枚と書面の文字を追う。
けれど部下が受け取ったはずの賓度羅の書類はもうその中にはなかった。
「ありませんね・・・。」
そして次に肉片の中から人を探し出そうとしていた。
特命を帯び、街のレストランのボーイとして情報収集をしていた部下。
首がなくても、腕のほくろや、足の傷などで判別する自信はあった。
「いない・・・。連れられたか。」
部下がどれほど殺されてもやはりシギには動揺はなかった。
後ろで残念そうに部下の遺体を見つめていた長官が静かに声を発した。
「とにかくもうここは使えない。・・・燃やせ。全て消し去れ。」
「は。」
ここで命を落とした彼らのこの無残な遺体は家族に届けられることはない。
ただ殉職したと伝えられ、政府から多額の見舞金が送られる。
賓度羅という暗殺組織のことを隠したい政府は口外を恐れていた。
「なかなか派手にやられたな・・・。」
それでも長官は隊員たちの遺品を家族に届けてやろうと血にまみれた体を探っていた。
「ええ・・・。」
一人の隊員の制服の内ポケットから出てきたのは古びたリボンだった。
「こいつには娘がいたな・・・。」
「さあ。」
シギにはまったく興味のないことだった。
「よく酒が入ると娘の話をしていただろう?無関心では人間としての魅力に欠けるぞ。」
「魅力などいりません。私は力さえあればいい・・・。」
リボンを自分のポケットにいれながら長官はシギに目を向けた
それは挑戦するような瞳だった。
「部屋をこれだけ荒らした者かお前かどちらが強いんだろうな。」
「長官、私を見くびっておいでですか?」
感情を表すことのなかったシギの目に一瞬怒りにも似た感情の起伏が起こったことを長官は見逃さなかった。
「そう怒るな。お前の力は買っているつもりだ。では、質問をかえよう。どちらのほうがより冷酷な人間なのだろうな?」
その言葉にシギはほんの少し驚いたようだった。
暫く唇に手を当てて考えてはいたが結局彼の中で判断はできかねた。
「・・・さあ、それは分りかねます。どちらでしょうか。」




