モンスター上陸
モンスターは、バーンたち一行がいるすぐ前に、その巨大な全貌(もちろん水面下に隠れている部分はある)を現すと、長い触手を使って攻撃を始めた。
バーンたち一行は、前衛のバーンとジギスムントが剣と斧による物理攻撃、後方からサイラスとマリーナが魔法攻撃、戦闘能力に乏しいエディとチャーリーは、とりあえず手持ちの飛び道具を使っての助勢という形で、モンスターを迎え撃つ。
戦闘を開始して数分後……
ガチィ!!!
ジギスムントが、モンスターの触手の渾身の一振りを斧で受け止め、
「なっ、なんじゃ、この固さは……」
と、驚きの声を上げ、思わず舌を巻いた。
ジギスムントのバトルアックスには、攻撃を受け止めた拍子に少々刃こぼれが生じている。モンスターの皮膚は、イカが巨大化したような外見にかかわらず、鋼のように固く、ゴムのように柔軟だった。
「ひるむな、がんばれ!」
バーンは剣を振り回しながら、声をかけた。ちなみに、この時点でモンスターの攻撃がバーンに対して命中していないことは、奇跡的である。
バーンは後方を振り返り、
「サイラス、マリーナ、魔法の支援を頼む!」
「分かっています!」
サイラスはやや怒気を含んだ声を上げた。実は、バーンとジギスムントがモンスターとの接近戦を開始する時点で、サイラスもマリーナも魔力を行使していたのだ。それは、相手を眠らせる魔法であったり、麻痺させる魔法であったり、いわゆる戦闘支援魔法と呼ばれるものである。ところが、二人がいくら頑張って魔力を行使してみても、このモンスターには一向に効果がなかった。
「どうなってるの? 魔法が全然効かないわ」
マリーナは悲鳴に近い声を上げた。
「分かりません。ただ、このモンスターは、魔法にかなりの耐性を持っているようです」
「そんなこと、言われなくても分かるけど」
魔法が効かないことと、魔法に耐性を有していることは、ほぼトートロジーである。マリーナは、そんな答えをサイラスに期待していたわけではなかったが、今すぐこの場で事象を分析して答えを出せと言うのも無理な注文だろう。
しかし、驚きは、極めて固いモンスターの皮膚だけではなかった。
「あっ、あれ!? そんな、馬鹿な!!!」
バーンは狼狽し、剣を取り落としてしまった。その傍らで「しっかりしろ」と怒鳴っているジギスムントの声も、落ち着きを失い、完全に上ずっている。
「まっ、まさか!!!」
今度は、サイラスも悲鳴に近い声を上げた。
その「まさか」とは……すなわち、モンスターが長い触手を陸上の自然物あるいは人工物に絡め、自らの身体を水上に持ち上げようと、つまり、湖畔に上陸を始めようとしたのである。




