戦闘開始
チャーリーとバーンは程なくして、どうにかこうにか(這ってはいないが、「這々の体」である)サイラスやマリーナたちの待つ湖畔に泳ぎ着いた。
「まったく、しょうがないやつらじゃ」
力自慢のジギスムントが腕を伸ばし、「よいしょ」と、チャーリーとバーンを湖畔に引き上げる。なお、二人は素っ裸だったので、その間、マリーナは顔を背けていた。
湖から現れた、バーン待望の(その割には、ぶざまなことこの上ない逃げっぷりであったが)モンスターは、巨大なイカのような形態で、頭より上の外套膜が10メートル、触手の長さも10メートル程度あろうか。モンスター学というものがあるならば、そのモンスターは、学問上、クラーケンに分類されるであろう。ただ、伝承にあるクラーケンは、もともと寒冷地の海中に棲息するモンスターであり、バーンたちの前にいるものに比べはるかに大きいのであるが、この際なので難しいことは言わず、淡水性かつ小型のクラーケンもありということにしよう。
二人は濡れた体をタオルでふき、服や防具を身に着け、ホッと一息。
サイラスは、半ば本気で怒ったような顔で、チャーリーをジロリとにらみ、
「説明してもらいたいものですね。あなたが『シーフギルドで得た情報』とやら、まったく当てにならないじゃないですか。もっとも、今は……」
「そうだ、とにかく今はモンスターだ!」
バーンはサイラスの話をさえぎって言った。
「モンスターが逃げ切れなくなって、我々の前に姿を現したんだ。今こそ我々の力を結集し、モンスターをやっつける時だ!」
「バーンの言うことは、一応、部分的に理に適っているところはありますがね……」
と、サイラスは彼にしては珍しく「ちっ」と舌打ちし、ため息をついた。
「そうじゃな。ただ、モンスターをやっつけるとしても、どうする?」
ジギスムントは「う~ん」と腕を組み、どうしたものかと思案している。バーンたちは陸の上、モンスターは水の中である。甲冑を脱ぎ、比較的小さく軽い武器だけ持って水中戦……バーンならやりかねないが、常識的には論外である。
他方、神殿からオクトハーブ湖に突き出した先の祭壇及びそこに至る狭隘な通路では、神官たちが神殿に向かって逃げ帰るところだった。ただ、通路の幅が狭いこと、高齢(老齢)の神官が比較的多いこと、神官の衣装が運動に不向きなこと等々の理由により、避難に少々時間がかかっているようだ(通路から湖面に転落することはないにせよ)。
モンスターは、狙いをチャーリーやバーンから神官たちに切り替えたのか、その通路に肉薄し、水中から長い触手を伸ばしている。
「あの人たちが危ない。助けなければ! マリーナ、サイラス、魔法攻撃だ!!」
バーンがその通路を指し、叫んだ。いきなり指名を受けたサイラスとマリーナは、「やれやれ」と顔を見合わせた。とはいえ、見殺しにするわけにもいかないので、魔法の呪文を……というわけで、戦闘開始である。




