オクトハーブ前男爵は怒る
弓による攻撃を受け激怒したモンスターは、湖畔に上陸するや、巨大な目を爛々と光らせ、長い触手を伸ばして弓隊に襲いかかった。弓隊を構成している戦士たちは、武器を弓から剣に持ち替え、果敢に挑みかかる。
戦士たちは、ともかくもモンスターを上陸地点に釘付けにするよう、モンスターを中心とした陸上側半円形に隊列を組み直し、モンスターを取り囲んだ。
「敵は強力だ。しかし、我々の日頃の訓練は、どんな強敵にも負けないはずだ!」
隊長であろう、ダミ声が辺りに轟く。それを合図にして、戦士たちは一斉にモンスターに斬りかかった。バーンたち一行も、戦士たちを援護するため攻撃に加わろうとしたが、「邪魔だ」という、怒鳴り声と言ってもよいであろうダミ声に一喝されたため、戦いを遠巻きに眺め、声援を送る以外なかった。
モンスターと戦士たちの集団の戦いは続いた。モンスターの皮膚は、ジギスムントのバトルアックスが刃こぼれしてしまうほど固く(すなわち防御力が非常に高く)、戦士たちが集団で斬りかかっても、たやすく有効なダメージを与えることはできなかった。
戦士たちは、モンスターの攻撃に懸命に耐え、各自が自分の持ち場を死守することで、モンスターを湖畔の上陸地点より先に進ませることなく踏みとどまっているが、形勢は容易ではない。むしろ、少しずつではあるが、戦士たちに犠牲者も出ている様子。
「それ見ろ、我々が加勢すると言ったのに、無視するからだ。バカな連中だ」
バーンは、戦士たちが苦戦する様子を見て、ある程度は溜飲が下がったようだ。「ざまーみろ」みたいな感情が、表情にハッキリと表れている。
ところが、その時、
「どちらが、バカな連中なのでしょうかね!」
モンスターと戦士たちの戦い見守るバーンたち一行の後方から、怒気を含んだ声が響いた。バーンたちが振り向いてみると、そこにいたのは、前回話した時の好々爺ぶりがウソのように、苦り切った顔をしたオクトハーブ前男爵だった。
「『どちらが、バカ』ですって!? それは、どういう意味なのか。まさかとは思うが、この将来の大騎士、バーン・カニングのことを言っているのではないでしょうね!」
早速食って掛かったのは、バーンだった。
「あなた方は、まったく、とんでもないことを仕出かしてくれましたな」
オクトハーブ前男爵は、「はぁ~」と大きくため息をつき、右手を上げて合図を送った。すると、前男爵の配下の者たちであろう、モンスターと戦っているのとは別の戦士が20名程度、武器を構え、バーンたちを包囲する。
サイラスは、「うっ」と驚きの声を上げ、
「ち……ちょっと、待ってください、オクトハーブ前男爵。我々は…… とにかく、まずは落ち着いて、話し合いでいきましょう」
「何が『話し合い』ですか! よく、そんなことが、言えたものだ!!」
オクトハーブ前男爵は、完全におかんむりのようだ。




