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南北大運河

 バーンたち一行が目指すのは、北の大河の支流と南の大河の支流を結ぶ「南北大運河」沿いの物流の拠点、オクトハーブ自由市である(冒頭で「水路」と紹介したが、厳密には「運河」である)。ちなみに、帝国大運河とは、今から100年ほど前に完成し、北の大河及びその支流を中心とする帝国北部・中部の水上交通と、南の大河及びその支流を中心とする帝国南部の水上交通を結びつける交通・物流の大動脈であり、特に南方の物資を帝都に運搬するために死活的な重要性を有していた。


 バーンたちは帝都の「冒険者の宿」で仕事を請け負い、その遂行のため、運河で物資等を運ぶガレー船に乗せてもらい(もちろん、乗船料は支払っている)、オクトハーブ自由市の実力者、フランク・ヴィンセント・ハンフリー・オクトハーブ前男爵のもとに向かう途上にあった(ちなみに、「前男爵」とは、爵位を息子に譲り隠居中という意味)。

 バーンたちが請け負った仕事とは、オクトハーブ前男爵のもとへ、とある重要な物を配達すること。それが具体的に何であるかは、バーンたちには知らされていない。両手で抱える程度の大きさの頑丈な木箱に入れられており、戦士や魔法使いがいるパーティーに配達を依頼するくらいだから、盗まれたり破損したりすると困る大切な物なのだろう。配達の期限は今日を入れて三日後(明後日)、それまでに荷物をオクトハーブ前男爵のもとに届けなければならない。期限を過ぎると報酬をもらえなくなるばかりか、高額の(簡単に払えるような額ではない)違約金も取られるというから、バーン自身は「ショボい」と表現しているものの、結構シビアな面はある。


 バーンたちを乗せたガレー船は、滑るように水上を進んでいった。この辺りまで来ると、運河幅が次第に広がっていく。日は既に西に傾いていた。

「よし、今日中には着きそうだな。予定どおりだ」

 再び甲板に出たバーンが言った。南北大運河の北端と南端を結んだ中間地点には、オクトハーブ湖という巨大な人造湖が設けられており、湖の東側の湖畔にはオクトハーブ自由市の街並みが広がっている。

「ねえ、バーン、やっぱりここにいたのね」

 毎度のパターンだが、バーンに声をかけたのは、エルフ娘のマリーナだった。

「オクトハーブの町って、どんなところかしら。着いたら、楽しいことしようね」

 マリーナはにっこりと微笑みかけ、バーンにまとわりついた。これも毎度のパターンである。エルフの娘にしては品がないと思う人もいよう。実は、驚くなかれ、マリーナはバーンと出会う前、エルフの村の長の娘、すなわち深窓の令嬢であった。両親への反発があったのか、外の世界を見てみたいという好奇心か、単にそのような年頃だったのか知らないが、とにかく、マリーナはなぜかバーンに惹かれて村を飛び出し、以後、バーンと行動をともにすることとなった。

「見えてきたぞ、オクトハーブの町だ」

 マリーナから逃げるようにして、バーンは言った。

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