モンスターの蒲焼きはうまかろう
一方、もうひとりの「承伏できない」派であるエディは、チャーリーをつかまえ、その耳元で、少々非難口調を交えてささやく。
「チャーリー、どうして、あんなこと、湖にモンスターなんて……」
「モンスターかい? ああ、そうだな、俺にとっては、いようがいまいが構わないがな」
すると、エディは「えっ」と驚き、
「そんな、無責任な。だったら、気を利かせて『モンスターなんていない』って、言ってくれればよかったのに。もちろん、うそは良くないけどね。これくらいの方便なら……」
「いや、方便じゃなくて、モンスターなんて、まさか…… いないだろ」
「えっ、そうなの!?」
エディは、今度はギョッとして、大きな声を上げ……そうになった。しかし、その瞬間、チャーリーがすぐに「しまった」という顔をして、エディの口を押さえた。
「どうした、エディ、何かあったのか?」
先頭を早足で歩くバーンが、歩調を緩めることなく言った。
「いや、別に。モンスターの蒲焼きはうまかろうな、という話だ」
エディに代わって答えたのは、チャーリー。
バーンは「ちっ」と舌打ちすると、何も言わず、そのまま歩みを続けた。
「ふ~、危ない。俺としたことが、ミスったぜ」
と、チャーリー。そして、エディの口に当てていた手をのけて、
「仕方がないな。大きな声を出さなけりゃ、教えてやるよ」
チャーリーの説明によれば、昨日来シーフギルドで得た情報として説明している話は、バーン向けに脚色した部分があり、必ずしも正確なものではないという。
すなわち、モンスターの存否については、シーフギルドとして確認していないし、関心をもって調査を行ったこともない。ただ、オクトハーブ自由市の港やオクトハーブ湖あるいはその周辺において、変死や行方不明の例が比較的目につくことから、数年に一度くらいの頻度で、港や湖に何かモンスターのようなものが棲息しているという「都市伝説」が広く流布することはあるらしい。
しかし、その「都市伝説」を真に受けて、モンスター退治のための潜水調査などを行う冒険者は絶無である。というのは、港あるいはオクトハーブ湖の水深は、港の岸壁や湖岸からほぼ垂直に70メートル以上に達するので、そもそも素潜りで湖底に達するのは常識的には不可能だからとのこと。
「じゃあ、結局、モンスターは?」
「さあな。いるかもしれないし、いないかもしれない。ただ、これだけ期待して何も出なかったとなれば、バーンの馬鹿野郎もモンスターを諦めるだろうよ。だからさ」
と、チャーリー。
すると、エディは疲れた顔でうなだれ、もう一度「ふぅ~」と息を吐き出した。そして、何も言わず歩調を早めた。
しかし、チャーリーは、内心、ほくそ笑んでいた。実は、今の話にも、多分に誇張あるいは虚偽が含まれていたから。チャーリーの本当の狙い……それは、程なくして、彼の行動により明らかにされるであろう。




