第26話 鷹紋家、妻
館に入ってもルカは前を歩く背の高いすらっとした美人を目で追った。
トオルとは少し違う顔。
栗色の巻髪に品良くつけられた薄桃の大粒の真珠の首飾りや耳飾りがこの女の美しさに更に彩を添えていた。
「客間に連れて行って差し上げて。私トオルに話をしてくるから。」
「かしこまりました。」
執事と離れて女は階段を上がっていった。
一方、ハルは執事と女を迎えに出たメイドに運ばれ寝かされた。
「水持ってまいりますね。」
メイドの言葉に頷いてルカはその場に腰を下ろした。
執事はハルの脈を見ていた。
「すいません。」
「いえいえ。脈も大丈夫なようですし。しばらくここで休ませておあげなさい。」
執事が出て行ったのを確認するとルカは盗聴器をつけソウマ達二人の様子を確認した。
「あら。お母様。おかえりなさい。」
「トオル、今日陛下とお話をしてきたのよ。貴方を王子の正妃にという話、城内でも進んでいる様ね。」
「・・・あのね。お母様。そのお話待ってもらえないかしら。」
「何を言ってるの?何が不満だというの?」
「あの、あの、だから・・・なんでもないです。」
トオルが引き下がると母親は何も言わず出て行った。
すぐに扉の開く音がしてトオルの泣き声が聞こえた。
「私・・・嫌です。私、ソウマさんが好きなんです。」
「トオルさん・・・。」
「今まで親の言うとおりに何でも聞いてきました。お稽古事もお友達も。でも、でも、違うんです!私初めて欲しいと思ったんです。だって、相手はまだ九歳なんです!嫌です!私は、私はソウマさんがいいんです!」
「超・・・わがまま。」
「ハル・・・、気が付いたのか?」
ルカがベットサイドに腰掛けるとハルは盗聴器の受信機を外した。
同時にメイドが水を持ってきた。
ハルは体を起こし微笑み受け取ると一気に流し込んだ。
メイドはコップを受け取るとお大事にと声を掛け部屋を去った。
「親がいて、お金もあって贅沢して・・・何わがまま言ってるのかな。私、この子嫌い。」
「まあ、金持ちなりの苦労ってのがあるんだろう。」
「どんな苦労?それ私たちよりも大変?」
「何怒ってんだよ。」
「だって、わがままだから!」
「人は人、俺らは、俺ら。」
「でも!」
「どうしたんだよ?今日は。」
扉が叩かれて今度はアヤが入ってきた。
ハルはルカ程この女性に興味は湧かなかった。
「あら気が付いたのね。」
「すいません。助けていただいて・・・。」
ルカが頭を下げるとハルも頭を下げた。
女はハルの顔をしばらく見て、眉間に皺を寄せ目を反らした。
「いいえ。当然のことをしたまでですわ。貴方たちは王都の方?」
「いえ、地方から来ました。」
「地方?」
「ええ、ロナレー出身で。あんまり若いのがいないんで出稼ぎにきたんです。」
ルカは用意していた嘘を並べた。
「この子は妹さん?」
「え?いや、一応恋人ってゆうか・・・。」
ルカは傍目に分かるほど照れていた。
女は腕を組みそんなルカの話を聞いていた、そして頑なにハルを見ようとはしなかった。
「あの、俺お手洗い借りていいですか?」
「ええ。」
ルカが女に教えられ出てゆくと二人になった。
暫く沈黙が続き、女が言葉をかけた。
「いいわね。優しい彼で。」
「・・・はい。」
「私にも娘がいるのよ。でも今はその縁談で大変。」
「そう・・・なんですか。」
「ええ。自由な貴方たちがうらやましいわ。」
(何が自由?)
「奥様、だんな様がお帰りです。」
「今行くわ。じゃあ。」
アヤの足音が遠ざかると、ハルはこっそり顔を出した。
「ああ、アヤ。城に行ってたのかい?」
「ええ。トオルの縁談を勧めに。」
見える男は四十位の男で背が高く、少し腹回りに肉がついていたが、
黒い大きな目でアヤを見つめる穏やかそうな人間だった。
(この人が栄を倒した・・・神の御剣の長官。)
その男の空気はメンターとは正反対といっても違いない。
ハルはただ無防備にその男の観察を続けていた。
「で、今度はここで何してる?」
あるはずのない部屋の中からの声に慌てて振り向くとシギがいた。




